平和のあとに 5
■ 平次の心労 ■

「和葉〜、何か温かいモンくれ〜。」
俺はドアを開けるなり、いるであろう和葉に呼びかけるんが日課や。
「おかえり〜平次。もう事件は解決したん?」
和葉は上機嫌で、玄関まで靴を脱いでる俺を出迎えに来た。
「おお、終わったで。なんや〜?、今日はえらい機嫌がええやないか。何か、あったんか?」
「フフッ。それより、お腹空いてないん?」
ニコニコ笑顔で、キッチンに戻って行く。
しかも、”フフッ”ってなんや?気になるやんけ。
「ほんま、何があったんや?めっちゃご機嫌やん自分。」
バックを自室に放り込んで、そのままリビングに向かう。
そこでまず目に入ったんが、テーブルの上の真っ赤な薔薇一輪。
何やこれ?
ちい〜っと眉間に皺が入る。
「どうしたんや、これ?」
俺の少し低く〜なった声にも和葉はまったく気にすることなく、とんでも無い答えを返して来よった。
「あっそれ?綺麗やろ〜。さっき、KIDに貰ってん。」
「・・・・はいぃ?」
いっ今、何て言うた?
KIDって言うたか?
間抜けな声同様に、思考回路もちょっと止まってしもた。
「平次!何突っ立てんの?ごはん冷めてまうよ。」
和葉はいつもの様に、和食の献立を俺の席に並べとる。
和葉に別段変わった様子は無い、ご機嫌なことを覗けばな。


気にいらん。


「いつや!ヤツはいつ来たんや?」
「やから、さっきやて。平次が帰ってくる、30分位前。」
「でっ、何しに来たんや?」
「知らん。お風呂入って出て来たら、テーブルの上にその薔薇とカードが置いてあったんやもん。」
「カード?」
和葉はポケットからKIDのカードを大事そうに取り出す。


ほんま気にいらん。


カードを引ったくってその文面に目を通す。本物やんけ、これ。
『 親愛なる姫へ 笑顔こそあなたに相応しい 愛を込めて 怪盗KID 』
一瞬にしてカードを握り潰す。


メッチャ気にいらん!


「あ〜ちょっと、平次〜何すんの〜。」
和葉が俺の手からカードを取り返そうとする。
それを無視して、薔薇もろともゴミ箱に放り込む。当然やろ。
「あ〜〜〜〜、せっかくKIDがくれたのに〜〜〜〜。」


ごっつう〜気にいらん!!


ゴミ箱に手を伸ばそうとする和葉を無理矢理椅子に座らせ、俺も自分の席に着く。
言いたいことは色々あるんやけど、まずは自分を落ち着かせる為にも飯を食うことにした。
向かいにおる和葉はブツブツ文句言うとる。


和葉からKIDのことについては、一通りの話しは聞いとる。
助けてもらたこととか、それからの生活のこととか。
やけど、KIDの正体は知らないの一点張りや。
ほんまに知らんのかもしれへんし、ほんまは知ってるんかもしれへん。
微妙やな。
これが一番、俺を不安にさせるんや。
そやかて、あのKIDがあそこまで和葉に関わったんやで。
気になって当然やろ。
そやから、和葉を一人にさせとうなくてこっちまで連れ来て、一人で勝手にウロチョロさせへんで、ずっと側におるのに・・・。
ち〜っと俺が目を離した隙に、アイツが来とったら意味無いやんけ!
これやったら、和葉を一人部屋に残してどこにも行けへんやん俺!
「平次。どうしたん?めっちゃ眉、眉間に寄っとるよ?」
和葉は呑気に両手で頬杖なんぞついて、不思議そうな顔をしとる。
あんなことがあったのに、この女の鈍感ぶりは相変わらずや。
少しは俺の心労にも気付かんかい!
「お前はKIDのことどう思ってんのや?」
「へっ?」
意味が分からんって顔やな。
「そやから、あんなん貰〜って和葉はどうやねん?」
「嬉しいに決まってるやん。」
「はぁ〜?」
何きっぱり肯定してんねん。
「やって、KIDは恩人やし、友達やもん。」
嬉しそうに言い切るんやないで〜まったく・・・。
「はぁ〜・・・・・。」
問い詰める気も、食欲もいっぺんに無くなってもうたやんか。
こんなんなったんも、元はと言えば俺の自業自得やしなぁ。
もしかして、やっぱ俺のこと許せへんのんか・・・。


「でも・・・・平次が一番好き・・・・。」


落ち込みかけとった俺の耳に飛び込んで来た声。
目線を上げると、耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに微笑んでる和葉。
その赤さが俺にも伝染する。
・・・・・・・・・・・・完敗や。
あっさり白旗を上げる。
元来、負けず嫌いなんやけどなぁ俺。
和葉、相手やとどうにも勝負にならへん。


気い付いたら、和葉が俺の腕の中で寝むっとる。
ここは俺の部屋の俺のベット。脱ぎ気散らかされた服。
あっあかん・・・・またや・・・・・・いっつもこんなんやったら、和葉のベットいらんやん・・・。
ほんま、こいつ相手やと俺の理性なんかあってないようなもんやで。
まったく、幸せそうな寝顔しよってからに。
そやけど、和葉の寝顔を見とると、こいつを一人に出来けへんもう一つの理由が頭を過ぎる。
俺が側におったら、それは表れへんけどな。
「もう、一人で苦しむんやないで。」
和葉の額にそっと口づけて、俺も目を閉じた。



ちょっと前に工藤が言うとった話し、明日詳しゅう聞いてみるか。
睡魔に襲われる瞬間、そう思〜とった。






快斗の頭痛 和葉の楽しみ
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