平 heiwa 和 30
■ 3人の気持ち 1 ■

突然なり出した鐘に、少し離れたとこにおるねぇちゃんが息を飲む気配がしとる。
そん位の静寂や。
岬の先、水平線より月が出る。
赤い、えらい紅い月や。
そして、俺と月を遮る様に、アイツは忽然とそこに現れたんや。
なんもない、黒い岬の上にや。
「ようこそ、怪盗キッドの結婚式へ。」
「我が花嫁をお目に掛けましょう。」
そう宣うて、右手でマントを払いのける。
「かっ・・・・・・・・。」
顔を覆い隠しとるベールも、白いドレスも、紅い月の明かりを受けて俺には紅こう染まって見えたんや。
「和葉!かずは〜〜〜〜〜〜!」



「かっ和葉ちゃん!?」
KIDの白いマントに包まれ、立ってるのは和葉ちゃんよね。
長いベールのせいで顔が見えないけど、あれは間違いなく和葉ちゃんよ。
どうして、どうして、服部くんの声に答えないの?



とうとう始まりやがった。
あの野郎、また空中に浮いてやがる。
しかも、傍らに和葉ちゃんを伴って。
オレ達はずっとここにいたのに、アイツが現れるまでその存在にさえ気付いてねぇ。
どうやって、どっから現れた?



和葉んやつ、俺に何の反応も示さへん。
アイツについて俺に背を向けよる。
何でや!



あの時みたいに、何も無い空間を二人で歩いて行く。
オレ達に背を向けて。
二人の足下には、『月への階段』がゆっくりヴァージンロードの様に延びてきている。
どうなってるんだ?
足下が見えてるから、何かの上を歩いてる訳じゃねぇ。
しかも、上空にヘリがいる気配もねぇ。
二人の姿に気を取られて、鐘がいつ鳴り止んだのか気付かなかった。



とっても綺麗。
こんなこと思っちゃいけないのに、目が離せない。
KIDはまるで和葉ちゃんを労るように、彼女に合わせて歩いてる。
ゆっくり、ゆっくり・・・月に引き寄せられて行っちゃう。
呼び止めたいのに声が出ないよ。



和葉のやつ、何やっとんや。
ほんまにソイツと・・・。
和葉が他ん男の隣におるんが、こんなにムカツクことやったんや。
あいつが俺を拒絶することが、こないに辛いことやったなんて。
・・・・・・離さへん。
もう、絶対に和葉んこと離さへん!!
あいつが嫌やや言うても、関係ない!
俺があいつの側におりたいんや!
そやのに、このどうしようもない不安は何や?



「  The ceremony which swears eternity  」



どこからともなく聞こえて来た声に、二人は立ち止まり向かい合う様に立ってる。
でも、ベールに隠された和葉ちゃんの表情は見えないよ。
どうしてなの?
どんな顔してるの?
KIDの右手がゆっくり空に向かって上げられていくのが見える。
「えっ・・・。」



「アイツなんだって、あんなモノ・・・。」
KIDの手に握られているモノ。
それは・・・・。
「ヤメ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
服部の悲痛な叫びが響くなか、ヤツは無情にもその手を和葉ちゃん目掛けて振り下ろした。
「いっイヤ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
「 蘭!! 」
オレは慌てて蘭の体を受け止めた。
蘭が泣き崩れて、気を失っちまったからだ。
アイツの右手に握られていたモノ。
それは、月明かりに輝く剣だった。






和葉の気持ち 9 3人の気持ち 2
novel top 平heiwa和 top