久遠 -KUON- 4
■ ほんまに ■
和葉が俺ん家に来たんは、7時を過ぎたころやった。
えろう上機嫌でオカンとおしゃべりしとる。
ほっとったら、いつまで続くかわからへんから、
「和葉〜〜!何か温かいモン持って来てくれや!」
言うって部屋に呼んだんや。

「平次〜入ってええ〜。」
「おお。」
「今日はココアにしたけど、よかった?」
「かまへん。」
両手にもっとったマグカップの1つを俺に渡し、残る1つを持ってベッドに座る。
和葉のいつもの定位置や。
「さっき、おばちゃんに誕生日プレゼント言うて、可愛いバックもろたんよ。」
「はんっ。あのおばはん、俺には何も寄越さんくせに。」
「それは平次の日ごろの行いが悪いからやろ。」
「ふん。・・・・・それよりオマエ今日はどこ行っとたんや。帰って来るの遅かったやんけ。」
和葉はココアを一口飲んで、悪戯っぽく笑ろうた。
「子分の行動が気になるん?」
「まぁ、そんなとこやな。」
「ふ〜ん。四天宝寺高校に氷帝学園とのテニスの練習試合見に行っとったんよ。テニスん試合、間近で始めて見たんやけど、迫力あって面白かったんやで。しかも、氷帝学園も四天宝寺高校も全国ベスト8に入るんやて。ほんまに、凄かったんよ。」
えらい楽しそうに話すやんか。
「オマエ、テニスに興味なんかあったか?」
「今までは特になかったんやけど。今日、華月や侑ちゃんらの話聞いとったら、ちょっと興味沸いてきても〜てん。」
「侑ちゃんって誰や?」
「昼間話しとった、忍足くんのことやねん。アイツなほんまに凄いねんよ。普段はチャラチャラしとるくせに、試合になると別人やねんもん。」
コイツ何言うとんのや・・・・。
何でそんなに楽しそうに他ん男の話してんねん。
今までコイツがこんな風に他ん男の話をしとったことあったか?
「ナンパしてくるような男と、えらい仲良うなったんやな。」
「ナンパとはちょっと違うよ。」
「昼間、自分が言うとったやんけ。」
「う〜ん。昨日、平次らと別れてから、近くでひったくりがあってん。あたし思わず犯人投げ飛ばそうっとしたんやけど、ちょうどその方向に子供がおってな・・・・・・・・。」
和葉の話を聞いて、俺んイラダチはさらに大きゅうなった。
「そいつに会うたから、怒っとらんのか?」
「は?」
「やから!そいつに出会えたから、俺んこと怒っとらんのかっちゅうとんじゃボケ!」
「あっ・・・・・・。」
和葉は急に困ったような戸惑ったような表情を浮かべおった。
「そんなこと言うたかて、平次が約束忘れんのいつものことやし・・・。何よりあたしん誕生日自体忘れとったくせに。」
今日始めて、やっと和葉が少し怒ったような顔をした。
「すまんかった。やから、その埋め合わせしたる。」
「べつ・・に・・・・。」
和葉ん言葉を遮るように続けた。
「来週の土日連休やろ、やから東京に連れてったる。」
「えっ?」
「ある事件のことで用があんのや。オマエも子分なんやから一緒に来んかい!」
「・・・・・・何やのそれ?」
「行くんか?行かんのか?」
「行くに決まってるやんか!久しぶりに蘭ちゃんに会えるんやし。」
「そやったら決まりやな。」
「ありがとう、平次。ほなっ、あたし帰るわ。早よう帰って蘭ちゃんに電話せな。」
「バイクで送ってったろか?」
「うん!」
さっきまでのコイツに対する違和感は、きっと気のせいやったんやな。
やっぱ、いつもの和葉やんか。
男んことは親分としては気にならんでもないんやけど、まぁあれやな、有名人にキャーキャー言うとるくらいのもんやろ。
前にあったマジシャン時と同じやな。

次ん日の放課後、木更津に呼び止められるまでは、ほんまにそう思うとったんや。
「服部くん!ちょっと話しあるんやけど、ええ?」
「ああ?俺これから、部活やねん。」
「もう、ええから!ちょっと来いや!」
無理やりやんか・・・やったら聞くなや。
部室に向こうとった俺ん腕掴んで、非常階段まで引っ張っられてもうた。
「何やねん?」
「服部くん、和葉に何したん?」
「はぁ〜?」
「また和葉と喧嘩したん?それとも、和葉んこと・・・・・。」
「ちょっ、ちょう待てや。何が言いたいねん!」
「昨日から和葉の態度おかしいやんか!絶対、原因はアンタや!和葉に何かしたやろ!」
何言うとんや、コイツ?!
「和葉いつもと変わらんやんけ。」
「ほんまに、そう思うとんの?」
「思うも何も、実際そうやないかい。」
「・・・・・・・服部くん。」
「まだ、何かあるんか?」
「冗談抜きで聞くから、真面目に答えてや。」
「何や。」
「服部くん、ほんまは和葉のことどう思うとんの?」
怖いくらいの目ぇで、睨んできよる。
「今更何言うとんねん。アイツはただの幼馴染や。」
「それ、ほんまにほんまやねんな。」
「くどいで!」
「・・・・・・・和葉が忍足くんのこと『侑ちゃん』って呼んでんねん。」
「それがどないしたんや。」
「和葉が服部くん以外の男んことを、今まで名前で呼んだこと無かったやん。」
「そうやったか?」
「しかも、こんなん急に親しゅうなったことも無かったし。それに・・・・・・・まぁええわ、服部くんがそんなんなら、もう何も言わんわ。うちは和葉の味方やし。」
「・・・・・・・・。」
「後で後悔したかて、遅いんやで。ほな、呼び止めて悪かったわ。」
「おっおお・・・・・。」
何やねん・・・、ほんま何が言いたいんやアイツ・・・。
俺にどないせいっちゅうねん。

和葉はただの幼馴染で、子分みたいな存在や。


そやけど・・・・和葉ん誕生日の約束忘れとったんは・・・・・・。


もしかしたら、取り返しがつかへんことやったんやろか・・・・・・・。





そやから まじかよ
novel top 久遠-KUON- top