平 heiwa 和 7
■ 和葉の気持ち 7 ■

クリスマスの梅田シルバーヴェルツリー。
梅田のショッピングモールの中心にある、大っきな銀色に光り輝くクリスマスの象徴。
恋人たちの待ち合わせに大繁盛って感じやな。
あたしはツリーの正面が見下ろせるカフェの窓際に、一人で座っている。


来ようか止めようか、ずいぶん悩んだんやけど、結局ここにおる。
しかも髪型を変えたり、眼鏡をかけてみたりして。
受験生にはクリスマスもなんも無いんやからと、華月らの誘いもあっさり断ってや。
あたしのその態度に何や、訳のわからんことを宣っとたけどな。


何度か平次に聞いてみようとしたんや。
そやけど、平次の口からはっきり言われるんが怖かったから。
肯定されたら、はっきり認められたら、そう思うとあたしの口から声が消えとった。
平次も一度もあたしには何もそれらしきことは、言わなんだし。
平次も言いとうないやろ、あたしなんかに・・・・・・・。


カーン カーン ・ ・ ・ ・ ・


7時を告げるベルが辺りに鳴り響き、あたしの意識を現実に引き戻した。
紅茶のカップから視線をツリーの正面に持っていく。


あたしの目は、写真の彼女をすぐに見つけた。
まだ平次は来てないみたいや。
恥ずかしげにきょろきょろと周りを見回している。

あたしの頭には、昔4時間も待ちぼうけをくらわされた記憶が蘇った。
来なかったらええのに。
いつもみたいに、すっぽかしたらええのに。


こういう期待は裏切られるもんや。
視線の先で彼女が嬉しそうに小さく右手を挙げた。
平次が彼女に向かって走って来とったから。
あたしの場所からは平次の表情までは見えへん。
やけど、想像は出来る。
彼女は駆け寄った平次と何か言葉を交わすと、おもむろに平次の首に腕を回しキスをした。
写真の次の瞬間をあたしの目は見ていたんや。

表面上は冷静な仮面を貼り付けたまま。


・・・・・コオリ・・・ガ・・・・・・・・ココロ・・・ヲ・・・・・・カンゼン・・・ニ・・・・・オオイツクス・・・・・・・・。


彼女はこれを見せる為に、あたしをここに呼んだんやろな。
あんたの入る隙はあらへんってことや。
「完敗や。」
いくらクリスマスとはいえ、平次があの平次がやで、こんな公衆の面前でキスするなんかあたしには考えられへん。
「よっぽど好きなんやな。」
それはどちらに向けた呟きだったか自分でもわからへん。
平次に、それとも彼女に、たぶん二人に向けたもんやったんやろう。
手の中のお守りをぎゅっと握りしめて、あたしは逃げるようにその場を後にした。


その日から、あたしの中にはある考えが浮かんどった。


年末年始、あたしは服部家で過ごすのが恒例になっとる。
さすがに今年は受験生でもあるし遠慮しよ思うたんやけど、
『絶対にあきません。』
とおばちゃんに一括されてしもた。
年末年始はおとうちゃんもおじちゃんも、当分帰って来ることが無いからや。
誰もおらん家に何日も女の子を一人にすることは考えられないということらしい。
おとうちゃんも同意見やし、平次まで賛成しとる。
『今さら、何言うとんねん。』
と言うのがあいつの意見や。


何考えてんねん、あの男は。
少しは彼女のことも考えんかい。
いくら幼馴染みいうたかて、同年代の男女が一つ屋根の下に何日も同居するんやで。
心配にならん方がどうかしてるわ。


それに・・・それに、あたしの気持ちはどうしてくれるん・・・・・・・。
優しくされると、決心が鈍るやんか・・・・・・・。


あたしは仮面を何重にも被り、最後になるであろう年末年始を服部家で過ごした。






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