久遠 -KUON- 2
■ すっかり ■
「ほな、オカン行ってくんで〜〜。」
今日は日曜やけど、午前中は部活や。
「あっ、平次。和葉ちゃんに会うたら、帰りんでも寄ってくれるように言うてな。」
「かまへんけど、何でや?」
「昨日、和葉ちゃんの誕生日やったやろ。そやから、プレゼント渡したいんや。忘れずに、ちゃんと伝えるんやで!」
「分かったちゅうに。」
・・・・昨日、和葉の誕生日やったんか・・・・・・・・。
俺は歩きながら、何やひっかかるモンが頭ん中にあった。
和葉の誕生日・・・・・・・何か・・・・・・・忘れてるような・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・あっ!!!」
あっ・・・・・あかん・・・・・・・・・すっかり忘れても〜てた・・・・・・・・・・。
 

そやったら、昨日、和葉が待ってたんは他ん誰でもない俺やんか。


そうや、去年の和葉の誕生日にした約束。
飯食いに行くはずやったのに、急な依頼が入ってドタキャンしたんや。
そん時に、来年こそは絶対行ったる言うて、同じ場所同じ時間指定したんは俺やった。
あ〜〜〜くそっ!
今頃、思い出してどないせいっちゅうねん!

そやけど、アイツも何で昨日言わんかったんや。

俺、昨日、アイツに何言うた?
・・・・・・何してんのや?こんなとこで?・・・・・・・・どないしたんや?誰かと待ち合わせか?・・・・・・・。
う〜〜〜わ〜〜〜〜あかんやんか。
しかも、事件の目撃者の女性と一緒やったし・・・・・。
そのこと和葉には説明してへんし・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・さっ・・・・・最悪や・・・・・・・・・・・・・・。
フォローしようがあらへん。
おっ・・・・怒ってんやろなぁ・・・・和葉んヤツ。

今日は和葉も午前中は部活に出てるはずや。
何って言うって謝ろ・・・・?
っつ〜か、取り付くしまあるんやろか?

俺は部室に着くまで、和葉への謝罪の言葉を延々考えとった。
特にこれっちゅうやつは、結局何も浮かばへんかったけどな。
そのまま休憩時間まで、頭ん中割り切れずにおった。
剣道の練習も上の空やったかもしれん。
後輩連中が何か心配しとったけど、今はそれすら構うとれん。
とっとにかく、和葉に何か言うんが先や。
そう思うとったら、合気道部もちょうど休憩やったんか和葉が水道の近くにおった。
「かっ和葉。」
声かける前から、すでに弱腰やんか俺。
「あっ、平次も今日、剣道部あったんやね。」
「あっああ、そや。」
うん?いつもと変わらんやんけ。
「どないしたん、平次?」
怒ってへんのか?おかしいやん。
「きっ昨日のことやけどな。」
「うん。それがどないしたん?」
不思議そうに俺の顔をみとる。
「怒っとらんのか?」
「やから何を?」
絶対にこの反応はおかしいやろが。
「オマエん誕生日の約束を忘れとったことや!」
ついつい声が大きゅうなってもうた。
そやけど和葉の反応は今までに無いモンやった。
「ああ、そのこと。今更、何言うとんの?平次が約束すっぽかすんは、いつものことやん。」
「そっそれはやな・・・・・。」
「別に気にせんでもええよ。」
何なんやこの反応は。
新手の嫌がらせなんか?
「何やそれ!言いたいことがあるんやったら、はっきり言えや!」
「もう、平次こそさっきから何やの?」
「オマエがいつもみたいに怒らんからや!」
「はぁ?」
呆れたっちゅう顔しとる。
「ほんまに怒ってへんって。そやから、平次も・・・・」

「か〜〜ず〜〜は〜〜〜!!」

和葉ん言葉をクラスメイトの木更津(きさらず)の大声が遮ってしもた。
「和葉〜〜!!はぁはぁ・・・・」
「どうしたん?華月。待ち合わせは、1時やなかった?」
「そっ・・・そうなんやけど・・・・はぁはぁ・・・。あのメール・・・・ほっほんまなん?」
「ほんまや。それ確認しに、わざわざ来たん?」
和葉は笑っとるけど、あのメールちゅうのが気になる。
しかも、ほんまに怒っとらん和葉の様子が余計に気になるやんか。
「あっ・・・服部くん・・・・・・。」
「おう。」
その”しまった”ちゅう顔は何や木更津?
「あ〜〜え〜〜っと・・・・。」
「もう、華月までどないしたん?メールんことは、ほんまにほんまやて。今日も四天宝寺高校で、練習試合しとるから友達連れて見に来たらええって言うてたから。華月、前に実物見たい〜言うとったやん。」
「そうやけど・・・・。それ、ほんまに忍足くんなん?」
「そうやない?本人もそう言うとったし。」
話の内容がよう分からんのやけど。
「どうやって知り合ったん?」
「昨日、梅田でナンパされてん。」
「「  えっ?!  」」
俺と木更津の声や。
「冗談や。まぁ、似たようなモンやけど。」
和葉は何か思い出したんか、クスクス笑うとる。
信じられへん。コイツが声掛けてくるような男と仲良うなるわけないやろ。
こいつ・・・ほんまに和葉なんか?
「誰やねん?そいつ!」
「平次知っとるかなぁ?テニスで有名なヤツやねん。なぁ、華月?」
「うっうん。ジュニア選抜や高校選抜にいつも選ばれとるしな。東京の氷帝学園で 忍足侑士 言うねん。」
「知らん。」
「そやろなぁ、平次は知らんおもたわ。あっ。休憩終わりや。華月はどうする?終わるまで待っとく?」
「うん、そのつもりで来とるから。」
「平次も早よもどらんと、後輩が呼んでるやん。」
和葉んヤツ、さっさとそれだけ言い残して木更津と行ってしもた。

結局、俺は謝っとらんやんか。
そやけど・・・怒っとらんヤツに、どうやって謝るんや。
あっ・・・。
オカンの伝言も忘れた・・・。
どっか行くみたいやし、後でメールでも入れとくか。
そしたら、帰りんでも寄るやろ。
話ん続きはそん時やな。





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