平和のあとに 8
■ 彼女たちの溜息 ■

「ねぇ、和葉ちゃん。」
「なんや、蘭ちゃん。」
「これ、私達も入る?」
「そうやね、東都大生以外も大歓迎!って書いてあるしな。」
あたしと蘭ちゃんが見てるんは、東都大学サークル専用掲示板。
ここは、東都大学の敷地内。
あたしらは平次たちにナイショで、東都大学を見学に来たんや。
やって、何遍言うても平次連れて来てくれへんのやもん。
蘭ちゃんもしばらく来てへん言うたし。
そして、2人で最初に見付けたのが、この掲示板の会員募集のポスター。
「『E & W DETECTIVE サークル』やって。」
「この写真、隠し撮りよね。」
笑顔の工藤くんと平次の写真が並べて印刷されとる。
「「はぁ・・・・・・。」」



2人のため息も重なるわよね。
これって、新一と服部くんのファンクラブじゃない。
前来たときには、なかったのにいつの間にこんなの出来たのかしら。
最近、ここに来るのを拒んでた理由って、絶対これよね。
「服部くん、何か言ってた?」
「なんも。工藤くんは?」
「まったく。」
「平次が連れて来てくれへんかったのは、きっとこのせいやな。」
「新一も最近、私が来ようとすると慌てて迎えに来てくれたりしてたのよね。」
「どうする?蘭ちゃん。」
「もうちょっと、様子みてみない?」
「そうやな、せっかくここまで来たんやしね。」
お互い再度、大きなため息を吐いたのよ。
「「はぁ・・・・・・。」」



あたしらは取り合えず法学部の教室を目指すことにした。
ここの見取り図は一応ネットからプリントして来たんやけど、何々この造りメチャクチャ酷いやん・・・・迷路やわ。
「蘭ちゃん。」
「何?和葉ちゃん。」
「今、どこにおるか分かる?」
「さっぱり。」
あたしらもうかれこれ30分以上歩いてるんやけど、全然目的地に着く気配すらあらへん。
どうなってんのこの大学。
「誰かに聞いてみる?」
「う〜ん。説明されて分かるかなぁ・・・。」
「・・・・・・・・・・無理かも。」
あたしらは相当不機嫌やった。
歩き疲れたんもあるんやけど、要因はその他の方が遥かに大きいんや。
すれ違う女子達の半分くらいが、あの推理ドアホらの話ししてんねん。
どっちがカッコいいとか、どっちのファンだとか・・・・・・・まるでアイドルやん・・・。
ほんま、どうなってんねんこの大学。
蘭ちゃんと目が合うて、何度目かのため息がこぼれた。
「「はぁ・・・・・・。」」



『服部くんと工藤くんが、中庭にいるんだって行ってみない!』



ちょっと休憩しようかって話してた私達の耳に、飛び込んできた嬉しそうな女の子達の声。
「中庭だって、和葉ちゃん。」
「そうみたいやね、蘭ちゃん。」
「行ってみる?」
「遠〜くからなら。」
「私達が今いるのが3階だから・・・。」
辺りの教室からだいたいの場所を確認して、中庭が見下ろせる所を探す。
「あの渡り廊下を渡って次の次の棟くらいかしら?」
「とにかく行ってみよか。」
そう言って歩き出した私達は、あっさりと中庭が見渡せる場所に辿り着けたの。
だって、何人もの女の子達が同じ方向に向かって走って行ってるんだもの。
いくら、初心者の私達だって迷わないわよ。
辿り着いた窓から下を見下ろして・・・・・・・。
「なんなん?あれ?」
「さぁ・・・なんだろうね。」
和葉ちゃんの声は、かなり低くなってる。
もちろん、私もだけど。
眼下に見えるのは、日当たりの好い場所で何か話してる新一と服部くんとその他大勢。
しかも、その周りにはその集団を取り囲むように女の子達の輪が出来てる。
いくら天気が好いからって、12月に外の芝生で何してるの。
「校舎からのギャラリーも多いんやね。」
「私達もその内の一人よね。」
「帰ろうか、蘭ちゃん。」
「そうだね、和葉ちゃん。」
「「はぁ・・・・・・。」」



あたしらが立ち去ろうとしたとき、隣にいた女の子が窓を開けて大声を出したんや。


『工藤く〜ん!!服部く〜ん!!こっち見て〜〜〜!!!』






蘭の企み 彼女たちの彼氏たち
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