平 heiwa 和 33
■ 2人の気持ち 1 ■

明かりが届く、ギリギリんとこに鎖は揺らめいとった。
掴むと、長い時間海中に放置されとったんやろ、錆びてざらついた感触がした。
無我夢中でそれを手繰っていく。
左腕ん中に和葉を抱きしめて。
思った通り、なんとか水面に辿り着いたんや。
急いで和葉を抱きかかえ、岩の上に上がる。
どこから明かりが入ってきとるんかわからんけど、洞窟ん中は暗闇やなかった。
「和葉!かずは!」
信じられへんけど、和葉の白いドレスには傷も血の跡もあらへんかった。
そやけど何の反応も示さんこいつに、俺は生まれて初めてほんまもんの恐怖を感じとった。
失うかもしれへん恐怖。
和葉を永遠に失うかもしれへん恐怖。



『言い伝えは真実を隠すものですよ。』
KIDの言葉が蘇る。
「・・・・・・・・・・女達の自殺は偽り・・・・だとすると・・・・・。」
剣で胸を刺してはいない、その行為はそれまでの想いへの決別を表す儀式。
そして、海に身を投げたのは・・・・。
「新一!和葉ちゃんは!服部くんもどうしちゃったの?新一!!」
無言で考え込んでいるオレに、蘭の苛立ちが向けられる。
『新たな時を生きる』
そうだ!
生まれ変わる為だ!
それまでの自分を殺し、違う人間として生きていく為に!
そうか!そういうことか!
「いくぞ、蘭!」
戸惑う蘭を連れて、オレはある場所に向かって走りだしていた。



気が変になりそうやった。
俺の頬を流れ落ちていくんは、海水なんか涙なんか分からん。
いやや・・・・。
「そんなん認めへん。」
和葉がおらんようになるやなんて、絶対に認めへん!
「オマエは俺の側におらんとあかんのじゃ!」
力いっぱい抱きしめる。
白くて細い体は冷たく、こんなに小さかったんや。
目開けてくれ。
俺を見てくれ。
頼む・・・・・・たのむから、俺に笑ってくれや・・・・・・・・・・・。
始めて触れた和葉の唇は、冷たくて柔らかやった。



「ここだ!」
オレと蘭が辿り着いたのは、教会から少し離れた墓地だった。
死んだとされる女達の十字架。
中央に、生き残った女が剣を隠したとされる祭壇がある。
どこかに。
どこかにあるはずだ!
「何やってるの?新一!」
「蘭も一緒に探してくれ!どこかに地下への入り口があるはずなんだ!」
何も分からず不満ながらも、蘭は祭壇の周りを探し始めた。



一度、触れると離れることが出けへん。
何度も何度も口づける。
だんだん深く、俺の気持ちが和葉に伝わるのを願い。
「うっ・・・。」
和葉の眉と指先が僅かに動いたんや。
「和葉!」
瞼が揺れ、ゆっくり瞳が開かれる。
「へいじ・・・・。」
「そうや。」
俺の顔が勝手に、安堵と嬉しさを表しとる。
「平次?平次。平次!う〜〜うっ、わぁ〜〜〜〜〜〜〜!」
和葉は何度も俺の名前を呼び、抱き付いてきた。
子供の様に、泣きじゃくりながらや。
和葉が俺の名前を呼んでくれる。
和葉の温もりが俺の腕ん中にある。
俺の頬を流れてるモンはやっぱり涙やった。
さっきまでの恐怖が嘘みたいに消え、新たな感情が生まれてきた。
体中を満たす愛おしさや。
「迎えに来たで、和葉。」
「うん・・・・ひっく・・・・うん、うん。」
泣きながら、首を縦に振る。
震える背中を抱きしめる腕に力が入った。
和葉がゆっくりと顔を上げ、俺を見とる。
俺は再びその唇に自分のを重ねていった。
和葉の温もりに想いの全てを込めて。






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