久遠 -KUON- 9
■ あかんわ ■
はぁ・・・・あかんわ・・・・。
気い付けてるつもりなんやけど、違うんやろなぁ・・・。
いつの間にか、平次との不仲説なん流れてるし。

『服部と別かれたんやったら、僕と付き合うてくれへん。』

なんて言われるし。
まったく、どこに目〜付けてんの。
始めっから付き合〜てへんちゅうに。
しかも、平次・・・最近なんやムチャクチャ不機嫌やし・・・。
それも、あたしんせいなんかな・・・。
気付かへんうちに、何やしたんやろか・・・。

『おまえら最近仲ええ〜やん!デキてんちゃうか?』

華月んことなんかな?
平次、華月んこと好きやったんかな?
華月はええ子やし、今のあたしやったら2人を応援し・・・・て・・・・・・。

「きゃっ・・・・わっ・・・!」

「おいっ!」

平次の方を見とったから、足元が疎かになって階段踏み外してしもた。
落ちる!
おもた瞬間、しっかりと平次の腕に抱き止められた。
左手で階段の手すりを掴み、右腕にあたしを抱かかえて。
平次のカバンとあたしのカバンが、階段の上に落ちとる。
「何やってんねん。」
「ごっごめん・・・足元見てへんかった・・・。」
「もっと気い付けんかい!こんなとこから落ちたら、擦り傷や済まへんぞ!」
頭の上から、平次の声が直接響いてくるみたいや。
あたしは背中から平次に凭れ掛かるように、抱きしめられて、やっと立ってる状態やから。
下り始めたばかりの階段は、道までどんくらいあるんやろ。
ちょっとまだ動揺が収まらんけど、
「ありがとう、平次が一緒におってくれてよかったわ。」
言うって離れようとしたんや。
したんやけど・・・・・・。
「平次?」
「・・・・・・・。」
平次の顔が見えへんから、どんな表情してるんか分からへん。
やけど、背中から伝わってくる鼓動は・・・。
「へいじ?」
「・・・・・・・あっああ、すまん・・・・・・。」
そう聞こえてからも、平次の腕の力が緩むまでには少し間があった。
平次もビックリしたんかなそれとも・・・。
「平次どっか痛めたん?」
「そんなんやない!ほらっ、ボサッっとしとらんと行くで。」
何なんやろ?今度はさっさとカバン拾うて・・・ってあたしのも持ったまま歩き出してしもた。


和葉の顔がまともに見れへんで、俺は和葉んカバンも持ったまま部屋まで帰って来てしもた。
和葉は何やブツクサ言うとったけど、今はおかんと夕飯作っとる。
今までやったらさっきみたいな場合、赤こうなって慌てるんはいつも和葉の方やった。
それやのに今は・・・・耳まで赤こうなっとんのは俺ん方や。
腕ん中のアイツを意識したら、離したくなくなっとった。
普通に話すアイツん声聞いたら、息苦しい様な気持ちになった。
真っ直ぐな目ぇして他んヤツ進めてくるアイツに、胸が痛とうなった。

『そろそろ限界なんちゃう?』

情けないけど・・・・ほんまにそうや・・・・。

自分の気持ちを自覚してから、まだ2週間も経ってないやんか。
ほんま、情けな・・・・・。
ねぇちゃんから和葉んこと聞くんやなかった。
和葉ん気持ち知らへんのやったら、アイツは俺んこと好きやないってあっさり思えたかもしれへん。
そうやって自分ことごますことも出来たはずや。

『和葉ちゃんは、ずっとずっと服部くんのことだけ想ってたんだよ。』

どんくらいの時間、アイツはこんな想い抱えてたんやろか。
俺のアホな態度や言動に、どんだけ傷付いてたんやろか。


・・・・・・・・・・・・俺には無理やで和葉・・・・・・・・・・・・・俺はオマエほど強うないみたいや・・・・・・・・・。


頭抱えて机につっぷしとった俺を、着信メールの音がじゃまをしたんや。
「誰やねん!・・・・・・・工藤?」
何やねんアイツ。あれからいっぺんも連絡寄越さんかったくせに。
『そろそろオメェも、落ち込んでるんじゃねぇかと思ってさ。蘭からの伝言だ。「和葉ちゃんの生徒手帳にある写真が挟んであるよ」まぁ、せいぜいがんばれよ!』
言いたいことだけ言いおってからに。
机の上に携帯放り出したら、また、メールや。
「またかい!」
今度は木更津からや。
『言い忘れとったわ。和葉の生徒手帳に入っとるモン見てみるとええわ。和葉の本当の気持ちが分かるかもしれへんよ。』
ねぇちゃんの伝言と同じやんけ。
和葉の親友二人が俺に見ろ言うとるモンって何や。
俺は持って来てしもた和葉のカバンを勝手に開けて、生徒手帳を探し出した。
捲ってみるが、何も入ってないで。
和葉はもう、ねぇちゃんらが言うとる写真すら捨ててしもたんかもしれんな。
いらついて、カバーを持って強引に振ってしもた。
「あっ・・・。」
カバーと裏表紙の間から、1枚の写真が落ちた。
「これのことかいな?」
それは、俺と和葉が手錠で繋がれとる写真や。
これやったら、俺も持っとるし。
こん写真から、和葉の気持ち分かれ言われてもなぁ。
しかし、えらいヨレヨレやんか。
そう思うって裏反して、・・・・・・・・・・・見つけた。
二人が言いたいんは、これや。





あんとき KUON
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