久遠 -KUON- 16
■ そんなん ■

なんや最近、和葉に避けられとるような。
夏休みに入る前の日から、会うてないような。
おっちゃんも家に帰っとるみたで、和葉は俺ん家に来んし。
俺も何やかんやで家におらなんだし。
今日は、氷帝の説明やから朝早うから木更津と一緒に東京いっとるし。
俺、何かしたか?
そう思うとったら、工藤から電話や。
『服部〜〜〜〜〜!!オメェ今度は何しでかした〜〜〜〜〜!!』
何やいきなり。
「何やねん?何言うとんや工藤?」
『和葉ちゃんだよ!和葉ちゃん!』
やっぱ俺何かしたんか?
「和葉がどないしたんや?」
『あの髪型だよ!メチャクチャ切ってんじゃね〜かよ!』
「はぁ?」
『寝ぼけてんじゃね〜〜〜!!何か理由がねぇかぎり、女が命の次くれぇに大切してる髪をあ〜までスッパリ切るかよ!!』
和葉が髪切った・・・・・・・・・?
想像出来へん。
「和葉んヤツ、髪切ってんのか?」
『・・・・・・・・知らねぇのかオメェ?』
「しばらく会うてへんからなぁ。」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もういい、ジャマしたな。』
「おいっ!工藤!」
切れてしもた。

・・・・・・・・・・・和葉が髪切った・・・・・・・・・・・はぁ?・・・・・・・・・・・・・・何でや?

女が髪を切るのは失恋したとき。

俺にやない。多分あの眼鏡も違う。
そやったら誰や、和葉ん好きなヤツ他におるんか?
それとも他に理由あるんか?
気まぐれか?
あ〜〜〜〜クソッ、ちょっと和葉から目〜離したらこれや!

今日は東京に泊まる言うとったから、明日、駅で捕まえたる。
その夜、今度は工藤からメールが来た。
中身はどうやら、ねぇちゃんからのようや。
『服部くん、和葉ちゃん攻めちゃダメだからね!悪いのはぜ・ん・ぶ服部くん自身なんだからね!まったく、髪は女の命なのよ!和葉ちゃんはきっと理由教えてくれないから、ちゃんと華月ちゃんから聞いてよね!和葉ちゃん守れるの服部くんだけなんだから。しっかりしてよね!毛利蘭』
この文章からすると、ねぇちゃんえらい怒ってんなぁ。
やっぱ、俺何かしたんやな・・・・・・・?
いや・・・・・。

『和葉ちゃん守れるの服部くんだけなんだから。』

和葉に何かあったんや。
そう思うたら、明日までなん我慢出来へんかった。
木更津は数回のコールで出た。
「木更津〜!和葉に何があったんや!」
『はは〜〜ん。その様子やったら、蘭ちゃんからメールもろたやろ。』
「そんなんどうでもええ!早う言え!」
『和葉も丁度今シャワーやし、まず始めに一言言わせてもらうわ。・・・・・・・   こ〜〜の〜〜ボケ〜〜〜〜!!!!!   』
あまりの大音量に携帯落とすとこやった。
『あれほどいらんこと言うな!言うって忠告したやろ!服部くんの一言がどんだけ和葉に迷惑かけてんか、分かってんの?』
「・・・・・・俺、何か言うたか?」
『・・・・・・・・・・・下級生のアホ女どもに、和葉のこと好きやって言うたやろ!』
「あっ・・・・・・・。」
『あっ。やないで!そのせいで和葉、アホ女どもに呼び出されて、制服から髪までムチャクチャに切られたんやで!この責任どうとってくれるんよ!』
「ほんまか?それ。」
『冗談でこんなこと言わへん!和葉の制服は使い物にならへんようになるし、何より和葉の髪や!どうしてくれんの?あの綺麗な髪がもう無いんやで!アンタが似合う言うてから、和葉ず〜っとポニーテールやったのに・・・・・・。一度も違う髪形したことなかったんに。』
「・・・・・・・・・・。」
『和葉がアンタにだけは言うな言うたけど、蘭ちゃんと相談してどうしもアンタにだけはきっちり言うとかなあかん思たんや。あんときかて和葉、服部くんの心配ばっかりなんやから。アンタに迷惑がかかるからいうて、和葉じっと何の抵抗もせずにがまんしてたんやで。その後も、心配させるからいうって、アンタにだけは言わんといてほしい言うし。髪形違うん見られたないって、ずっと一人で我慢してるんやから。・・・・・・・・・・・それに・・・・・・・・それに今の和葉は前の泣き虫和葉やで。』
「俺・・・。」
『あっあかん。ほな、服部くん明日は新大阪16:33着の”のぞみ”やから。』
そう言うって、慌てて切りおった。

木更津の言うたことが頭ん中で、グルグル回っとる。
俺の不注意な一言が和葉を傷付けた。
女共に囲まれ取るてじっと我慢しとる和葉が浮かんだ。
ギリッ。
奥歯が嫌な音をたてよる。
メールの着信音が思考を邪魔する。
『言い忘れとったけど、今回のことで絶対にぜ〜〜たいに騒動起こすんやないで!内申にもっとも響くこの時期に、服部くんが問題起こしたら、他の誰でもない和葉が一番傷付くんやからな。自分の為やない、和葉の為に辛抱しいや!服部くんが今一番やらなあかんことは、和葉の側におることや!』
木更津の言うとることは、正論や。
頭では分かっても、気持ちがついていかん。
俺は素振り用の竹刀持って、部屋を出た。

結局、一睡も出来へんかった。
何百回素振りしようが、頭を冷やす為に水を浴びようが、気持ちがすっきりせぇへん。
そんなこんなで、もう、迎えに行く時間や。

新大阪、新幹線の改札口で和葉たちを待っとたら、木更津が俺に気付いて手を振ってきた。
その後ろに・・・・・・・あっ・・・・・・・・・・・・・・。
初めて見る和葉がそこにおった。
困ったような表情浮かべて、俯いとる。
ほんまに和葉の髪は、俺より少し長いくらいしかあらへん。
髪の短い女は、男っぽく見えるん違うんか?

それやのに・・・・それやのに・・・・和葉んヤツ・・・・・・・何でそんなに綺麗になっとねん・・・・・・・・。

横を通るヤツラが、振り返って見とるやんか。
そんなん、ありなんか?
今までも十分野郎の視線集めとったやんか。
それやのに髪が短こうなっただけで、ほとんどの男の注目の的やん。
「・・・っ・・とりくん!服部くん!」
「えっ・・・・あっ。」
「和葉に見惚れるんはええけど、いつまでそうしてる気なん?」
木更津が呆れた様子で、俺ん顔の前で手を叩いた。
「何すんねん。」
「服部くん、えらいマヌケ面やで。まぁ、分からんでもないけど。和葉、メチャメチャ可愛いやろ〜〜。東京でもモテモテやってんで。忍足くんか蘭ちゃんと工藤くんがおってくれたからよかったんやけど。そうやない時は、声かけられまくりやったんやから。」
「ちょっと華月、何言うてんの!」
「ええやん別に、ほんまのことなんやから。」


あかん!あかんあかんあかん!!あかん、やんかそれ!!!


和葉には待っとたる言うたけど、もう、そんな悠長なこと言うてられへん。

このまま和葉、野放しにしとけるわけないやんか!





あれほど いっぺん
novel top 久遠-KUON- top