平 heiwa 和 8
■ 和葉の気持ち 8 ■

あたしは学校が始まるとすぐに、あることに奔走した。
担任とおとうちゃん以外に気付かれんように。


もちろん勉強は今まで以上にした。
周りからは、最後の悪足掻きと言われるくらいにや。
今は他に逃げ出す場所が見付けられへんから。


そやけど、センター試験が終わった後、あたしは蘭ちゃんに電話をしたんや。
「蘭ちゃん、かんにん。やっぱり、あたしあかんかったわ。」
試験結果が悪く、第1希望の横浜が受験出来ないことを伝えた。
蘭ちゃんは信じられないと言い、気を落とさないでねとあたしに気を使ってくれる。
ほんまに蘭ちゃんは優しい。
後ろめたいあたしは、自分の力不足をさんざん謝って早々に電話を切った。
「ほんま、かんにんしてな・・・。」
あたしは今年初めての涙を流した。


そして、第2希望である神戸の本試験が終わったころ、それは来た。


もう、来ないだろう思うとった白い封筒が、またあたしの元に送られて来たんや。
そやけど、ポストのそれは今までの物と違ごうとった。
いつもの封筒より大きいそれは、中に堅い物が入っとるようや。
部屋に入って封を開けると、中には1枚のDVD−ROMが入っとった。
「何やろ・・・・。」
あたしは、彼女のあたしに対する文句でも入っとるんかなと思うて、何気なくPCに挿入し再生してしもたんや。
それが、自分を壊すものとも知らずに。


「!!!!!!!!!!!」


モニターに写し出されたもんに、あたしは声を上げる事も出来ず無意識に両手を口に持っていった。
見開いた両目は、瞬きをすることを忘れとる。
きっと息をすることさえ。
もはやすべての感覚が存在してへんかった。


・・・・・・・ピシッ・・・・・・・・ピシッ・・・・・・・


       ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ピシッ・・・・・・・・・・・・・ピシッ・・・・・・・・・・・


                                          ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・パリーン


あたしはどうやって呼吸してたんやろ。
あたしはどうやって歩いてたんやろ。
あたしはどうやって話してたんやろ。
あたしはどうやって眠ってたんやろ。
あたしはどうやって笑ってたんやろ。
あたしは・・・・・・


あたしはどうやって・・・・・・・・・・・・平次・・・を・・・・・・・・・アイ・・・・してたん・・・・・や・・・ろ・・・・・・・・・・・・・・・・。


凍りついとった心は、あっけなく、砕け散った。


そこに残されたんは、遠山和葉という器だけやった。


彼女の見事なまでの悪意は、その目的を存分に果たしたんや。
あたしを壊すということで。


「あはっははは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


あたしの笑い声は、涙をどこかに隠してしまった。
おかしい人間のおかしな笑い。
あたしは泣けなくなっとった。


そしてこの日の夜、あたしは壊れた心と共に、ある戒めを受けることになった。


卒業式、桜の季節も器だけのあたしにはなんの感動も与えへんかった。
遠山和葉という人形は、見事にその役を演じているだけやった。


平次を新大阪まで、見送りに行った時さえも。
あたしは、いつものあたしの笑顔で送り出した。
歩き出す平次の姿を目に焼き付けて。


その日から、ポニーテールにすることはなくなった。


入学式を数日後に迎えたある日、あたしは蘭ちゃんに会いたいと伝えたんや。






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