平 heiwa 和 36
■ 平和の気持 ■

部屋に戻ると、ベットに座り込む。
体は疲れてるんやけど、眠気なんまったくあらへん。
「和葉の寝顔、いつから見てへんかったんやろ・・・。」
隣のベッドで眠るその寝顔から、視線が動かせへん。
記憶にあるんはまだ幼さを残したあどけない寝顔やのに、今、俺を惹き付けて離さへんそれは・・・・・。
「・・・・・!」
頭ん中に、さっきの月明かりに照らされた人形の様なこいつの顔が浮かび上がった。
不安が再び俺を襲う。
「かずは?」
右手が勝手に和葉の頬に触れる。
すると和葉がくすぐったそうに、少し動いたんや。
「はぁ・・・・。」
全身から力が抜ける。
たった、そんだけの事で俺の不安はあっさり消え去った。
和葉はここにおる。
俺の側にちゃんとおる。
「かんにんな、和葉。」
俺が和葉に付けてしもた傷は、どんくらい深いんやろか。
ねぇちゃんから聞いた、あの写真みてからの和葉ん気持ち。
それに、まったく気付いてやれへんかった。
「幼馴染みとしても失格なんやないんか、俺。」
「・・・そんなこと・・・・ない。」
目を閉じたまま、頬ん上にある俺ん手に自分の手を重ね、その声は小さく俺ん耳に届いた。
「和葉。」
「平次。」
和葉の声が聞こえる。
「好きや・・・和葉。」
許してもらえるなん思ってへん。
思ってへんけど・・・・、側に居って欲しい。



「あたしも・・・・。」
あたしの声は最後まで言葉にならへんかった。

和葉の言葉が終わるんを待てずに、その唇をそっと鬱ぐ。
「気付いてやれんで、かんにんな。」

平次のちょっと悲しそうな声。
そして、またキスをくれる。

「辛い思いさせて、かんにんな。」
また、和葉の唇に引き寄せられる。



平次は一つ謝るごこに、一つキスをくれる。
最初は触れるだけのキス。
次は小さく音を立てるキス。
だんだん触れ合っている時間が長くなる。
あたしが欲しかったもの。
どんなに願っても、どんなに祈っても叶わへんと思っていたもの。
あの写真を見た時、願うことを諦めてしまった。
あの映像を見た時、祈ることの意味が分からなくなってしまった。
そして、あの夜、掛かってきた電話に逆らうことなどまったく出来へんかった。
告げられた場所に行ってみると、彼女と数人の男。
何か言われたけど、まったく覚えてへん。
気が付いた時には、男が倒れとった。
引きちぎられた服と、地面に広がる真っ赤な血の色。
「あっ・・・。」
息が出来けへん。
「和葉?かずは!」
遠くから心配そうな平次の声が聞こえる。
トクンッ。
何の音やろ?
トクンッ。トクンッ。
温かい音。
トクンッ。トクンッ。トクンッ。
あ〜、平次の心臓の音や。
その音にあたしの心も答える様に動きだす。

トクンッ。
トクンッ。

トクンッ。トクンッ。
トクンッ。トクンッ。

トクンッ。トクンッ。トクンッ。
トクンッ。トクンッ。トクンッ。

ほんま、温かい。
平次の側はこんなにも温かいんやね。
少しずつ息を吸い込んでみる。
平次の臭いがした。
思わず平次の首に手を伸ばしかけて、自分自身に戸惑ってまう・・・。
すると、そっと平次が近づいて来た。
・・・ありがと・・・平次。
ゆっくり腕を回して引き寄せると、平次がくすぐったそうに小さく笑った。






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