平 heiwa 和 11
■ 平次の気持ち 2 ■

「おかん。ちょう、出掛けてくるわ。」
俺はバックを部屋に放り込むと、バイクのキーを掴んで飛び出した。
自分でも理解でけへん不安が、沸き上がってきとる。


あいつがいくら大学が楽しいからいうて、いっぺんも帰って来いへんいうことがあるか。
ずっと父娘の生活やったんや、おっちゃんをほっぽとくはずがないやろ。
あいつの性格や、休みのたんびに世話しに帰って来とるはずや。
それにや、神戸いうたらすぐそこやんけ。


バイクを止めるんももどかしく、大股で歩き玄関に手をかける。
閉まっとる。
呼び鈴を押す。
うるさい位に押しても、何も返答が無い。
「やっぱおらんのか。」
それでも俺はバイクのキーと一緒に付いとる遠山家の鍵で、玄関を開けて中に入った。
そんまま、まっすぐ和葉の部屋に向かう。
ドアを開けたそこは、むっとする空気と静寂が主の不在を表しとった。
俺はすぐに窓を開け、空気を入れ換える。
それから改めて、部屋ん内を見回した。
不自然な位に整理整頓されとる。
机の上にはうっすらと埃が貯まっとって、長い間誰もこの部屋に入ってへんことを主張しとった。
「ほんまに帰ってへんのやな。」
和葉が帰って来よったら怒るやろうけど、机の上や引き出しん中にあるモンを勝手に引っ張り出す。
そん中に、センター試験の自己採点用紙があったんや。
何気にそれをペラペラと捲ってみて、俺の目は最後のページにある数字に釘付けんなった。
「なんや・・・・・・・これ・・・・・・・?」
各科目の点数と合計点数、信じられへん数字が書かれとった。
「あいつ点数悪うて横浜行けへん、言うてなかったか・・・・・。」
それは和葉が希望する学部やったら、俺んとこにも入れる位の点数やった。


俺ん中の不安が、どんどん大きくなっとる。


横浜・・・・そうや!毛利のねぇちゃんや!
あのねぇちゃんなら、何や知ってるかもしれへん!


俺はそう思い立って、工藤に電話したんや。
「おう工藤、俺や。ちょ〜、ねぇちゃんに代わってくれへんか。和葉のことで聞きたいことがあんねん。」
今日あのねぇちゃんが工藤と一緒におるんは、調査済みや。
『はぁ?なんだてめぇ、いきなり。帰郷早々また和葉ちゃんと喧嘩でもしたのかよ?しゃ〜ね〜な〜。ちょっと、待ってろ。』
今は工藤の態度に構うてられへん。
電話の向こうで工藤がねぇちゃんを呼ぶ声がしとる。
そして、
『ガッシャ〜〜〜〜ン!』
けたたましい音と工藤の悲鳴が聞こえてきよった。
『わわわ〜〜蘭!だっ大丈夫か〜〜〜〜!』
慌ただしく動き回る音。
『悪り〜服部。後ですぐに掛け直すからよ。』
そう言って電話は切られた。
何やってんねん、あいつら。
それからしばらく待っとったんやけど、工藤からは掛かってきいへんし、こっちからしても、もしねぇちゃんが怪我でもしっとったらあいつ絶対に電話なんか無視しくさるに決まっとる。
俺は諦めて、大阪府警本部に行くことにした。
あそこならおっちゃんも居るしな。


府警本部に着くと捜査一課を目指す。
その間に何人の人と挨拶を交わしたんか、さっぱりわからん。
とにかく、ずっと誰やかれやに声掛けられとった気いするわ。
一課に着くとまずは、大滝はんにも挨拶や。
「大滝はん。」
「ああ、平ちゃん。久しぶりやなぁ。元気しとったんか。」
「おおきに、相変わらずやで。大滝はんも元気そうやな。」
ここにいる、ほとんどの人と挨拶を交わすんや。
知らん顔がないんやからしゃ〜ない。
一通り終わると、それとなく本題に入る。
「なぁ大滝はん、遠山のおっちゃんは?」
「おやっさんなら今日は居らへんで、平ちゃん。」
大滝はんが不思議そうに俺を見た。
「どっか行ってるんか?」
「最近、よう出張ってはるんや。今日は、京都府警に行ってはるはずや。」
なんや、おっちゃん居らへんのか。
「かっ・・・・」
俺が言いかけた時に、警報が鳴り響いた。
事件や。


ほとんど同時に、俺の携帯も鳴り始めたんや。






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