平 heiwa 和 27
■ 快斗の気持ち 4 ■

朝一のフライトでブルームに入り、姫をコテージに残しピーターと教会の下見に行った。
姫を一人にするのは抵抗があったんだが、仕方ねぇだろう。
オレ達が仕掛けを済ませ、部屋に帰ると、姫が人形の様に座っていたんだ。
「和葉?・・・かずは!どうした?何があった!」
無表情な白い顔は、マネキンのようだ。
「・・・・へいじ・・・。」
「 !? 」
「・・・へいじ・・に・・・・・でんわ・・・・・まちが・・・えて・・・・・・・・。」
辛うじて保っていた仮面も、アイツはあっさり砕いちまうんだな。
ピーターは優しく娘の様に抱きしめて、姫に人間らしい温もりを与えている。
オレは近くの椅子に座り、何も出来ずに、ただ待つしかなかった。
時間が経ち姫がとぎれとぎれに話した内容は、お昼はどうすのかとオレの携帯に掛けようとして間違えて、
アイツに繋がっちまったこと。
アイツと話しをしたこと。
アイツに会いたいと言われたこと。
それを・・・断ったこと。
オレは姫を一人にしたことを後悔し、そして、姫のアイツへの想いを改めて感じていたんだ。
アイツの一言は、オレ達が何ヶ月も掛けて築いてきたモノを一瞬で壊す。
自らアイツを拒絶したことに、会いたいのに会えない自分自身に、形を取り戻しかけたココロに姫自身が再び傷を付けてしまう。


ここの電話が非通知で良かった、そんなことも頭をかすめた。
今の状態でアイツが来たら、きっと姫は自分をもっと苦しめる。


姫の心に傷を付けたのはアイツ。
姫の体に消えない傷を付けたのはオレ。
あの時、オレが自分の保身にかまけてなかったら、姫がそんな傷を負うこともなかったんだ。
だから、だからせめて、心の傷を軽くしてやる。


オレとピーターは無言で頷き合い、今回のことをすべて伝えたんだ。
そして、アイツが自分の意志で姫を迎えに来たことを。
姫はピーターを押し退け、首を振って後ずさろうとする。
「和葉!逃げるな!」
「今のままで、いいわけねぇだろ!」
「アイツには和葉が必要だ!」
姫の動きがピタリと止まる。
「和葉にもアイツが必要だ。そうだろ。」
「どんなに避けても、どんなに逃げても、和葉が最後に帰る場所は、アイツのとこしかない!」
「オレの言ってること、違わねぇよな。」
姫はじっとオレを見ている。
「アイツは日本でキッチリけじめを着け、和葉を迎えにここまで来たんだ。和葉には、そんなアイツにちゃんと対する義務があるんじゃねぇのか?」
俯いてしまった。
「それとも、まだ、自分自身が許せないからと逃げるのかよ?」
はっ、と顔を上げる。
「何も伝え無いまま、アイツ日本に帰らせちまっていいのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・いやや・・・・・。」
よしっ!答えた!
「だったら、オレに、いや、KIDに賭けてみねぇか!」
「そうだよ、和葉。僕とKIDに任せてくれたまえ。」
黙って見ていたピーターが、そっと姫の肩に手を添えて優しくささやいた。
そして、姫はオレ達の顔を見て、ゆっくり頷いたんだ。
オレ達3人は、さっそく今夜のことを話し合った。
姫の不安そうな表情は見ないようにしてな。


間違い電話の件は、後でアイツラとオレが同じレンタル会社だったことが分かった。
多分、一ケタ違いくらいだったんだろうよ。
まったく、焦っちまったぜ。
レンタル会社の申込みも、もちろん偽名だ。問題無い。


姫をアイツに帰して、オレは青子の元に帰る。
日本を出る時、そう心に決めたんだ。
いまさら、失敗なんか出来ねぇ。


後、アイツのことがちょっと気になった。
姫に拒絶されて、落ち込んでいるだろうあの男。
もう時間は無いんだぜ。
きっちり、気合い入れ直して来いよ!服部平次!!






平次の気持ち 11 新一の気持ち 3
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