平 heiwa 和 16
■ 新一の気持ち 1 ■

服部のヤツは書斎に入ったきり出て来ねぇ。
アレに何が映ってるか分かるだけに、無理もねぇか。
蘭は泣き疲れて眠っちまったから、2階の客間にそっと運んできた。
大学に入ってから服部を避けるようにしてたのは、会えない和葉ちゃんに遠慮してだろうと思っていた。
時々睨んでるのも、和葉ちゃんの愚痴でも聞いたんだろうと勝手に解釈してたんだ。
本当は和葉ちゃんから話しを聞いて、ずっと一人で苦しんでたんだろうな。
優し過ぎんだよ、蘭は。
和葉ちゃんの苦しみをきっと自分のことのように感じて、オレにさえ相談出来ずに悩んでたんだぜ。
それに気付いてやれなかった、オレも情けねぇよなぁ。


服部には、まだ言ってないことが一つだけある。
それは、オレの予想でしかない。
蘭から聞いた和葉ちゃんの様子と服装、そして、ある言葉。
何より、蘭にさえ行き先を言わなかったことが引っ掛かる。
「ちっ、最悪だぜ。」
自分の考えに、毒づいても仕方ないんだけどよ。
「気分転換にコーヒーでも煎れっか。」
腕を思いっきり上に伸ばしながらキッチンに向かった。


10分程してマグカップを両手に戻ると、写真の上に見慣れたマークの入ったカードが置いてあった。
オレはカップを乱暴に置き、部屋全体を確かめる。
どこも変わったとこはない。
玄関も窓も閉まっている。
「あの野郎〜何しに来やがった!」
ドッカとソファーに座り込み、カードを摘み上げる。
「月への階段を上がりし赤き姫、我が花嫁に相応しき宝珠。怪盗KID。」 
ちらっとカードの置いてあった場所を見る。
「・・・・・これ、和葉ちゃんのことか?何でアイツが・・・。」
「服部〜〜、服部!!」
書斎のドアを乱暴に開け、カードを突き出す。
無言で読み終えた服部の顔にも、疑問が浮かんでいる。
「工藤・・・これ?・・・。」
「多分、和葉ちゃんのことだ。アイツどっかで、和葉ちゃんに会ったんだ。」
服部の目に急速に精気が戻って来た。
「そやったら!」
「とにかく、アイツの足取りだ。」
オレはパソコンに向かおうとして、改めて部屋の現状に気付いた。
DVD−ROMだったものは粉々に砕かれ床に傷を付けているし、椅子は近くの本棚の前で倒れ数十冊の本をばらまいていた。
挙げ句の果てには、服部が何度も殴りつけたんだろうマホガニーの机にヒビが入ってやがる。
・・・・まぁいい、後でたっぷりこの代償はさせてやっからよ。
気を取り直して立ったまま、マウスを動かす。
「ここ3ヶ月でアイツが現れたのは、4回。ヴィクトリア&アルバート美術館。ヘット・ロー宮殿。大和財閥本宅。ヴィクトリア国立美術館。大和は外していいだろう。残るは、3カ所。」
服部がオレの後で、腕組みをした気配がした。
「ヴィクトリア&アルバート美術館はイギリスや。ヘット・ロー宮殿は、オランダ。」
「ああ。ヴィクトリア国立美術館は、オーストラリアだ。」
そこで、改めてカードを見る。
月への階段・・・・どっかで聞いたことが・・・!
オレは部屋を飛び出し、勝手に蘭の鞄の中を漁る。
海外旅行のパンフレット。
その中の一つを取り上げ、破りそうな勢いでページを捲る。
あった、これだ!
「服部!オーストラリアだ!」
「『月への階段』は西オーストラリア州ブルームの神秘現象だ。」
駆け寄って来た服部が、オレの持っているパンフレットを覗き込む。
「3月から10月の間満月の夜に現れる現象か。そやけど、ヴィクトリア国立美術館のあるメルボルンとブルームちゅうのはごっつう離れてるやんけ。」
紙面上の地図を示す。
確かに、オーストラリアの端と端だ。
再度カードを見て、
「『月への階段を上がりし赤き姫』・・・赤き姫?・・・・・和葉のヤツまさか・・・・」
と服部の表情が不安気に変わる。
和葉ちゃんの身に何かがあったと思ってんだろうな。
だが、すぐ後に、
「しかも、何やこの『我が花嫁に相応しき宝珠』ちゅうんは!」
と怒りの形相になった。
忙しいヤツだな。


時間が経つにつれ、オレは冷静さを取り戻していった。
何としても和葉ちゃんを見つけ出す為に。
服部の為に、蘭の為に、そして・・・和葉ちゃん自身の為に。






 
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