久遠 -KUON- 3
■ そやから ■
「ええの?」
「何が?」
「服部くんの前で、忍足くんの話なんしても〜て。」
「何がいけんの?」
「そやから・・・・・、和葉は・・・・・・・。」
「平次はただの幼馴染やで。別にええんちゃう。」
「和葉?」

華月の疑問も、平次の不満も、そして何より昨日のあたし自身の疑問も、今は全部理解しとる。
答えは簡単や。


あたしの心ん中の”平次への気持ち”だけが、すっぽり無くなってしもたからや。


心に穴が開いたように、それだけが綺麗サッパリおらんようになってしもてん。


去年の誕生日、次の誕生日までに平次の気持ちが少しでもあたしに向いてくれるよう努力しようと決めた。
そして同時に、平次がくれた約束を平次自身が忘れていたら、あたしは平次を追いかけるのを止めてただの幼馴染に戻ると決めた。
そやないと、将来を決める大切な時期にあたしが平次の邪魔になってまうから。
だから、昨日、平次に会うまであたしは”平次が覚えてくれてますように”って願い過ぎたんやな。
あんまりにも願って願って願い過ぎたから、平次が完全に忘れてるって分かった時、あたしがあたし自身までもが壊れてしまわへんように心の一部分だけを一瞬にして消してしもたんや。
これも、記憶喪失言うんかな?
今では、ほんまに平次のことどう思うとったんか思い出せへん。
そやけど、その消えてしもた部分があまりに大きかったんやろな・・・・・あたしの態度や言動・・・いや、性格にまで異変がおきとる。
あたし自身、全部を受け入れるのに時間がかかりそうやわ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コレデヨカッタンヤ・・・・・・・・・・・・・。


昼までの部活を無事に終わらせて、あたしは華月と学校を後にした。
その間に、再度、平次に会うことはなかった。
剣道部の周りには、日曜やのにぎょうさんの女の子が見にきとる。
大半の子が、平次を見に来てるんやろう。
ほんまに、ようモテル幼馴染や。
「和葉、ほんまによかったん?」
「さっきから、そればっかりやで華月。」
「やって、服部くん何や機嫌悪るそうやったし。」
「平次の無愛想はいつものことやんか。」
「そうなんやけど。服部くんに声かけようとしとった女もぎょうさんおったのに。和葉、ええん?」
「それも、いつものことやんか。」
「そうやけど・・・。和葉、服部くんとまた喧嘩でもしたん?」
「してへんよ?どうして?」
「う〜ん?和葉の態度がいつもと違う・・・からかなぁ・・・・」
あたしん態度そんなに違うんや・・・。
これは、気い付けんと周りから質問攻めになりそうやわ。
そん時、メールの着信音が鳴った。
この音は平次や。
「服部くんから?」
華月は平次専用の着信音を知っとる。
「そや。『オカンが帰りに寄れ言うとったで。』やて。」
相変わらずの用件だけのメールやな。
『夕方になるけど寄らして貰います。っておばちゃんに言うとって。』
送信っと。
あれっ、またメールや。
「今度は誰やろ。・・・・あっ、侑ちゃんや。」
「侑ちゃん?」
「ええと、忍足くんのことや。人のこと勝手に和葉ちゃんとか呼ぶから、あたしは侑ちゃんって呼んでんねん。」
何やろ?
うわっ・・・長っ・・・・・文字びっしりやん。
『和葉ちゃん元気〜?今日来る言うとったけど、何時ごろになるん?お昼はどうすんの〜?食べてから来るん?俺らこれから、四天宝寺の近くで食べんのやけど、来いへんかなぁ?今どこにおるん?まだ、部活?連絡あると嬉し〜なぁ。侑士』
しかも・・・ほとんどが質問やん・・・・。
「和葉、忍足くん何やって?」
「お昼一緒に食べへんかって。どうする?」
「どうするもなんも!いくイク行くに決まってるやん!」
華月の即答に、すぐに侑ちゃんに連絡するこになった。
お店の場所と名前を聞いて、30分後には行けると伝える。
侑ちゃんの声がメチャメチャ楽しそうやったなぁ。

教えられたお店?に行ってびっくりや。
とても、高校生が行くような場所やなかった。
いわゆる高級レストラン・・・何でも氷帝テニス部部長の趣味らしいんやけど。
氷帝の人らも、四天宝寺の人らも、まったく気にしてへんようや。
支払いも全部、その跡部言う人がするから気にせんでええんやて。
金持ちなんやなぁ、今度、園子ちゃんに聞いてみよ。
あたしがちょっと気後れしとる横で、華月は大ハシャギやで。
みんなと写真とったり、アドレス交換したり、忙しう動き回っとる。
そやけど、あたしはポツンと一人おるわけでも、居心地が悪いわけでもなかった。
あたしの隣りには侑ちゃんがおってくれて、軽口叩きながら笑わせてくれるからや。

この人、平次と違う。
ふっと、そう思うたけど・・・・それ以上の感情は浮かんでこんかった。
ただ、そう思うただけ。

食事の後は、四天宝寺のテニスコートに行って練習試合を見せてもろうた。
予想はしとったけどここにもぎょうさんの女の子がおったわ。
あたしと華月は、氷帝の人らと一緒におったんやけど、周りの子らの視線が痛いぐらいやった。
華月は優越感に浸ってるみたいやったけど。
あたしは女の子たちのこういう視線には慣れとる。
いつも、平次の側で感じとったから。
そやけど、一度も優越感を感じたことは無かった・・・と思う。
今のあたしにはよう思い出せんから・・・。

練習試合は凄かったんや。
テニスの試合を間近で見たんは初めてやったけど、みんな真剣やった。
試合の前も後もオチャラケとるのに、コートに立っとる間はまるで別人や。
一瞬で世界が違うとるみたいやった。
華月が隣で色々説明してくれたから、あたしも結構詳しうなってしもたし。
侑ちゃんは『氷帝の天才』とか『くせ者』とか言われてるんやて。
分かる気がする。
試合中はずっとポーカーフェイスやったし。
凄い言うんは、素人のあたしの目にも明らかやった。

剣道の試合しとる平次みたいや。
平次の火、に対し、侑ちゃんは水。
まったく違うタイプみたいやけど。

・・・・・・あたしまた平次と比べとる・・・・・・。



やけど・・・・・・あたし・・・・・この人嫌いやない・・・・・・・・・・・。





すっかり ほんまに
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