平和のあとに 9
■ 彼女たちの彼氏たち ■

平次と工藤くんが同時にこっちを見上げたんや。
「なぁ、蘭ちゃん。工藤くんて、視力ええん?」
「うん、とっても。新一、眼科で視力測るの大変だったのよ。」
「平次とおんなじや。」
「ねぇ、和葉ちゃん。」
「何、蘭ちゃん。」
「キャップ帽とGジャン、服部くんのよね。」
「そうや。帽子とGジャン、工藤くんのやろ。」
「うん。気付いたかな。」
「あの様子やとそうみたいやね。」
2人がじっとこっちを見上げて、何か話しとる。
ふっと隣を見るとさっきの大声出した女の子が、あたしらの会話を不思議そうに聞いとった。
ニコッっと微笑んで、視線を下の2人に戻す。
「なんや今日はどうしても、平次に負けとうないわ。」
「奇遇ね、和葉ちゃん。私も絶対、新一に捕まりたくないのよ。」
「ほな、蘭ちゃん。」
「あとでね、和葉ちゃん。」
パ〜ン!!
あたしの左手と蘭ちゃんの右手が大きな音を立てた。
と同時にあたしらは互いに背中を向けて走り出したんや。



「あいつら何やってんだ?」
「そんなもん、捕まえて聞けばええやろ。」
「そうだな。」
「ほな、行くで。」
俺と工藤は左右に向けてほぼ同時に走り出しとった。
「おっおい!工藤!服部!どこ行くんだ?」
そんな声に構っとられるかい!
『きゃ〜〜〜〜〜服部く〜〜〜〜ん、どうしたの〜〜〜〜〜〜!!!』
『く〜〜〜ど〜〜〜〜く〜〜〜〜ん、待って〜〜〜〜〜〜〜〜!!!』
和葉らにもこの奇声聞こえてるんやろな〜、こっ怖。
そやけど何で和葉が、ここにおんねん?
俺はドアを乱暴に開け、校舎の中にそのままの勢いで走り込む。
左に曲がり、正面にある階段を目指す。
「うわっ。」
「すまんっ!」
何人かにぶつかりそうになる。
遠目でよ〜分からんかったんやけど、俺の帽子と服を着とるんが和葉やと思う。



和葉ちゃんと別れて、私は窓を右側に走っているの。
今日は、ぜ〜〜〜たいに新一に捕まってやらないんだから!
何よ、た〜〜くさんの女の子達にキャ〜キャ〜言われちゃって!
怒りに任せて、正面にある渡り廊下のドアを大きな音を立てて開けた。
全速力で隣の校舎に向かう。
『あっ!きゃ〜〜!見て見て〜〜〜!』
私が今横切って来た階段の方で、女の子の甲高い声がしてるの。
はっ腹が立つけど、どこにいるかが分かり安いのよね。
廊下を渡りきり、違う校舎に飛び込むと左に曲がる。
もちろん、走る速度を落としたりなんかしないよ!



くそ〜〜〜蘭のやつ何考えてんだ〜!
オレは服部と反対方向に走っている。
さっき見上げた校舎にいたのは、確かに蘭と和葉ちゃんだった。
オレ達が気付いたことを確認すると、左右にいきなり走り出しやがって。
あの走り方はこっちに下りて来るって感じじゃねぇよなぁ〜。
いかにも”逃げます!”ってやつだよな〜やっぱり。
「ごめん!」
丁度、ドアを開けた女を押し退けて校舎に入る。
『キャ〜工藤くんよ〜!!』
うっせ〜んだよ!まったく!
最近、この手の女が以上に多い気がするぜ。
中にはここの学生じゃねぇヤツも結構いやがるらしい。
オレは階段を、一気に2階まで駆け上がった。
廊下を走って来る足音が聞こえる。



見付けた!
オレのキャップと服を着た蘭は、オレに気付くと慌てて方向転換しやがった。
「逃がさねぇぜ!蘭!」
蘭の右手首を力いっぱい掴む。


おった!
目の前の階段を下りようとしとる。
「ちょ〜待てや!和葉!」
階段の途中でやっと和葉に追いついて、その左腕を強引に引っ張ったんや。



「「  きゃっ!  」」


「「  えっ!  」」






彼女たちの溜息 彼氏たちの彼女たち
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