「 CROW - after that - 」 8。。 | ||
和葉と蘭が少し落ちついてきた時、平次はそっと蘭に話しかけた。 「ねぇちゃん、そのまま聞いてくれるか。」 和葉は驚いて平次の顔を覗きこんだ。 すると平次は、「大丈夫や。」と和葉を安心させるようにその瞳を見つめ返してきた。 新一の腕の中で小さく蘭の肩が揺れる。 新一も「大丈夫だ。」と言わんばかりに、その腕に少し力を込めた。 「葉は俺が望んだから、生まれて来たんや。俺が和葉の側に居ってやれん代わりに、葉が和葉を守ってくれっとった。やから葉は俺の分身であり、ほんまに俺が欲した娘なんや。詭弁でも何でもあらへん。葉は俺の娘や。和葉と俺の大事な娘なんや。この思いはこれから先も決して変わることはない。やから葉に会われへんかった3年間を、和葉を独りっきりにせんでくれた娘に、俺はこれからも生涯をかけてでもその時間を埋めていきたい思うとる。」 平次は蘭に話しかける同時に、和葉にも自分がどれだけ葉を大切に想っているのかを伝えたかった。 和葉に葉が平次の負担になるなんてことは、二度と思って欲しくなかったのだ。 平次自身、今では葉が居ない生活など考えられなかった。 ・・・・・・・・・・・和葉がおって葉がおって良平がおる場所こそが、今の俺の安息の場所なんやからな・・・・・・・・・・・・。 和葉にもそうあって欲しいと。 そして蘭にも、幸せになって欲しいと心から願っていた。 「和葉ちゃんも、聞いてくれ。」 今度は新一が、和葉に語り始めた。 「葉ちゃんは誰にも祝福されない子供じゃない。俺たちみんなに必要な子なんだよ。葉ちゃんのおかげで、オレは、蘭がどんなに大切なのかを改めて気付かせてもらった。だから、オレが嫌な思いをしてるなんて気にしなくていい。寧ろ、逆だからさ。そして、葉ちゃんは服部と和葉ちゃんの娘だよ。どんなに和葉ちゃんたちに愛されてるか、葉ちゃんがどれだけ自分の両親を好きかなんて、見てれば分かるよ。」 新一があえて、和葉に謝らないことに蘭は気づいていた。 そして、そんな新一の優しさに、嬉しくなった。 新一が謝ればそれは葉を否定するこになってしまう、蘭ももうそれは望んではいないから。 新一にもそれは分かっていた。 心根の優しすぎる蘭が、和葉がこれ以上傷付くことを望みはしないと。 そんな蘭だから、新一の心を満たしてくれるのだ。 ・・・・・・・・・・・・オレの側には蘭と杏樹がいる・・・・・・・・・・・・これ以上の幸せはないよな・・・・・・・・・・・・・・・・。 蘭もきっとそう思っているだろうと。 だから、和葉にも幸せになって欲しいと思うのだった。 和葉と蘭はそれぞれの愛しい腕の中で、お互いを振り返り、嬉しそうに微笑み合った。 そこに、さっき二人が交わした切なさはない。 自分たちがどれほど彼らに大切にされているのか、分かったから。 もう独りで泣かなくてもいいのだと知ったから。 4人とも誰かを傷つけ、誰かから傷つけられて。 夫婦で、男同士で、女同士で、そして4人で、それぞれに思う事があって。 それでも、これからも共にいたいと願う。 生涯の伴侶として、良き友人として。 その夜、リビングにはいつもより温かい明かりが灯されていた。 翌日、二家族で賑やかに朝食をとっていると、初めに新一の携帯が次に平次の携帯が鳴り出した。 二人の様子から、それが、いつもの呼び出しであることは疑いの余地がない。 和葉と蘭は、お互いに「やれやれ」と小さく肩をすくめ、そしてそれでも嬉しそうに彼らに必要なモノを取りに行った。 二人が彼らのジャケットなどを手に戻って来ると、ちょっとバツの悪そうな彼ら。 どうやら、一応断ってはくれたみたいだけど、ダメだったらしい。 平次に至っては、和葉たちを残して先に大阪に帰らないといけなくなったようだ。 「すまん。」 和葉は可笑しそうに、 「いつものことやん。」 と手に持っているモノを渡す。 「わりぃ蘭。」 蘭はちょこっと拗ねたように、 「いつものことじゃない。」 と取って来たモノを渡す。 そんな親たちを見ていた葉と杏樹と良平は、さっさと食事を済ませるとダイニングを後にした。 「・・・また、いつものやね・・・。」 葉の声に良平も、小さい頭をコクコクと動かした。 「いちゅものって、な〜に?ヨウおね〜ちゃん?」 杏樹は?って顔で、葉を見上げている。 「パパ、こんなお出かけのときはなかなかママからはれへんねん。いっぱいいっぱいママに何か言うてん。」 「アンジュのパパも〜〜〜!」 葉はびっくりして杏樹を見下ろした。 「アンちゃんのパパもなん?」 「パパじゅ〜〜とママにチュッチュッしてるもん。」 「そうなんや〜。」 葉はどこのパパとママもそうなのだと勘違い。 子供たちは間違った認識をし、いろいろとお互いにしゃべっていた。 そこへ、 「平次!早よ行きや!」 と葉と良平のママの声。 さらに、 「新一!時間いいの!」 と杏樹のママの声。 やっと、葉たちが待つ玄関にパパたちがやって来た。 もちろん、子供たちへの挨拶も忘れてはいない。 「ほな、葉、良平、行ってくんな。」 二人のパパは愛娘と愛息子をギュッと両腕に抱きしめる。 「お前らも、気ぃつけて帰って来るんやで。」 「うん!パパもがんばってね!」 「パパ〜いってきゅましゅ〜!」 「良平〜またちゃうで。行ってらっしゃいや。」 「いってらっしゃ〜〜〜!」 「・・・・・。」 なんだかんだで、またもやなかなか動かない。 「杏樹、いい子でお留守番してろよ。」 杏樹のパパは、愛娘のオデコにチュッっとキス。 「アンジュも〜〜〜。」 さらにパパが屈むと、今度は杏樹がパパのオデコにチュッ。 すると、パパはまた杏樹にチュッ。 杏樹もまた、お返しのチュッ。 こっちもこっちで、なかなか前に進まない。 「 へ・い・じ!! 」 「 しんいち!! 」 ママたちは、パパたちのジャケットを掴んで子供たちから引き剥がした。 すでに準備が出来てから、30分は超えていた。 放っておいたら、さらに30分くらいは優に超える。 「さっさと行かんかいっ!!!」 「早く行きなさい!!!」 いつもだったら、ここでおずおずと出掛けるパパたちだけど、今日はちょっと違うみたいだ。 お互いにちらっと目配せして、子供たちにウィンク。 さすが、服部家と工藤家の子供たち。 それだけでパパの意を解したのか、クルリと背を向けた。 すると、平次は仁王立ちの和葉に、新一は同じく仁王立ちの蘭に、チュッっとキスをした。 不意打ちを食らった和葉と蘭は、途端に真っ赤っかになっていく。 そして、それを見て得心した彼らは、 「「 行ってきます!! 」」 と楽しそうにドアを出ていくのだった。 いつまでも、この幸せが続きますように。 「 CROW - after that - 」 おしまい by phantom |
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