平 heiwa 和 32
■ 3人の気持ち 3 ■

考えるより先に、体が勝手に動いっとった。
和葉を必死で抱きしめる。
一瞬、和葉が笑ったように見えたんや。
次の瞬間、俺らは黒い海に頭から突っ込んどった。
和葉は気を失っとる。
今はその方がええ。



教会の伝説。
帰らない恋人を待ち続けた女達の話し。
KIDのあの言葉はどこにあった?
そうだ、女達が恋人を待ちきれず自害するところだ!
1本の剣で胸を貫き、愛おしい人に再会出来ることを願い。
ひとりづつ海に身を投げていく。
それから・・・・
「身を投げてから、それから・・・・それから先は・・・・・・。」
う〜〜・・・思い出せねぇ・・・。



海に落ちた勢いが止むのを待って、水面に向かう。
その途中、波に揺れ動く鎖が目に入った。
とにかく今は、水面に上がることや。
和葉を抱きしめとる腕に力を込め、頭上の月を目指す。
「ぷはぁっ。」
大きく息を吸い込み、俺の胸にある和葉の顔を見る。
「和葉!和葉!」
月明かりに照らされた表情の無い白い顔は作りモンみたいや。



「残された最後の一人がその剣をある場所に隠し、死ぬまで守り通すのですよ。」
「キッド!!」
オレから数メートル離れた場所に、アイツは悠然と立ってやがる。
「これからお話する事の、すべての判断をアナタにお任せします。」
そう言って、アイツが語ったことはやはり和葉ちゃんのことだった。
「この話しをアタナにすることは、姫も了解しています。そして、カレに伝えるかどうかも、アナタに任せると。」



和葉自信が工藤新一に伝えて欲しいと言った。
だからオレはコイツに話した。
本当は誰も知らなくたっていいはずだ。
もう、和葉自信忘れているのに。
暗示により閉じこめられた和葉の記憶。
暗示を掛ける条件がコイツに話すことだった。
オレが望んだ、だから約束は守る。
自分の罪をコイツに問うのか?和葉。



和葉は辛うじて息をしとる。
昼間見た限りやと、この近くに岸も登れそうなとこもあらへん。
しかも、服が水を吸って重とうなっとる。
和葉を抱えたままやと、それを脱ぎ捨てるこもでけん。
俺は再び大きく息を吸い込み、和葉を連れて水ん中に潜ることにした。



「そこまで和葉ちゃんに構うのに、何故あんなことをした!」
当然の疑問だな。
「あれは儀式ですよ。本当に刺した訳ではありません。」
ネタバレしてるぜ、オレ。
不思議がるのも無理ねぇ。
コイツラからは、本当に刺してる様にしか見えなかったはずだからな。
「言い伝えは真実を隠すものですよ。」
これだけ言えば、コイツには分かるだろう。
「赤き姫は我が花嫁として、確かに頂きました。」



そう言い残し、今度こそ本当にKIDの気配は闇に吸い込まれていった。
今はヤツを追いかける気もねぇ。
「う〜ん・・・。」
「蘭?」
「かっ和葉ちゃんは?」
蘭が不安を全面に出し、飛び起きる。
そうだ!服部!
時計を見る。
服部と和葉ちゃんが落ちてから、約10分が経過していた。
水面の月光は一つになりつつある。






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