平和のあとに 10
■ 彼氏たちの彼女たち ■

「ちょ〜痛いって、工藤くん!」
オレが掴んでいるのは、和葉ちゃんの手首だった。


「服部くん!痛いよ!」
俺が引っ張ったんは、毛利のねぇちゃんの腕やった。



「「  やっ・・・やられた〜〜〜〜〜!!  」」



オレのキャップとGジャンを着た和葉ちゃんが、痛そうにオレの手を振り解く。
「あかんよ、大切な人、間違えたりしっとったら。そうやろ、東の名探偵さん?」
そう言って、挑発的に微笑む。


俺ん帽子とGジャンを着とったんは、ねぇちゃんやった。
慌てて掴んどった腕を放す。
「ダメじゃない!好きな女の子間違えたりしたら!そうでしょ、西の名探偵さん?」
見上げてくる目は、挑戦的に笑ろうとる。



「・・・・・・・・・・・。」
言葉が出ないオレに、和葉ちゃんは被っていたキャップを取って差し出した。
「はい。」
「あっ、ああ。」
そして、いきなりGジャンも脱いで差し出す。
「えっ・・・・・。」
Gジャンの下に着ているのは、半袖のTシャツ1枚だぜ。
12月だぜ、今?
驚いているオレに、
「早う、それ、蘭ちゃんに持って行ってあげんと、風邪引いてまうよ。」
って髪を解きながら言ってきた。
「蘭も半袖なのか?」
「そうや。」
そして最後に満面の笑顔で、
「大学の敷地から外に出たら、あたしらの勝ちやからね。がんばって、蘭ちゃん捕まえてや。」
そう言い残し、長い髪を靡かせてオレの横をすり抜けて行った。
和葉ちゃんを捕まえるのは、服部の役目だ。


「ねぇ、聞いてるの?服部くん?」
一瞬ぼ〜っとしとった俺に、楽しそうな笑みを浮かべて被っとった帽子を返してきた。
「おう、おおきに。」
「それと、これも返しておくね。」
っと着ているGジャンを脱いで・・・・はぁ〜〜?
「下・・・Tシャツ1枚かいな・・・?」
ちょう待てや、いくら今日が温かいゆうても、真冬やで。
「気にしないで。」
そう言って、Gジャンを差し出しとる。
「そやかて、そのままやったら寒いんと違うか?」
「服部くん、気にする相手が違うよ。早く、持って行ってあげないと、和葉ちゃんが風邪引いちゃうんだから。」
「和葉もTシャツだけなんか?」
「そうよ。」
髪を後に垂らしたねぇちゃんはゆっくりと階段を下りながら、
「大学の敷地から一歩でも外に出たら、私達の勝ちだからね。がんばって、和葉ちゃん見付けてね。」
と笑顔を残して走って行ってもうた。
ねぇちゃんを見付け出すんは、工藤やないとな。



『工藤く〜ん、今の誰〜〜〜?』
『彼女じゃないよね〜〜!』
うっせい女達の声で、気を取り戻す。
女達はずっと何か叫いてやがるぜ。
「うっせ〜な〜。和葉ちゃんは、服部の最愛の彼女だよ!」
『え〜〜〜!!』
『服部くんの〜〜〜嘘〜〜〜!!』
だ〜〜〜うるせい!
おめぇらテレビ見てねぇのかよ!
オレはキャップとGジャンを握りしめ、蘭がいるであろう方向へ再度走り出していた。


俺が階段を戻ろうとすると、2・3人の女が立ちはだかったんや。
『今の服部くんの彼女?』
はぁ?何言うとんじゃ、こいつら。
「ちゃうで。工藤のや!」
『工藤くんの?』
「そうや。工藤んヤツが溺愛しとるねぇちゃんや!」
『え〜〜工藤くん彼女いるの〜〜〜!!』
何なんや、こいつら。今そう言うたやろが!
「ちょうどけてくれや。」
俺はさっきより低い声でじゃまな女らを退かし、和葉を探す為だけに走り出したんや。






彼女たちの彼氏たち 彼氏たちの苦笑
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