平 heiwa 和 6
■ 和葉の気持ち 6 ■

あたしはがむしゃらに勉強した。
学校で自宅でそして平次ん家で。
勉強してるんが一番楽やから。
勉強さえしてれば、誰も不思議に思わへんし、あたし自身もいらんことを考えんでもすむしな。
受験生でよかった、そやなかったら、こないにあたしが勉強しとったらそれこそ怪し過ぎや。
志望校を「横浜白綾国際大学」にしたんも正解や。
これだけ勉強しても、まったく怪しまれへん。
平次も時間があれば、あたしの勉強に付き合ってくれとるし。
ほんまは、あんまし平次の顔見た無いねんけど、今までが今までやからしゃあない。
いつものあたしは、きっと平次を頼っとるはずやから。


そやけど、夜、一人の部屋で時々それはやって来るんや。


無表情のあたしから、ただ静かに涙だけが溢れ出す瞬間。
あたしから仮面を奪い去る。
本当のあたしが顔を出す時間。
流れる涙は止まることがなく、嗚咽を連れてあたしを壊す。
そして、あたしは泣き疲れてやっと眠る。


こんなのがあたしの日常になり始めとった。


そして、3通目の白い封筒が来た。
翌月には、4通目の白い封筒が来た。


どちらも、平次とあの子が写った1枚の写真が入っとるだけやった。


そして今年も終わりが見え始めたころ、5通目の白い封筒がやって来たんや。


今までと同じように一人きりの部屋で、静かに封を開ける。
今まで通りの1枚の写真。


「あっ・・・・。」


それは、いつかは来るであろうと思っとった写真やった。


二人の横顔がとても近い・・・・・あとほんの僅かな動きで触れ合う距離。
そうや、キスをする瞬間や。
まだ触れ合ってはいないけれど、瞳を閉じた二人の横顔に次の瞬間が安易に想像できてまう。


もう十分な覚悟は出来てたはずやったのになぁ。
「やっぱ・・・・あかんわ・・・・・・・・・・。」
前の2通の時は我慢出来た涙、でも今は無理みたいや。
溢れ出た涙を拭おうと腕を上げた時、写真の裏に文字が見えた。
慌てて涙を拭い、文字が読めるように視線を合わせる。
そこには、今までには無かった万年筆で書かれた女の子らしい文字があったんや。


24日 19時 梅田シルバーヴェルツリー


一瞬なにが言いたいのか分からへんかったけど、すぐに理解出来た。
平次との待ち合わせ。
そうや、クリスマスの二人の待ち合わせ時間と場所や。


そやけど何で?
何で、わざわざあたしに?


でも、一つだけ分かったことがある。
写真を送っり付けて来ているのが、写真に写っている彼女やということが。
もう一度、文字にゆっくり目を通す。
彼女はあたしの存在を知っとる。
そして、きっと憎んどる。
いつも平次の側にいて、それを当然の様に振る舞っているから。
幼馴染みが気に入らんのや。
しかも、男やなくて女やったから。


そうやったら、これは彼女からの挑戦状や。






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