平 heiwa 和 13
■ 平次の気持ち 4 ■

俺を迎え入れた工藤の表情は、氷の様に冷め切っとった。
部屋には毛利のねぇちゃんもまだ居った。
ねぇちゃんは泣き疲れた様な顔をしとる。
工藤は無言でソファーを勧めると、俺の前に白い包みを差し出した。
中身を見る。
和葉宛の白い封筒が5枚とDVD−ROMが1枚。
俺は無造作に白い封筒を1つ選び、その中のモンを引き出したんや。

「  !!!  」

乱暴に残りの4枚も出す。
頭の中はいろんな事が渦巻いとった。
俺が言葉も無くそれらの写真を見とると、工藤がゆっくり説明を始めた。

「封筒の消印からいくと、去年の8月21日が最初だ。おめぇが女と抱き合ってるヤツだ。」
写真を掴んで、封筒の上に置く。
「次が、9月21日。おめぇが何か嬉しげに言ってるヤツ」
また写真を封筒の上に置く。
「10月21日。おめぇが女の膝枕で寝てるヤツ。」
同じ動作を繰り返す。
「11月21日。おめぇのほっぺたに女がキスしてるヤツ。」
写真を置く。
「最後が12日21日。おめぇと女がキスしようとしてるヤツ。」
左端の封筒に置く。
静かな話し方が工藤の怒りの深さを表しとる。
「何か言いたいことがあるか?」
俺が黙っていると、工藤が最後の写真を裏返した。
そこには、あの女の文字でクリスマスの待ち合わせ時間と場所が書いてあった。
「身に覚えがあんだろ。和葉ちゃん、その場所に行ったんだぜ。」
「くっ!」
握りしめた爪が手の平に食い込んだが痛みは無い。
「まぁいい。問題なのはコレだ。送られて来たのは多分2月21日だろう。」
工藤がDVD−ROMを持ち上げる。
「おまえ、これに何が映ってるか分かるか?」
工藤の声が今までよりさらに低くなった。
「これは、オレや蘭が見ちゃぁいけねぇモンなんだよ。」
少し離れたとこに座っているねぇちゃんが、両手で顔を隠くし声を殺して泣いとる。
「蘭も和葉ちゃんから話しを聞いただけで見ていない。もちろん、オレも見ちゃいねぇ。」
「ほらっ。」
俺にDVD−ROMを渡し、無言で書斎を示す。
受け取った俺は、工藤に促されるままに書斎に入った。
パソコンはすでに起動されとる。
立ったままでROMを入れる。
すると暗かった画面に、唐突にソレは現れた。

俺とあの女がベットで抱き合っとる姿が。

他ん写真と違い、生々しいそれは画面ん中で蠢いとる。
俺であって俺で無いようや。
吐き気が襲ってくる。
そやけど目は画面を睨んどった。

「 ! 」

画面の中の女と目がおうた。
俺の背中に腕を回し肩越しから見えるその顔は、笑うとった。
こっちを見て、悪意に唇を歪めて。

俺は耐えきれず強制的にROMを取り出し、そのまま床に投げつけたんや。
割れたそれをさらに足で粉々にする。
バキバキいう音は煽るように俺を刺激しとる。
自分の気持ちをどうにも出来ず、そこにある椅子を力任せに蹴り倒した。

和葉はこれを見たんや。

何で俺は気付かへんかったんや。
何で俺は気付いてやれへんかったんや。

あいつはどんな気持ちで俺の側にいたんや。


俺の絶叫は和葉には届かんかった。





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