平 heiwa 和 20
■ 平次の気持ち 8 ■

「和葉のことや。」
冴子の表情はまったく変わらへん。
「オマエ、和葉にヘンな写真送り付けたやろ。」
「変な写真だなんて失礼ですわ。私たち二人の記念写真ですのに。とても綺麗に撮れてましたから、是非、彼女にも御覧頂こうと思いお送りしましたのよ。」
無邪気な笑顔が余計腹立つ。
俺ん声が少し大きくなった。
「普通、そんなことするか?」
「あらっ、いけませんでした?だって、彼女、平次さんの幼馴染みなんでしょう。でしたら、きっと私たちのことを祝福して下さるはずですもの。」
「それにや、あの写真、誰が撮ったんや。」
「私専属のSPですわ。平次さんもご存じでしょう、篠山。」
あのひょろっとした色白か。
冴子は何がいけないのかって顔して、首を傾げとる。
「そやったら何で、俺に写真のこと言わへんねん。」
「嫌ですわ、平次さんたら。恥ずかしいからに、決まってるじゃありませんか。」
両手を頬に持っていき、いやいやのポーズ。
前は可愛い思うたんやけどな。
「写真の裏に書いたあれは何でや。」
「御覧になりましたの?」
「そうや。」
「和葉さんたら、あの写真まで平次さんに見せるなんて。」
コイツの口から和葉の名前が出た途端、俺の中で何かが切れる音がした。
「オマエええかげんにさらせや!自分が何したんか分かってんのか!」
テーブルを叩いて立ち上がる。
「写真だけやない!あん時のヤツ、あれは何て言い訳する気や!」
俺の剣幕に、不思議そうな顔をしているが動揺の色は無い。
「あれまで御覧になったの?」
呆れた様に笑いよる。
「ほんと、和葉さんて節操の無い方ですこと。」
「何やと?!」
俺が冴子に掴みかかろうとした瞬間、後頭部に鈍い痛みが走った。
意識が朦朧とする。
「平次さん、それは女性に対する態度ではありませんわ。」
それは悪意に満ちた顔やった。
モニターの中で見た、あの笑みやった。


肌に触れる冷たい感触と、後頭部の痛みに目が覚めた。
うっすらと目開けると、薄暗い見慣れん壁が見える。
周りを見回そうと頭動かしたら、
「うっ・・・。」
ごっつう痛みが襲ってきた。
お陰でいっきに意識が覚醒したんやけどな。
「いたたたた。まったく、バカになるやんけ。」
愚痴りながら、両手両足を縛られたままで器用に上半身だけ起きあがり、今の明かりに慣れた目で現状を認識する。
地下のワインセラーやな。
ちゅうことはこの部屋には窓は一つもあらへんし、入り口がこの階段の上だけいうことやなと考える。
ふっと足下を見て、ワインセラーの床、大理石にすんの流行ってるんか?などといらんことを考えてみたりもする。
しっかし、えらいぎょうさん瓶があんなぁ、全部の棚にびっしりやんけ。
いったい何本あるんや?
そやけど何やこの違和感?
何やはっきり分からんけど、何かがおかしい気がすんで。
まぁ後やな。
改めて自分の現状を確認する。
手足を縛っとんのは、ナイロン製のロープで、ボーライン・ノット(舫結び)や。
携帯はもちろんあらへんし財布も無い、ご丁寧に時計まで外してある。
バックはここに来る途中で駅のロッカーに預けたし、鍵もバイクのキー以外はバックの中や。
そこで、そっとジーンズの背中部分の内側を探る。
あるある。
次に体中に精神統一の要領で意識を巡らせる、ちーと頭痛がするだけで特に問題あらへん。


そう思うた時に、鍵を開ける音がした。






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