久遠 -KUON- 8
■ あんとき ■
東京から帰った月曜日の放課後、俺は木更津を捕まえた。
今度は、俺が非常階段に誘ったんや。
「こん前の質問の答え、訂正しとくわ。」
思うた通り最初は不思議そうな顔やったが、すぐに溜め息つきおった。
「はぁ〜〜、何があったんか知らんけど、やっと認めるんやな。」
「そういうことや。」
「ほんまに気付くん遅すぎやで、服部くん。」
「昨日、工藤らにも言われた。」
「東京行ってたん?もしかして、和葉も?」
「そうや。」
「もしかして、もしかして、あっちで忍足くんに会うたん?」
「和葉と2人でおった。」
「え〜〜〜〜それってデート?」
「そんなん、俺に聞くなや!」
「ほんま和葉どないしたん?」
俺は和葉んことを説明した。
コイツは知っとても、ええと思うたからや。
「ボケッ!アホッ!スカタンッ!アンタ最低!」
やのに返ってきたセリフがそれかいっ!
「和葉、かわいそ過ぎや〜〜。」
「うっさいんじゃ!」
「そんで、これからどうすんの?」
「不戦敗は俺の趣味やない。」
「そうやろな。まぁ、ええわ。協力したるわ、服部くんに。それが、和葉んためでもあるやろうし。そやけど、敵は忍足くんだけやないよ。」
「ほかに誰がおんねん?」
「・・・・・和葉、メッチャ人気あるの知らんとは言わせへんで。」
「ほんまかそれ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんまに気付いてないん?」
「知らん。そやかて、今までアイツんことええ言うてるヤツなんか、聞いたことないで。」
「服部くん・・・・・アンタほんまに有名な高校生探偵なん?誰がわざわざアンタに言うんよ。そんな命知らずおらんわ!しかも、今までは和葉が服部くんこと好きやってみんな思うてたけど、最近の和葉の態度みて行動起こすヤツも出てくるやろな。」
「あかんやんか、それっ!」
「服部くんも、少しは和葉の気持ち味わってみるのもええん違う。ええ機会や、そうしっ!何かあったら教えたるわ。」
「おいっ!こらっ、ちょう待たんかいっ!」
木更津んヤツ、言いたいことだけ言いおってからに。

・・・・・和葉メッチャ人気ある・・・・・・・・

木更津のそん言葉を、俺は2週間もせんうちに嫌ちゅうほど思い知ることになった。
和葉ん態度がおかしいんを周りのヤツラに気付かせた、決定的なことがあったからや。
俺んことを尋ねて2年の女が教室に来たとき、ちょうど和葉が入り口ん近くにおった。
「あの・・・服部先輩呼んでもらえますか?」
いつものアイツやったら、聞こえんふりして他んヤツに任せるか、メチャ不機嫌な声で俺んこと呼ぶかやったのに、
「平次〜〜お客さんやで〜〜!」
ちゅうメチャ明るい声とおまけに、
「すぐ来る思うから、もうちょっと待っとってな。」
言うってその女に気ぃまで使ってんねん。
一瞬クラス中が、止まとったで。
その後も和葉ん機嫌が悪うなることがなかったもんやから、俺らの不仲説があっちゅうまに広まってもうたんや。
和葉に他に好きなヤツが出来たやとか、俺に愛想つかしたとか、俺が和葉を振ったとか・・・・・噂ちゅうやつはキリがないで。
そやけど和葉ん態度が変なんは、他んヤツラも気付いたみたいやった。
それからや、和葉んこと呼び出すヤツが現れ出したんわ。
流石に俺が側におるときは、声かけて来るアホはおらんかったけどな。
おらんときは、言わんでも分かるやろ。
教室に覗きん来るボケも、どんくらいおるんや・・・・数えきれへん。
俺んとこに来る女も増えとったらしいんやけど、段々不機嫌の度合いが増していく俺に何も言わずに帰って行っとるそうや。
面白そうに木更津が言うとった。
「どうや、和葉がモテるんよう分かったやろ?」
「・・・・・・・・・。」
「少しは和葉の気持ちも理解出来たん?名探偵さん?」
「オマエ楽しんでへんか?」
「当然やん!和葉んこと悲しませた分、服部くんには十〜〜〜分身に染みて反省してもらわんとな。」
「・・・・・・・・・。」
体中から不機嫌な気配を発散させとる今の俺に、声かけてくるんはコイツと和葉くらいや。
他んヤツラは近づいても来いへん。
「そろそろ限界なんちゃう?」
「アホねかせ!」
「まぁええわ、これからはしばらく、和葉に付いといたるわ。そやけど、服部くんもそろそろ何か行動起こした方がええんちゃう?」
「何かって何や?」
「そんなん自分で考えや。あっ、やけど告るんは、まだあかんで。・・・玉砕覚悟ならええ・・・・。」

『おまえら最近仲ええ〜やん!デキてんちゃうか?』

教室ん隅で話しとった俺らに、アホなヤツがちゃちゃ入れてきおった。
俺と木更津が殺気込めて睨みつけたんは、言うまでもないやろ。

そやけど、その固まったアホん向こうに見えた和葉の不思議そうな驚いた顔はどうしたらええんや。

絶対誤解してんでアイツ・・・。

思うた通りや。
部活ん後、一緒に帰っとる途中で聞いてきよった。
今日は、おっちゃんがおらんから和葉は俺んちで夕飯食うことになっとんや。
「なぁ、平次〜。華月んこと好きなん?」
・・・・・・そんなん普通に聞いてくんなや・・・・・・。
「はぁ〜?何言うとんねん。そんなんあるワケないやんけ!」
「そうなん?隠さんでもええんやで。あたし協力したるし。」
・・・・・・コイツ何言うとんねん・・・・・・・。
そんな顔して見上げてくんな!

あっ・・・・・・。
俺・・・・・・・前に同じことコイツに言うたことがある・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・和葉もこんな気持ちで聞いてたんやろか・・・・・・。

俺はあんとき、からかい半分で笑いながら言うたはずや。
コイツは何とも言えへん顔して、俯いてしもたんやったな。


・・・・・・・・・結構・・・・・キツイ・・・・・やん・・・・・これ・・・・・・・・。





とにかく あかんわ
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