平 heiwa 和 29
■ 和葉の気持ち 9 ■

「わ〜!めっちゃきれいや!」
コテージのテラスから見える夕焼けは、地平線を境に空と海をオレンジ色に染めてるんや。
「快斗、ピーターほんま、ありがとな。あたし、こないに綺麗な夕日見たん始めてやわ。」
振り返ると快斗はいたんやけど、ピーターがおらへん。
「ピーターは?」
「サンドイッチ作りに行ったぜ。」
快斗は携帯ゲームやっとる。
「あんな快斗、あたしファーストキスやってん。」
あっ、やっぱり驚いとる。
「マジ?」
「マジ。」
あたしは再び、夕日の方を向いた。
快斗が隣に来て、同じ様に夕日を見た。
「快斗には、いろんな経験さしてもろたわ。ファーストキスやろ、それに麻酔無しの傷の手当て、男性との二人暮らしに手品の助手。初体験、天こ盛りや。」
「はぁ〜、ろくなモンがねぇ〜。」
手すりに肘を衝き、頭抱えとる。
「くすっ。それに、命助けてもろた。」
「傷・・・、残しちまったけどな。」
「快斗のせいやないやん。」
「オレのせいだ。」
「そやったら、これは快斗があたしにくれたお守りや。」
そう、あたしの2コ目のお守り。
「このお守りが、あたしの壊れたココロを、丸う繋ぎ合わせてくれとるもん。」
快斗が不思議そうに見とる。
その頬が赤いのは、夕日が写っとるから。
「かなわねぇなぁ・・・。」


「けど・・・ほんまは、怖いねん・・・。」
そうや、めちゃくちゃ怖い。
さっきみたいに平次の声を聞いただけで、体もココロも反応してしまう。
あたしがあたしを守ろうと、勝手にココロを隠してしまう。
自分では、もう、どうしようもでけへん。



平次に会うのが怖い。



やって・・・仮面は・・・もう、勝手に一人歩きしとる。
あたしの意志と関係なく、表れてまう。


平次に会うても、前のあたしには・・・きっと・・・戻られへん。


きっと、平次を前の様に無条件では・・・受け入れられへん。



平次は・・・何で・・・あたしを迎えに来たんやろう。



「アイツなら、きっと、そのままの和葉を受け入れてくれるさ。」
快斗が優しく言ってくれる。
「アイツは、その為に来たんだ。和葉だけを受け入れる為だけに。」
快斗が答えをくれる。
その答えも声も、優し過ぎて、どこか寂しそうに聞こえるのはなぜなん。
「帰れよ。アイツんとこに。」
「快斗・・・。」
「オレが和葉を、アイツのとこまで届けるからさ。」
まっすぐ見詰めてくれる瞳は、真剣で優しい。
「うん。・・・・・・・お別れやね。」


快斗とはもう会えない。
それは、あたしに今までとは違う小さな痛みを与えた。




月が表れる前の暗闇、静寂を強める教会の鐘。
「さぁ、姫。」
あたしに差し出される白い左手。
そっと右手を添える。



あたしがあたしらしくいられる場所に、帰る為の儀式が今始まる。






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