久遠 -KUON- 15
■ あれほど ■
「和葉〜、明日から夏休みやね〜〜。」
華月が下敷きでバタバタ扇ぎながら、振り返ってる。
「夏休み言うても、ず〜〜っと夏期講習あるんやから意味無いやん。」
「まぁ、そうなんやけど〜〜。来週の氷帝の学校説明会行くんやろ。」
「いまさら何言ってんの?一緒に行く約束したやんか。」
チョイチョイってあたしを呼んで下敷きで、みんなから顔を隠す。
「服部くん、氷帝受けるん何って?」
「あかんて。」
「そうやろな。」
「でも、受けるんは自由やて。」
「・・・・・・はぁ〜〜〜〜ん。」
何思うたんか、華月は納得した顔してニヤニヤ笑うとるんやけど。
「天下の服部平次も和葉のことんなると、ただの悩める少年ってか。」
「華月ちゃ〜〜ん?」
睨みつけると、あはははぁ〜ってまた下敷きで扇ぎだした。
「で、今日はその名探偵は?」
「府警やと思う。」
「ふ〜ん。和葉はこれからどうすんの?まっすぐ、帰るん?」
「合気道部に顔出してから、帰ろう思うとる。」
今度は急に真面目になって、
「和葉、ぜったい一人になったらあかんよ。」
って言い出した。
「どして?」
「どうしても!うちもテニス部に顔出すから、一緒に帰ろ。」
「それは、ええけど。」
何か分からへんけどええか。


うちがテニス部の練習をのぞいて下級生に激入れてから、和葉との待ち合わせ場所に着いたのが30分前。
「もう、和葉、何やってんの。また、マジに後輩の練習に付き合うてんやないやろな〜〜。」
口ではそんなことを呟いてみるも、待ち合わせ時間に遅れることの少ない和葉が、連絡もなしにこないに待たせるなんへんや。
嫌〜〜な予感がする。
取りあえず和葉の携帯に連絡しても繋がらへん。
慌てて合気道部が練習しとる道場に向かう。
「え〜〜、もうとっくに帰ったやて〜〜。」
不振がる和葉の後輩を適当に誤魔化した。
騒ぎを大きゅうするんは、あかん。
うちが和葉を待っとった場所からは、正門が見えとったから和葉が先に帰ったとは考えられへん。
校舎の裏から、部室棟の付近、体育館の裏、めったに人が寄り付かん場所を片っ端から探す。
「ここもちゃう。」
校内やったら、しかも今は午前中やから、そう思うとったうちが甘かった。
服部くん追い掛け回しとる下級生どもが、和葉に何かしようとしとるんに気付いとったのに。
テニス部の後輩ん子が、教えてくれたんや。
しかも、他校の生徒も一緒になって何か企んでるて。
和葉の携帯、何回リダイヤルしてもダメや。
いやっ・・・・・・、微かに聞こえるこの音は和葉の携帯や!
「和葉〜〜〜〜!!」
十人以上の女がおる。
「あんたら和葉に何してんのやっ!!」
慌てて逃げ出そうとする中の一人を捕まえる。
「和葉っ!」
和葉は制服の至る所を切られ、小さくうずくまっとる。
「こんなことして、ただ済む思うとらんよな。」
力いっぱい掴んだ腕に顔を歪めながらも、
「遠山先輩が悪いんや!自分、男おるくせに、服部先輩にまでちょっかい出すから!」
こんなアホなこと言うとる。
「何勝手なこと言うてんのや!」
「やって・・・やって、男と腕組んで歩いてたって、それやのに最近いつも服部先輩と一緒やし、・・・・・・・・服部先輩は遠山先輩のこと好きやって言いはったんやもん。絶対、遠山先輩が服部先輩のこと誑かしてるんや!」

あ〜〜の〜〜〜ボ〜〜ケ〜〜〜あれほど忠告したんに!!!!

「ええか。このことは、きっちり、うちが服部くんに伝えたるから、覚悟しときや。・・・・・それと、これはうちからやっ!」
パシ――――――ン!
思いっきり張り倒してやった。
こんなモンで気は済まんけど。
「2度とうちらの前に顔出すんやないで。和葉が許しても、うちがあんたらのこと許さへん!他のヤツラにも言うときや!」
それより、和葉や。
「和葉!大丈夫?」
うずくまったまま動かへん。
「和葉!和葉!」
あっ・・・・・・髪が・・・・・・・・和葉の髪が・・・・・・・・・・・・・・・。
「か〜ず〜は〜!!」
和葉の肩ゆすって、無理やり顔を上げさせる。
「か・・・・・かづき・・・・・・・。」
「和葉!しっかりしっ!」
「華月・・・・・あたし・・・・・・。」
「何で何でなん・・・・・あんなヤツラ、和葉の敵やないやろ!」
「・・・・・・・・やって・・・・・・・・・・あたしが平次とこおるん言い触らす言うたから・・・・・・・・・また平次に・・・・・・・・迷惑・・・・か・・・・・・・。」
今まで我慢しとったんやろ、和葉は声を上げて泣き出した。
「・・・・・・・・・・・あたし・・・・・・また・・・・・・・平次に迷惑かけてまう・・・・・・。」
「か・・ず・・は・・?」
和葉の様子が・・・・・・・・・。
「お願いや、華月。このこと、平次には言わんといて。」
「何言うてんの?」
「お願いや。これ以上、平次に迷惑かけられへん。」
和葉・・・・・・・・・・。
うちらが高等部に進学したころ、似たようなことがあった。
あの時は、服部くんがキレてちょっとした騒動になったんやったな。
そやかて和葉、今回はどう考えても原因はあのボケッやで。
「やけど和葉、その髪の毛・・・・・。」
トレードマークのポニーテールがあらへん。
「あっ・・・・・・。」
和葉は気付いてなかったんか、手でさわっとる。
「あ・・・・あたしの髪が・・・・・・・・。平次が似合う言うてくれたのに・・・・・・・・。」
和葉の髪は、もうどうしてもポニーテールは出来へんくらい、ギザギザに切られとる。
「いっ・・・嫌〜〜〜〜〜!!」
泣き崩れる和葉は、前の和葉や。
服部くんが大好きな和葉。
泣き虫な和葉。
今回のことが原因で思い出したんや。
そやけど、どうしたら・・・・・・・・。
和葉が落ち着くのを待って、話かけた。
「とにかく帰ろ。とりあえず、うちに来たらええから。」
和葉にテニス部のジャージ羽らせて、裏門からそっと外に出た。


華月がおってくれてよかった。
あたし一人やったら、あの場から動かれへんかった。
それに・・・・・・・・・あたし、やっぱり平次のこと好きやったんや・・・・・・・・。
平次に迷惑かかる思うたら、体が動かへんかった。
あの子らが言うとったんは、全部当然や。
全部、あたしが悪い。
あたしが平次と侑ちゃん、比べるようなことしたからや。
あたしが勝手に平次の気持ちに甘えとったから・・・・・・。
「和葉、ほんまにええん?」
今は華月とヘアーサロンに来てる。
華月に服借りて、「髪の毛何とかせな」言う華月に連れられて。
「かまへん。ばっさり短くして下さい。」
ショートカットなん初めてや。
小さいころ平次がポニーテールが似合う言うてくれてから、他ん髪型したことなかったから。

女の子は失恋したら髪を切る。

失恋やないけど、あたしには他にどうしようもない。
これが、あたしに与えられた罰や。





なんでや そんなん
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