平 heiwa 和 5
■ 和葉の気持ち 5 ■

ポストを開けるとそれは当然の様にそこにあった。


あたしの伸ばしかけた手を止め、それは再び思考能力を奪い去る。


固まった体のままやっと我を取り戻したあたしは、きょろきょろを周りを見回した。
誰もおらん。
「ほっ・・・・・・。」
自然と肩の力が抜けた。
誰かに見られたら、不思議に思われてまうからや。
きっと、あたしは全身で恐怖に震えていたに違いあらへん。
無意識のそれは、仮面をかぶることさえ忘れさせとったから。
「華月たち断っとって正解やったな・・・・・。」
今日は土曜日やから、みんなで勉強会をやろうと言う話になっとったんや。
しかも、あたしの家で。
そやけど、どうしてもその気になれへんあたしは、おとうちゃんに着替えを持っていかなあかんからと無理矢理断った。
もちろん嘘や。
みんなのブ〜イングは凄かったんやけど、笑顔でそれをかわし帰って来たんや。
嫌な予感が拭いされへんかったから。
今日はあの白い封筒が来てから、丁度1ヶ月目やったから。
「予感的中や。」
こんなんだけは当たるんやからな〜と考え始める頭をぶんぶんと振って、素早くそれを鞄に入れた。
まずはやるべき事をやってしまおう。
そう気を取り直して、玄関のカギを開けた。


やらなあかん事を一通り片付けて、冷たい麦茶のコップと共に部屋に入ったんは3時を少し回ったころやった。
麦茶を一口喉に流し込み、大きく深呼吸をしてから鞄に手を伸ばす。
2通目の白い封筒は、なんやあたしに挑発的に笑いかけとるみたいやった。
封を切ると、前と同じに1枚の写真が入いっとった。


平次があの女の子の耳元で何か囁いている。
女の子の表情からは嬉しさが溢れ出している。


これがあたしに届いた2枚目の写真。


平次の嬉しそうな幸せそうなそれでいて恥ずかしそうなその表情に、あたしの心臓は悲鳴を上げる。


あたしが知らない平次がそこにおった。


覚悟は出来てたはずやのに、涙は勝手に溢れ出した。
写真の上に音を立てて落ちていく。
ぽっと。    ぽっと。
まるで、それを消してしまおうとしてるかのように。
「ははっ・・は・・・・・・・・・・・。」
やっぱ涙はあたしみたいや。
無駄な努力をしとる。
変な笑いが聞こえた。
自分の声やのに、酷く違う、壊れた人形の様なおかしな声。


・・・・・・・・ココロヲオオウ・・・・・・・コオリ・・・・・・・ガ・・・・・・・ヒロガッテ・・・・・・イク・・・・・・・・・・


窓から入って来る温かい風は、あたしまで届いて来いへんかった。
少し離れたところを通り抜けていくだけやった。


「う・・ご・・・・け・・・・・・・。」
自分に命令する。
そうせへんと、体が言うことを聞いてくれんような気がしたからや。
無理やり動かした体は、錆び付いた機械よろしくギクシャクと写真を封に戻し、一通目の封筒の上にしまう。
そこで初めて、大きく息を吸い込んだ。
時計を見ると4時を指そうとしとる。
「はぁ・・・・今日は平次ん家に行かなあかんのに・・・・・・・。」
おとうちゃんが泊まりで帰って来いへん日は、おばちゃんの好意で夕飯をよばれに行かせてもらう。
今朝もその意を伝えるおばちゃんからの電話があったしな。
「行かんとあかんよな〜・・・・・・・。」
でも、もう少し時間あるし。
と思うとあたしは教科書や参考書を机の上に並べ、雑念を払うがごときおもむろに受験勉強を始めたんや。
勉強だけに意識を集中させて。


これがいつものあたしを取り戻す儀式であるかのように。





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