平和のあとに 12
■ 彼女たちの見方 ■

工学棟・・・工学1号館・・・。
あっあれ・・・ここさっき通ったやろか?
どっこも同じ様に見えて、ほんま分からん。
『ちょっと、待ちなさいよ!』
そんなあたしの前に、いきなり数人の女が表れたんや。
そんなん、言われても急には止まれへん。
進路妨害やで、危ないやんか!
『止まりなさいよ!』
派手な女らの間を通り抜け、5・6歩進んでから振り返る。
「何?今、急いでるんやけど。」
この手の女に友好的にしたかてなぁ・・・。
『あなた服部くんの何なの?』
やっぱりやぁ。
「平次は彼氏やけど。」
うわぁ・・・このセリフ始めて言うたかも・・・。
顔、赤こうなってんやろなぁ、あたし。
メッチャ恥ずかしい。
『認めないから!』
「そっ・・・」


「こ〜〜〜ら〜〜〜〜〜!!和葉〜〜〜〜〜〜!!!」


あたしが言いかけた言葉を遮るように、平次の怒鳴り声が辺りに響いた。
あたしがさっき通って来た向かいの校舎から、叫んどる。
うわっ!もう来た!
慌てて走り出そうとするあたしの腕を、一人の女が掴んだ。
こうなると、条件反射で体が動く。
相手の腕を一瞬で、逆にねじ上げとった。
「かんにん。そやけど、あんたかて悪いんやで。」
掴んだ腕ごと女を突き飛ばす。
女らの悲鳴と文句を無視して、平次から逃げる。
『覚えておきなさいよ〜!服部くんに言いつけてやるから〜〜!』
お決まりのセリフやな〜。
今更、こんなんで傷付いっとったら、平次の彼女なんか出来へんわ。
そうや・・・今更や。
どこで調べてくるんか知らんけど、手紙や電話でのあたしへの中傷はもっと凄い・・・。
平次は隠そうとしてくれるんやけど、それでも、目や耳にしてまうことはある。
・・・・・・・・あかん、あかん、今は落ち込んどる場合やないやん。
走る速度を再び速めようとしたら、向かいから団体さんや。
「ごめんなさい、ちょっと通してや。」
冬にTシャツは・・・目立つわな〜。
好奇の目、バリバリやん。
半分程を押し退けたところで、再び強く腕を引っ張られた。



「え〜と・・・ここは・・・。」
扉を開けた先は、外とは違う静かな空間。
「・・・図書館よね・・・。」
どっ・・・どうしよう。
こんな所で、走り回ったら余計目立っちゃうよ〜。
一瞬、引き返そうと思ったんだけど。
ダメよ。
きっと、もう新一が近くまで来てるはずだもの。
「これだけ大きいんだもの。きっと、他にも出口があるわよね。」
自分に納得させて、巨大な本棚の間を進む。
見渡す限り本、本、本・・・ほっ方向感覚が・・・ここは、さっき通ったかしら?
「お困りのようですね、お嬢さん。」
えっ・・・慌てて声のする方に振り返る。
だって、まったく気配が無かったんだもの。
「あっ・・・。」


バ──────────ン!!


図書館には不釣り合いなドアの音。
新一だわ!
私は思わず、縋るような目で目の前にいる彼を見詰めてしまった。
だけど、彼は何やら一人で納得したように頷いて、
「どうぞ、少しの間こちらでご辛抱を。」
そう言って、私を本棚の後に入れてくれたの。
ダッ、ダッ、ダッ!
足音が近づいて来る。
「おいっ、蘭が来なかったか?」
やっぱり、新一だ。
私は祈るような気持ちで、返答を待った。
「騒々しいですよ、工藤くん。ここは、静寂をもっとも優先させる場所だと思いますが。」
彼の少し笑いを含んだ声が聞こえた。
「そんなことたぁ、わ〜ってるよ。でっ?」
「フフッ、せっかちな人ですね君は。見て分かりませんか。」
「・・・・・・・・・悪かったなっ。」
ダッ、ダッ、ダッ。
ごめんね〜新一。
でも、新一が悪いんだからね。
しばらく足音が響いてたけど、やがて遠くでドアの閉まる音がして足音も消えたの。
それを確認するように、巨大な本棚は音も立てずに横に移動する。
「もう、大丈夫ですよ。」
「ありがとう、白馬くん・・・。」



「ちょっと、何すん・・・の・・・・・・・。」
あたしは強引に部屋の中に、引きずり込まれてしもた。
ドアがバタンッと閉められる。
「和葉こそ何やってんだよ、そんな格好で。今は冬だぜ、冬。」
「かっ・・・快斗・・・・・・・・。」






    
彼氏たちの苦笑 快斗と和葉に探に蘭
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