平 heiwa 和 19
■ 平次の気持ち 7 ■

すぐに冴子を捜したんやけど、夏休み入ってどっかに遊びに行ったらしく家にはおらなんだ。
携帯の番号は、削除してまったしなぁ。
派手に探し回って、おやじんでも知れたら困るし。
まぁ、友達訪ねるくらいええやろ。
そう思っとったやさきに、冴子自身から連絡があったんや。
『平次さん、お久しぶりです。』
「ああ、久しぶりやな。」
『嬉しいですわ。きっと、また会いに来て下さると思ってました。』
嬉しそうに鈴が鳴るような声で言いよる。
「ちーと聞きたいことがあんねん。」
『まぁ、何でしょう。でも、電話では嫌ですわ。』
「俺もや。おまえ何処におんねん。そこまで行くわ。」
『本当ですか?嬉しい・・・。』
心底嬉しそうな声に、俺の背中に冷たいモンが流れた。
あれほどこっぴどく俺に振られたのにやで。
「で、何処やそこ?」
『軽井沢ですわ。お母様と来てますの。平次さんがいらっしゃると知れば、きっと大喜びですわ。』
「一応、住所教えてんか?」
住所を書き取ると、明後日の昼過ぎに行くことを伝え電話を切った。


家に帰ってバイクの整備をする。
軽井沢いうたら交通の便悪いしなぁ、夜になったら帰れへんやん。
それに元々バイク東京に持って行こ思うとったからな。
おかんには明日帰る言うた。
工藤には冴子と会うことと別荘の住所をメールした。
返信は『気を付けろ』や。
へいへい。


俺は次の日の夜半に家を出て軽井沢に着いたんは、翌日の朝早い時間やった。
目に付いたコンビニでパンとコーヒーを買うて朝食にし、木陰でちょう眠ることにする。
やっぱ大阪からやとちと遠っかたわ、完徹や。
眠りこけて車の音に目が覚めたんは、昼近いころや。
薄目を開けると丁度黒塗りの高級車が通り過ぎるとこやった。
「あれは・・・。」
そや、冴子のおかんや。
車の向かった方向は、別荘とは逆やった。
しかも、運転手付きで身装も正装やった様に見えた。
次の角で車の曲がった方面は東京や。
今日、冴子のおかんはおらん、ちゅうことか。
「何や大きなムササビもおるみたいやし、一波乱ありそやなぁ。」
工藤にメール一本送って、冴子ん家の別荘に向かった。


インターフォンで名前を告げると、あっさりと門は開いた。
大っきな玄関前にバイクを止めると、中から冴子が飛び出して来たんや。
「いっらしゃい、平次さん。お待ちしてましたわ、さぁ、どうぞ。」
見るからにお嬢様風の冴子はいかにもちゅうかっこして、俺を迎え入れた。
案内されたんは、風通りのええテラスや。
「今、お茶をお持ちしますわ。それとも、何か召し上がります?」
「いや、気にせんといてくれ。」
クスッと笑って、
「では、何か軽い物でも用意させますわね。」
と部屋を出ていった。
「ふ〜。」
肩の力を抜く。
見た感じ冴子は、俺と付き合い始めた頃に戻ってるみたいやな。
最後んころは、きっつい顔付きになっとったからなぁ。
そやけど今の穏やかな顔んが、怖い思うんは何でや。
「お待たせ致しました。」
冴子がお盆に飲み物とサンドイッチを載せて帰って来た。
俺の前にブラックのアイスコーヒーを置き、自分には熱い紅茶を取った。
そして、サンドイッチを俺に勧める。
「ここのシェフのサンドイッチは美味しいんですのよ。私は大好きですの。こちらがナチュラルサンドで、こちらがエレメンタルサンドです。きっと、平次さんのお口に合うと思いますわ。」
冴子の勧めを無言でかわす。
喉は渇いとったけど、それさえ飲む気にはなれへん。
「早速で悪いんやけど、オマエに聞きたいことがあんねん。」
「はい。」


涼しい顔して俺を見とる冴子からは、悪意は微塵も読み取れへんかった。






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