「 CROW - glance around- 」 9 |
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■ 元彼って何やねん! ■ I (その27〜30) | ||||
「ほな、俺らも帰るとするか冬樹。」 「そうだな。」 冬樹は華月と和葉の方を見て、 「そのまま屋上まで連行してくれ。」 と若い刑事たちに告げた。 「ちょ・・・ちょっと屋上って・・・・・まさか・・・・。」 「あんたら本気なん?何考えてんの〜〜〜〜?!」 華月も和葉も、この後に及んでまだ抵抗していた。 「今回の事件について詳しう聞かせてもらわんとな。」 「そういうこと。本部長にも捜査課長にも許可は取ってあるから気にしなくていい。」 平次と冬樹はさっさと行こうとしている。 「北川さん!何とか言うてや!」 華月は最後の頼みの綱である、裕希に助けを求めた。 「今回は止めとくわ。流石に2対1だと分が悪いしなぁ。」 裕希はあっさりとしたものだ。 「今回て・・・・・裕希?」 和葉は裕希の言葉に引っ掛かるモノを見つけたようだ。 「これからは、ご近所さんなんやし。いつでも会えるから安心してや和葉。」 そして、平次が裕希の不振な動きに気が付いたときには、 「 !!!!!!! 」 すでにお別れのキスは実行されていた。 「なっ・・・・なっ・・・・・・。」 平次は言葉が続かずに、口をパクパクさせているだけだ。 冬樹は”へ〜〜”と驚きの表情で、華月は”あちゃ〜”と呆れ顔だ。 和葉と華月を捕まえていた若手の刑事たちは、”ひぇ〜〜”と驚愕の面持ち。 前回は平次が居なかったから大きな問題にはならなかったが、今回はそうは行きそうもない。 平次の目の前で、しかも、 「旦那がおらんときに浮気しよな。」 と徒ならぬことまで言っているではないか。 「和葉、浮気したことないやろ?」 裕希の笑顔に、和葉も思わずコクコクと頷いてしまった。 「やったら、浮気相手もオレが始めてになったるわ。」 「 ならんでええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!! 」 和葉もいつまでくっついてんねん!!と平次は裕希から和葉を取り戻して、腕の中に閉じ込めた。 「あんたも男なら、引き際ぐらい潔よ〜せ〜やっ!」 平次の剣幕に裕希は、 「オレなぁ諦め悪いんやわ〜〜。」 と至って普通。 「何言うてんねんボケッ!!人のモンにちょっかい出すな!!言うてんのが分からんのかぁ?!!」 「そんなん言われてもなぁ。なぁ?和葉。」 和葉は急に自分に振られて、目をパチパチさせた。 「お前も何黙ってんねん!さっさと否定せんかいっ!」 平次に怒鳴られてやっと、 「あっ・・・・そやね・・・・・。」 と答える始末。 そんな和葉の様子を見て裕希は満足したのか、 「ほな、またな和葉。」 と片手を上げて側を離れて行った。 「二度と来んなボケッ!!!」 平次の怒声にも余裕で笑いながら。 北川裕希は平次よりも上手かもしれない。 その場に残された者たちには、気まずい沈黙。 それを破ったのは、もちろん平次。 「和葉。」 いつまでも裕希が去った方をぼ〜〜と見ていた和葉を無理矢理自分に向かせた。 そして・・・・。 「うう・・・・・・ううううんんん・・・・・・・・。」 有無も言わさず、キスしたのである。 しっかりと、和葉の後頭部を押さえつけて。 これまた、さっきと違った沈黙が。 若手の刑事くんたちは、今度は真っ赤である。 それもそうだろう、いきなり至近距離でディープキスを見せられては。 「こいつ・・・本当に人目を気にしないヤツだな・・・・。」 「・・・・・・・・・・。」 呆れた様な冬樹の言葉に、いつもなら即答するはずの華月が無言。 かと思いきや、そ〜〜と逃げ出そうとしていたのである。 「華月も諦めが悪いな。」 冬樹に今度こそしっかりと、首に腕を回されて捕まってしまった。 「そんなにお仕置きされたいんだ。」 明るい声がとっても怖い。 華月は真っ青になって、腕を振り解こうとするがびくともしない。 「そうそう華月。春希くんが華月によろしくってさ。」 「・・・・・・・ふっ・・・冬樹?」 「彼にはちゃんと話しをしたら分かってもらえたよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 いったいどんな話をしたんでしょうか。 ちなみに、北川春希はそれからしばらく人間不信になったそうです。 「おいっ服部!いつまでやってんだ。」 平次はまだ和葉にキスしたままだったのだ。 本人曰く、消毒のつもりらしいが、どうも度を越している様に見えるのは気のせいか。 「邪魔すんなやっ!」 「続きはヘリに乗ってからにしろよ。」 「しゃーないな。ほらっ、行くで和葉。」 平次はしぶしぶと和葉を引き摺るように歩き出した。 「君たちはここでいいよ。色々迷惑掛けたね。このお詫びは後日改めてするからさ。」 すると、 「そやな。ゆっくりと相談したいこともあるしな。近いうちにまた来るて、言うとってくれや。」 と平次も声を掛けた。 「「「「はっはいっ!!お伝えしておきます!」」」」 「ほな、おおきにな。」 「「「「「服部警視正も久保警視正もお気を付けて。では、失礼します!」」」」」 「ありがとう。また連絡するよ。」 直立不動で見送られる中、平次は和葉を、冬樹は華月を引き摺って屋上へ上がって行った。 平次たちが去った後、 「僕たちに明るい未来はあるんだろうか?」 「どうかなぁ・・・・。華月さんめちゃくちゃ睨んでなかったか?」 「しかし、あの場合どっちに付くのが正解だったんだ?」 「和葉さん・華月かん側か、それとも服部警視正・久保警視正側か・・・・。」 「それは・・・・今後のことを考えると・・・・・・。」 「警視正側だよな?」 「だな・・・・・。」 「でもよ〜、和葉さんはともかく・・・・華月さんは怖ないか?」 「「「 ・・・・・・・・・・。 」」」 こんなやり取りがあったとか。 そして、さっきポイッと携帯を返された修ちゃんと淳くんは、可哀想にデータフォルダが綺麗にリセットされていた。 彼らが帰ったと報告を受けた大阪府警本部では、全員がほっと溜息をついたらしい。 それと同時に、今後のことを思ってこれまた大きな溜息が。 彼ら全員の気持ちが、 『夫婦の問題を職場に持ち込まないで欲しい・・・・。』 だったのは間違いない。 一方こちらは、問題の人物たち。 和葉と華月は無理矢理ヘリに載せられて、やはり着いた先は警視庁だった。 結構よい時間だったが、眠らないこの建物にはまだ大勢の人間が働いていた。 そんな中へ、それでなくても注目を集めている平次と冬樹が、びっくりするような美女を連れて帰ってきたのだから大騒ぎ。 和葉と華月も普段着ならまだしも、こうも色っぽい格好だと余計に目立ってしまうのも仕方が無い。 平次と冬樹が既婚者だというのは知れ渡っていたが、まだほとんどの人間が相手を見たことがなかったのだ。 一目その姿を見ようと、平次たちのオフィスがある階は人だかりが出来てしまった。特に女性陣はかなりの数だ。 緊急の事件が無いかぎり、暇な人間もここにはかなりいるようだった。 「よう服部に久保。凄い美人連れてるじゃんか紹介してくれよ。」 平次たちの先輩に当たる人物が声をかけて来た。 外野も興味深々。 「何やねん。そんなにぎょうさん集まって・・・。」 流石に平次も、あまりの人数に驚きを隠せない。 「お前らがどっからかすげぇ美人を掻っ攫って来たって聞いてさ。みんな見に来たんだよ。」 「はぁ?」 「今日は暇なんですね先輩。」 冬樹も少々呆れぎみ。 「よれより早く紹介しろよ。」 そうだそうだ。と周りからもせかされる。 「俺の嫁はんで和葉や。」 「オレの妻の華月です。」 紹介された二人は、営業用の女神スマイル。 周囲からドヨメキが上がった。 男性陣からは羨ましそうな声が、女性陣からは悲鳴に近いような声までも。 「”かずは”に”かづき”?って姉妹か?」 予想外の質問に、平次と冬樹は一瞬お互いを見た。 が、同時に大きく溜息をついて、 「ちゃうけど・・・・・似たようなモンやな。」 「そうそう。」 と頷いている。 和葉も華月も何かツッコミたかったが、ここは大人しく我慢することにした。 旦那の職場で茶番を繰り広げるワケにはいかない。 笑顔がちょこっと引き攣ったくらいで、留めておいた。 「ほな、俺ら部屋に寄ってから帰るし、ちょう道開けてくれへんか。」 「では、先輩お先に失礼します。」 2人はさり気なく、彼女たちの腰に腕を回している。 「見せ付けてくれるねぇ。しっかし、お前らが女の誘いに靡かねぇわけがやっと分かったぜ。」 すると、 「華月以上の女なんかいませんからね。」 「和葉以外のヤツなんいらんしな。」 とサラリと言い返した。 「言うねぇ。」 その先輩は苦笑いを浮かべると外野に向って、”解散解散”と野次馬たちを散らしていってくれた。 それから、平次は和葉を冬樹は華月を伴って自分たちのオフィスに入って行った。 平次がドアを開けるとそこには2人の綺麗な女性がいた。 「お帰りなさい服部警視正・・・・。」 立ち上がって平次を向えたが、和葉の存在に気付いてそこから先の言葉が止まってしまった。 「初めてやったな、俺の嫁はんで和葉や。よろしゅう頼むわ。」 「この娘らは、俺の事務を手伝うてくれてるんや。」 「いつも夫がお世話になってます。」 和葉は笑顔で挨拶をした。 それなのに、その娘たちはしばらく呆然としていた。 「どないしたんやお前ら?」 「あっ・・・いえ・・・・。」 彼女たちは和葉が予想より遥かに美人だったので驚いているのだ。 内心、自分たちの方が若くて綺麗だと思っていたのだから。 「遅うまですまなんだな。もう帰ってもええで。」 平次はそう言うと彼女たちに目もくれず、和葉を連れて自分の部屋に入って行った。 冬樹の方も同じ様な娘たちがいた。 そして同じ様な反応を示していた。 妖艶なチャイナドレスの美女に丁寧な挨拶をされて。 もちろん、その挨拶には存分に嫌味が込められていたけれど。 冬樹は苦笑いをしながらも、彼女たちが見たこともないほど優しい目を華月に向けている。 「君たちはもう帰ってもいいよ。遅くまで悪かったね。」 そして、そういい残すとさっさと華月を連れて自室に入ってしまった。 「華月がヤキモチ焼いてたのはどっち?」 冬樹は華月を自分の椅子に座らせ、その肘掛に手をつくなりそう訪ねた。 「なっ!・・・・なんで知ってんの?」 「それは秘密。で、どっちなんだ?」 「・・・・・・・・・。」 「華月が嫌なら他の子に代えてもらってもいいよ。」 「そんなんせ・・・・・んん・・・・・・・・。」 冬樹は華月にそこから先を言わせなかった。 「やっぱ華月がヤキモチ焼いてくれるのが嬉しいからこのままでいいかな。」 「冬樹・・・・。」 「でも、今回みたいなコトは二度と許さない。」 射抜く様な目で華月を見つめ、しっかりと言い聞かせる。 「ご・・・・ごめんなさい・・・・・・。」 「ダメだよ華月。謝ってもお仕置きは免れないからね。」 華月は上目使いで見上げている。 「そんなに誘うとここで始めるよ。」 とても楽しそうな冬樹に対して、華月は彼だけに見せる照れた様な拗ねた様な表情で小さく首を振った。 それなのに、冬樹の手にある手錠はなに。 平次は自分の椅子に座ると、和葉を膝を上に抱き寄せた。 「ぎょうさん聞くことがあんやから、ちゃっちゃっと答えや。」 「ちょ・・・。」 「反論は無しや。ほないくで。今回ん騒動は元はお前のヤキモチからちゅうのはほんまか?」 「なんで平次が知ってるん?誰から聞いたん?」 「反論は無しやて言うたやろが。」 そう言うと平次は和葉の首筋に赤い跡を付けた。 「あっ・・・・・。」 「早う答えへんと増えんで。」 「あんたなぁ・・・・・あっ・・・・・。」 2つ目の跡を付けたのだ。 「俺はべつにええんやで〜〜。」 「・・・・・・・・。・・・・・あたしが勝手にヤキモチ焼いただけや・・・・。」 「そんで俺にもヤキモチ焼かせたかったんか?」 「・・・・・・・・。」 「どうやねん?」 「そうや。」 「そんであの元彼ちゅうヤツか?」 「裕希は偶然や。華月が連れて来たんやもん。」 「木更津・・・・あいつほんまロクなことせ〜へんで。」 「華月は関係無いやん。」 「まぁええ。あいつもいまごろは冬樹に絞られてるやろ。それより和葉。あの北川ちゅうヤツが言うてたことは・・・。」 「裕希が言うたことはほんまや。」 「・・・・・・・・ほうか・・・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 平次は急に黙り込んでしまった。 「平次?」 「それに・・・・・もうこんな傷作んなや。」 平次は和葉の手に巻かれていたチーフを解いて床に落とし、傷口にそっと口付ける。 「お前ん体は俺のもんなんやで、もちっと大切にせぇ。」 「・・・・・・・うん。」 「ほんで・・・・・あれや・・・・・・あいつとキスしたんは、さっきん1回だけやんな?」 どうも、これが1番気になっていたらしい。 「・・・・・・・・。」 「ちゃうんか?」 「ごめん・・・・・平次・・・・。」 「何回や?!!」 「えっ・・・・え〜〜と・・・・。」 和葉の指が何本も折れていく。 「だぁ〜〜〜〜!!もうええっ!!」 平次はそう叫ぶと和葉を机に押し倒した。 そして押さえつける様にキスをする。 「ええか和葉!お前がキスしてええんは俺だけや!浮気なん絶対に許さへんぞ!!ええなっ!!」 平次は怒っているのに、和葉はとても嬉そうに微笑んだ。 それが余計、平次を挑発すると分かっているのに。 こうして、和葉と華月は結局次の日の天気すら分からない状態に陥ったのである。 しかも2人が大阪に返してもらえたのは、それから1週間後だったらしい。 そしてそんな2人曰く、 「「男なん1人で十分や・・・・。」」 と言うことだそうです。 ちゃんちゃん。 |
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