平 heiwa 和 10 | ||
■ 平次の気持ち 1 ■ | ||
大学1年の夏休み。 ・・・・・大学も夏休み言うんか?それとも、夏期休暇やったっけ? まぁ、何でもええは、どっちにしても明日から休みや。 俺と工藤の通う東都大学は、はっきり言うて日本一のとこや。 生徒もぎょうさんおんで。 敷地の広さもはんぱやない。 建物だけはち〜とボロやけど、これかて歴史ちゅうことで許したる。 ただなぁ、増築、増築いうて迷路みたいんなっとるんだけは、かんべんしてほしわ。 学校ん中で、迷子どころか遭難やで。 いつやったか、毛利のねぇちゃんが工藤に会いに来たときおらんようになってもうて、工藤と探し回ったことがあんねん。 あんときの工藤いうたら、なかったで。 いつものポーカーフェイスも、探偵の顔もどっか行きおって、青い顔して「蘭〜、蘭〜!」ちゅうて慌てまくりや。 相変わらずねぇちゃんが絡むと、ただの男やであいつは。 そういやぁ、和葉のやつは来てへんなぁ。 あいつのことやから、最低でもいっぺんは押しかけて来る思うてたんやけどなぁ。 ねぇちゃんと同じとこ行けへんかったんが、よっぽど恥ずかしかったんか? あいつそんな性格ちゃうやろ。 何〜や、あいつがおらんと調子狂うわ。 記憶に無いくらいからず〜と一緒やったからかなぁ。 あっち帰ったら、久しぶりにからかったろ。 どうせ、あいつも休みやし帰って来てるやろ。 そんときは、そんな気軽なことを考えとったんや。 翌日、俺は昼ぐらいまで惰眠をむさぼり、家に帰るだけやし何もいらんやろちゅうことで、いつものバックを持って部屋を出た。 こんとき、ふとっ誰かの視線を感じたんやけど気にせんことにしたんや。 何や最近ようあるし。 新幹線乗って、キオスクの弁当で朝食兼昼食を済まし、弁当と一緒に買うた新聞を取りかけてその上にある携帯とストラップ代わりのお守りが目に入った。 「メールでも送っといてやるか。」 あいつと俺はおんなしとこのやから、短い文章なら簡単に送れるんや。 「これから帰る。 送信っと。」 つい声に出して言うてもうった。 そやけど、しばらくして携帯の画面は俺の予想とは違う文字を表示しとった。 − メール送信に失敗しました − 再度、送り直してみる。 また、同じや。 車内にもかかわらず、今度は和葉の番号に直接電話を掛ける。 『お掛けになった番号は、現在使われておりません。』 「はぁ〜?」 乱暴に携帯を切り、新聞の上に放り投げた。 「何やっとんねん、あいつ。」 番号変わったんなら、知らせんかい。 俺は腕組みして、シートに深くもたれかかった。 頭ん中は、ぐるぐると勝手にいろんな妄想を始めとる。 機種変か?・・・そやったら番号おんなじやんけ。 携帯なくしたんやろか?・・・ありえるんやけど、わざわざ番号かえるか? ほかんとこのにしたんやろか?・・・そやったら、何で俺に連絡よこさへんねん。 男でも出来て・・・ そう考えついて、俺の不快指数は勝手に上昇していった。 イライラを引きずったまま、新大阪で乗り換え家に向かった。 「帰ったで〜。」 勢いよく玄関を開け、ズカズカと上がり込む。 台所の方から、おかんの声が返ってきた。 「なんや、平次。帰って来るんやったら、連絡くらいよこしや。」 それが、久しぶりに帰って来た息子に言うセリフか。 「なぁ、おかん。和葉帰って来てるか?」 ドッカと椅子に座り込んだ俺に、冷たい麦茶を出しながら、 「あんた、久しぶりに帰って来て始めに言うことがそれなん?」 とニヤニヤしとる。 「うっさいわ。っで、どうなんや?」 おかんの態度なんか、無視や無視。 「そういえば、大学行ってから一度も会うてへんわ。和葉ちゃんも、神戸で青春を謳歌してるんとちゃうの。遠山はんも、まったく帰って来いへん、言うてはったから。」 「一回も帰って来てへんのか?」 こんとき始めて、俺ん中に小さな不安が芽生えたんや。 |
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