平 heiwa 和 17
■ 平次の気持ち 5 ■

すぐんでも飛び出して行きそうになるんを、探偵の俺がぐっと押さえ込むんや。
闇雲に行ったかて、和葉を見付けられへん言うて。
「『我が花嫁』ちゅうんは気にくわんけど、次の『相応しき宝珠』ちゅうんは何を指すんや?」
「宝珠って言ったら如意宝珠だが、この文章には合わねぇ。ここは、純粋に宝石と考えた方がよくねぇか。」
工藤も俺と同じことを考えとるようや。
「そやったら、オパールか。」
オーストラリアの宝石言うたら、まず浮かぶんがオパールや。
「ああ、だけどよ。だったら、『珠』て書かねぇだろ・・・・・・!」
俺と工藤の目が合うた。
「 「 真珠!! 」 」
そうや、オーストラリアは真珠の養殖も有名や。
俺らは再び書斎に戻り、パソコンの前に立った。
「真珠祭、西オーストラリア州ブルーム市。」
またブルームや。
「その祭りはいつや?」
「9月16日から25日までだ。」
「満月は?」
俺が言うよりも早く、工藤は検索しよる。
「今年の『月への階段』が現れるのは、9月は17・18・19日だ。」
「『階段を上がりし』やから、最後の9月19日やな。」
「場所はブルームで間違いないな。」
工藤は本棚から分厚い世界地図を引っ張り出し、西オーストラリア州ブルーム市を開いとる。
「『月への階段』が見れるのは、この辺りだ。」
工藤が指指してるんは、半島の真ん中辺りの海岸線や。
「地図上では小さいけど、結構範囲広そうやな。」
「もっと場所絞れるだろ?」
ニヤッちゅう顔して振り返りよる。
「教会か〜?」
露骨に嫌そうな声が出てしもた。
「そう言うことだ。」
海外サイトまで探したんやけど、それらしき教会は見あたらなんだ。
「あんましメジャーなとこじゃねぇし、ネットじゃこれ以上は無理だな。」


俺らはリビングに戻り、工藤が冷めたコーヒーを煎れ直してくれた。
そして、当然の疑問が投げかけられたんや。
「この女のこと、聞いてもいいよな。」
「かまへん。もうとっくに終わった思うてたしな。」
「こっちに出で来る前には、切れてたんだろ。」
「そや。2月には別れとったんや。」
「だったら、あのDVDはその後に送られて来たってわけか。」
両手の拳に力が入る。
「この女ん名前は大原冴子言うて、あの大原大臣の一人娘や。」
工藤はソファの背に首を預けて、天井を見とる。
「始めて会うたんは、冴子の誘拐事件がきっかけやった。去年の7月、府警本部にその連絡が入った時、俺もたまたまその場におったんや。現職大臣の娘ちゅうことで、捜査は極秘中の極秘や。いかつい刑事が動くより俺ん方がええ言うて、捜査に加えてもろた。事件事態は大したことあらへんかった。犯人も大臣への逆恨みちゅうアル中のおやじやったし。そやけど、廃屋で見つけた時の冴子は小さな子供みたいに膝を抱えてまん丸うなっとて、必死に涙をこらえとった。もう大丈夫や、言うても震えが止まらん様やったし。どうしても、放っとけんかったんや。それからしばらくは、大臣の頼みもあって冴子のボディガードみたいなことをしとった。最初は学校の送り迎えくらいやったんやけど、だんだん休みん日も会うようになってたんや。」
一息ついて、冷めかけたコーヒーを飲み干す。
工藤はさっきと同じ姿勢で、
「そして、あの関係になったってか?」
聞いてきた。
「そうや。」
「けどおめぇ、本当に気付かなかったのか?」
「悪かったな。写真もあん映像も、まったくや。」
「その冴子って女がやったと思っていいんだな。」
「間違いないやろ。写真の裏のんもアイツの字やし。それに、そういう女やしな。」
「はぁ?」
「冴子ちゅう女は見かけと全然違うて、そら恐ろしいくらい嫉妬深いやつでな、我が儘で独占欲の固まりが服着てるちゅう感じや。」
「だろうな。」
あっさり肯定しよる。
「服部平次、一生の不覚や。」
「今更、何言ってやがる!まったく、おめぇはよう、うっかりも度を越してやがるぜ!それで、本当に大切な人を永遠に失うかも知れねぇんだぜ!」
言葉もあらへん。
「和葉ちゃんに何かあったらおめぇどうする気だ!」
工藤は俺に掴みかかってきた。
「まさか、許してもらえるなんて思ってねぇだろうな。」
「そんなん、思うてへん。」
「当然だ!」

工藤は力一杯殴りよった。






新一の気持ち 1 平次の気持ち 6
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