平 heiwa 和 15
■ 快斗の気持ち 2 ■

オレの撃ち出したトランプは瓶を砕いたが、すでに彼女の胸には赤いシミが広がり始めていた。
突然のオレの登場に野郎どもは、間抜けなツラで固まってるぜ。
伸しかかってる野郎を蹴り飛ばし、彼女を抱き起こす。
がここに至って彼女の暴れ方が尋常じゃねぇことに気が付いた。
髪を振り乱し、オレから逃れようと必死で手足を振り回し、叫ぶ。
どんなに声をかけても、届いちゃいねぇ。
野郎どもはとっとと、ずらがってやがるし。
途方にくれたオレは、暴れ続ける彼女にあることをした。


すまねぇ青子・・・今回だけは大目にみてくれ。


彼女の目が見開かれ、至近距離で始めてオレを捕らえた。
何か言いかけて、それを悲しい微笑みで飲み込む。
そしてオレに体を預けて気を失った。
すぐさま彼女を抱え上げ、その場を後にする。
この姿で行ける病院もねぇし、また彼女をその前に置き去りにも出来ねぇ。
オレは協力者のもとに彼女を連れて帰ることにした。
連絡はもう入れてあるんだ。
きっと、帰り着く頃には口の堅い医者を手配してくれているだろうよ。
その間にも血は止まることなく、オレの白い服にまで赤い花を咲かせている。
腕の中で眠る彼女は、信じられないくらい軽かった。


大事には至らなかったけど、彼女の白い肌には大きな傷跡が残った。
たぶん、一生消えねぇだろうな・・・。


しかし彼女のあの行動や取り乱し方は、普通じゃねぇよなぁ。
しかも、あん時も麻酔無しの治療中にでさえも、いっぺんも泣いてねぇ。


目を覚ました彼女は、オレのことを覚えていたんだ。
「助けてくれておおきに、怪盗さん。」
そしてさらに、
「ほんまに工藤くんそっくりや。あんた黒羽くんやろ。」
とオレを驚かせた。
くすっと笑って続ける。
「あたしな、いっぺん東京であんた見たことあんねん。」
工藤の彼女がオレとヤツを間違えて騒いだことがあったんだ。
その後、オレを見かけた時に説明を受けたらしい。
どうすんだよ〜、正体ばればれじゃね〜か!
狼狽してるオレに、
「心配せんでもええよ。あたし誰にも言わへんから。それに、しばらくは日本にも帰らへんし。そやから、黒羽くんもあたしんこと誰にも言わんでほしいねん。」
優しく壊れそうな笑みをくれたんだ。
「なぁ、だったら聞かせてくれねぇか。独りで、この国にいる理由を。」
俯いたまま彼女はすべてを話してくれた。
最後にオレの疑問にも。


次の日、オレはフライトの時間いっぱいまで動き回ったんだ。
彼女の荷物を全部綺麗に、オレの協力者である人の家に移し。
彼女に扮して周りの人間に、別れのあいさつもした。
もちろん彼女は了解済みだぜ。


これで、完全に彼女の居場所はオレたちしか知らない。
オレとオレの協力者と彼女本人の3人しか。


彼女に何でここまでしてくれるのか、と聞かれた。
オレは、
「オレにも大切な幼馴染みがいるんだよ。」
と答えた。
彼女は、
「大切にしてあげてな。」
と消え入りそうにつぶやいた。


彼女には幸せになる権利がある。
誰が何と言おうとオレはそう信じている。


それには、どうしてもあのヤロウが必要なんだ。
ぜってぇ、1回はぶん殴ってやるからなぁ。
彼女の痛みに比べりゃ、ずいぶん軽り〜けどよぉ。



そして今に至るってわけさ。


「次はっと。」
オレはマントを翻して、工藤家を後にした。






快斗の気持ち 1 新一の気持ち 1
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