平和のあとに 18
■ 逃げる和葉に追う平次 ■

隣の校舎に駆け込んだあたしらは、脱兎のごとく走っとるんや。
あたしには、快斗と弘希くんが付いてくれとる。


「こら〜〜〜和葉〜〜〜!!自分何やってんのか分かっとるんか〜〜〜〜〜!!」


後方から平次の怒鳴り声が、廊下中に響き渡る。
あたしはとっさに、
「あんたっ・・・・・うっ・・ぐっ・・・・・・・・。」
怒鳴り返そうとして、両側からすかさず口を鬱がれてしもた。
「和葉!つられんなよ!」
っと快斗。
「そうだよ、和葉ちゃん。怒鳴り返したら、服部に見付かるって。」
っと弘希くん。
「う・・・う〜う・・・。」
そっそやった。
「しかっし快斗。どさくさに紛れて、今、和葉ちゃん呼び捨てにしただろ。」
「うん?そう〜だっけ?」
快斗は一瞬しまったって顔したけど、すぐにいつもの惚けた表情に戻った。
まぁ、仕方ないわな。
それより早よう、手、放してや!苦しいやん!
あたしは2人の遣り取りを無視して、2本の腕を引き剥がしたんや。
「はぁ〜、はぁ〜。もう、分かったから、早よ行こ!」
気を取り直したあたしらが再び走り出したら、またも障害物発生や。
さっきの平次の怒鳴り声に、各教室からワラワラと学生らが出て来てしもた。


「法学部の先輩ら、そこにおる工学部1年のボケドモ捕まえて下さい!」


うわっ、平次のアホ何言うとんの・・・。
また、法学部の人らも訳も分からんのに何『おお〜!』とか言うてんの。
・・・ここって、日本一の大学やんな・・・・しかも、今講義中ちゃうの・・・?
長い廊下が工学部と法学部の生徒でゴチャゴチャやん。
あたしらの前にも数人の男子学生が立ちはだかった。
『お前ら工学部がここで好き勝手出来ると思ってんのか?』
こっ怖いやん。
そやけど快斗らは平然と、
「いえっ、滅相もございません。でも、法学部の先輩方聞いて下さい。」
「彼女、和葉ちゃんと言いまして服部の彼女なんですけど・・・・          っと言う訳なんです。」
「和葉ちゃんが可哀想なんで僕たち協力してるんです。服部ばっかりにいい思いさせていいんですか?」
「彼女を助けて上げて下さい。お願いします。」
交互にしゃべって周囲におる先輩らを納得させとる。
しかも、あたしに「可愛くお願い」っと耳打ちまでしてくるし。
あたしも、両手を握って口元に持って行き、目をウルウルさせて、
「お願いします〜〜。」
って小首傾げてみたりするんや。
ここまで来たら、何やって出来る気ぃするわ。
あれっ?何かさっきまで怖かった人らが、優しい顔してちょこっと赤こうなってない?
『おっお前らの言うことも一理あるな。今日のことろは見逃してやる。』
嬉しいんやけど、どうしてえらいあっさり協力してくれるんやろ?
「「「ありがとうございます!」」」
あたしらは同時にお辞儀をした。
『工学部1年!その代わり、絶対に彼女を勝たせろ!和葉ちゃんもがんばれよ!』
「「もちろんです!」」
「はい!ありがとうございます!」
形勢逆転やな、平次。
今度こそほんまに、収集のつかない廊下を抜け出した。


「和葉ちゃん、今のやり過ぎだよ。」
走りながら弘希くんが言い出したんや。
「へっ?何が?」
「可愛過ぎ。あの先輩たちも、きっと和葉ちゃんに惚れたよ。」
「はぁ〜、もう、ほんまにさっきから何アホなことばっかり言うとんの?」
アホらしくて、まともに相手出来へんわ。
「・・・・もしかして、和葉ちゃん自覚無し?」
「やから、何がなん!」
「う〜ん。服部の今の心情がちょっと分かったかな。」
「?」
さっぱり、分からへん?
ちょっと複雑な顔の弘希くんと、苦笑の快斗。


それからあたしらは校舎を2棟走り抜け、平次から逃げ出して始めて外に出た。
中央図書館の横を通り抜けると、後は正門まで続く最後の直線が見えるはずや。
って思ったあたしらの前に、また新たな人物が・・・。






新一VS女の子たち 走る蘭に焦る新一
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