久遠 -KUON- 13
■ あんなぁ ■
土曜日のお昼に侑ちゃんと待ち合わせして、お昼一緒に食べて今は噴水の前で日向ぼっこ。
侑ちゃんとおると楽しい。
「あんなぁ、和葉ちゃん?」
「何?」
「オレらが始めて会うたんも、この噴水の前やったやんかぁ。」
「あっ、そうやったね。」
「あの時、和葉ちゃんが待ってたんは服部いう幼馴染やったんやろ?」
「・・・・・・・何でそう思うん?」
どうしたんやろ?
「オレあの時、あの幼馴染くんが来る少し前から和葉ちゃんのこと見とったんやけど、自分あの幼馴染くんが来る前と後でえらい表情が違っとったさかい。」
「あたし・・・・そんなに変やった・・・・・?」
侑ちゃんは、ちょっと空を見上げてからあたしに向き直った。
「そうやなぁ、変いうより、それまでコロコロ変わっとった表情が急にのうなった言うか、人形の様な目〜になっとった言うか・・・・。」
あたしの心が変わる一瞬や。
「侑ちゃん・・・・見てたんや・・・・・・。」
「なぁ、聞いてもええかなぁ。和葉ちゃんは、あの幼馴染のことどう思ってんのかなぁ・・・・なんて。」
わざと眼鏡掛けなおす振りなんかしながら、ほっぺたかいてる。
始めてや、こんな侑ちゃん。
あたし何て答えたらええんやろ。
俯いて黙り込んでしもたあたしに、
「あっ、いやっ、言いたなかったら無理に言わへんでもええから。」
って慌ててるし。
言うてもええやんな、ほんとのことを。
そう思うて、全部話した。
「そうなんや・・・・・・。それやったら、オレにもチャンスはある言うことやんなぁ。」
「侑ちゃん?」
「それから、幼馴染くんの意見にオレも賛成や。この何があるか分からへんご時世、女の子が家に一人っきりいうんはやっぱあかんわ。」
「え〜〜、何で侑ちゃんまで平次に賛成やねん。」
「その方がオレも安心やし。」
「そういう問題なん?」
「まぁ、違う心配が無い言うたら嘘になるんやけど。今はオレ、和葉ちゃんの近くにおれへんしなぁ。あの幼馴染くんが自分の側におったら、虫除けにもなるし。和葉ちゃんがほんまに、あのこと考えてくれてるんやったら、それまでの我慢やしな。それまでに、また幼馴染くんのこと好きになってしもたらそれは、悔しいけどオレにはどうにも出来へんことやからなぁ。」
メチャクチャ優しい笑顔をあたしに向けてくれる。
あたしこの人選んだら、幸せになれるんやろな・・・・・・・置いてけぼりにされることもあらへんやろし、忘れられることもないやろなぁ・・・・・・。
・・・・・って何考えてるんやろあたし・・・・・・。
「あたし侑ちゃんのこと好きやよ。」
「おおきに。」
侑ちゃんの大きな手があたしの頭をなででくれる。
「無理せんでもええから。その好きは、友達としてやろ。」
「・・・・・・・うん。」
「それより、遅うなったけど和葉ちゃんへ誕生日プレゼント買うたるから、選びに行こうや。」
「ええの?」
「遠慮せんとき。」
「うん。」
そう言うて立ち上がろうとした時、
「あれ、幼馴染くんやろ。」
侑ちゃんの指す方を見ると、ほんまに平次やった。
しかも、またぎょうさんの女の子に囲まれてるやん。
何かムカついてきた。
せっかくええ気分やったのに。
平次こっちに気付かへんかな?
そう思うて睨みつけとったら、あっ、こっち向いた。
こっちに来ようとしてるみたいやけど、女の子らもがんばってるみたいやな。


侑ちゃんの腕に捕まって、

あっかんべ〜〜〜〜〜!!!

してあたしらは笑って歩き出したんや。


平次が何か叫んでる声が聞こえたけど、ええねん。
たまには、こういうのもええやん。
いつもいつも、あたしが平次に振り回されてばかりやと思われるんは嫌やもん。
あたしかて平次のこと振り回してもええやん。

それから、あたしは誕生日プレゼントいうって侑ちゃんに、シルバーの天使がクリスタルの星を抱えてるキーホルダーを買うてもろた。
「ありがとう、大切にするわ。」
「どういたしましてや。」
新大阪駅の構内で、侑ちゃんがロッカーに預けとった荷物を受け取る。
これは、あたしが頼んどいた物やねん。
「あれっ?何で2つあんの?」
「ああ、1つは華月ちゃんの。岳人(がくと)に頼まれたんや。」
「えっ、日向(むかひ)くんから?」
「そうやねん。あの二人、ちょくちょくメールのやり取りしてるみたいやで。」
「え〜〜、知らんかった。」
「そうやろ、オレもこれ預かったとき初めて知ったんや。」
「そやったら、華月も氷帝?」
「それはどうか知らんわ。聞いてみたらええやん。」
「そうする。」
華月〜〜、自分のことあたしに黙ってたんやな〜〜〜。
今度はあたしが華月を質問攻めにしたる。
って考えとったら、
「和葉ちゃん、オレは和葉ちゃんのこと好きやから。それだけ、覚えてくれてたらええから。」
優しい声が降ってきた。
「友達として?」
「すきなようにとってくれてかまへん。」
「侑ちゃん・・・・。」
「そんな顔するんやないで。まぁ、せいぜいあの幼馴染くん慌てさせててやるんやな。」
「侑ちゃん、優し過ぎや。」
「ええやんか。たまにしか会えへんのやから。ほな、ここでええわ。和葉ちゃんも気い付けて帰りや。」
「ありがとうな。うん。侑ちゃんも。」
あたしらは、新幹線の改札口で別れた。
侑ちゃんは何度も振り返って、手を振ってくれた。
平次と違う優しさを持つ彼に、あたしは確かに惹かれとる。
これは、あたしにとって初めての感じやった。

しばらく侑ちゃんの去った方を見てから、在来線に乗り換えようと数段の階段を下りた。
「おい。」
聞きなれたぶっきらぼうな声。
柱にもたれて平次が立っとった。
「もう、帰るんか?」
「うん。」
平次はそのままポケットに手を突っ込んだまま、歩き出した。
「ついでやから、送ってったる。」
相変わらず、素っ気無い。
ほんまは、迎えに来てくれったんやろ。
ついでやからって、一人やったらあたしのメット無いやんか。
送って行ってくれるいうことは、あたしのメット持ってるってことやろ。
「ありがとう、平次。」
小走りに平次の背中を追いかける。
「平次〜ほんまは心配して迎えに来てくれたんやろ?」
って横から平次の顔を覗き込んで見た。
前のあたしやったら、考えられへん。
やけど、今のあたしには自然に出来る。
「なっ・・・・何言うてんねん。ついでや!ついで!」
「はい。はい。ついでなんやね。」
色黒うってよう分からんけど、ちょっとは赤くなってるみたいや。
こんな平次は、なかなか見られへん。

ほんま、平次と侑ちゃんは対照的や。
やけど、あたしはどっちも好きや。
今は、幼馴染として友達として、どっちも好き。





そやかて なんでや
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