平 heiwa 和 25
■ 快斗の気持ち 3 ■

「来てる来てる。」
オレは建物の上から、路上を見下ろしていた。
どうやら、姫が怪我したことも知っちまったみたいだな。
オレはアイツラより一日早く、こっちに来ていたんだ。
姫のことも心配だしよ。


オレが和葉のことを姫って呼んでんのはだな、ただそんな感じがしたからだ他意はねぇ。
本人には、和葉って呼んでるぜ。
一度、姫って呼んだら、王子って返されたからな。


なんたって姫には今回のことはまだ、話してねぇんだから。
未だに悩んでるんだ。
話すべきか、黙っとくべきか。

「どうっすかなぁ。」
オレの呟きに、
「何が?」
と姫が不思議そうに返してきた。
今はオレの協力者ピーターの家で夕食中だった。
「いっいや、こっちのこと。」
やっぱ言い出せねぇ。
「そうなん?まっええわ。それより、今度は何でこっちに来たん?快斗、大学あるやろ?」
オレが返事に困っているとピーターが、
「和葉に会いに来たんだよ。」
流暢な日本語で言いやがった。
「もう、何言ってんの〜。」
姫はすっかり、彼に馴染んだようだ。
ピーター・ウィムジィは元々おやじの協力者だったんだ。
しかも一流のマジシャン。今は引退して、マジック教室の先生だけどな。
彼は今度の企みを知っている。
「KIDの仕事やないやろ。そんな噂聞かへんし。」
「『Staircase to the Moon −月への階段−』を見に来たんだよ。」
まっいっか、嘘じゃねぇし。
「何やの、それ?」
「西オーストラリア州ブルームで見られる神秘の大マジックショーさ。」
「そやったら、マジックの修行?」
「違うって、神秘現象。すっげ〜綺麗なんだってさ。明後日、和葉も一緒に見に行こうぜ。飛行機もう予約してあるし、あっちにはピーターのコテージがあるから金掛からねぇしさ。」
「えっ、ほんまに。めっちゃ嬉しい。こっち来てから、観光なんかしてへんから。」
華が咲いたように笑った。
こんな顔も出来るようになったんだ。
アイツも早くこの笑顔見てぇだろうなぁ。
ピーターと楽しそうに旅行の話をしている姫を見て、そう思った。


次の日、アイツラが先にブルームに飛び立つのを確認して、オレは姫を連れ出した。
「なぁ和葉、軽井沢での話したよな。」
さっきまで、浮かれていた顔が急に曇った。
「まだ、日本に帰る気になんねぇ?」
長い髪が風になびいて、右手でそれを耳にかけ直している。
「快斗には、ほんまめっちゃ感謝してんねん。そやけど・・・。」
「アイツ、和葉のこと探してるぜ。」
「・・・。」
アイツの名前を形どった唇は、すぐにぎゅっと閉じられた。
「まだ、許してやれねぇか?」
「そんなん、ちゃうよ。・・・が悪いんやないもん。」
「だったらさぁ。」
「あたし・・・・あたし自身が許せへんねん。」
以外な言葉にオレは、立ち止まってしまった。
「誰んせいでもない。逃げ出したんはあたしや。あたしはあたしに負けたんや。そやから・・・・帰られへん。」
表情の無い顔は、まだ傷が癒えて無いことを表している。
そうだよなぁ。
あんなことくらいじゃぁ、ダメだよなぁ。
オレはそこでこの話を打ち切り、姫をある店に誘った。
「明日、着ていく服、買おうぜ。」
「えっ?ええよ。別に。」
「いいって、いいって。これなんか、和葉に似合いそうだぜ。」
オレは姫に、胸の傷が隠れるデザインの真っ白いサマードレスを買った。
そう、花嫁に見えるようなヤツさ。



いよいよ明日だぜ。
わざわざ、宣戦布告してやったんだ。
しっかり、気合い入れて来いよ、西の名探偵くん!






蘭の気持ち 2 平次の気持ち 11
novel top 平heiwa和 top