久遠 -KUON- 19 | ||
■ まったく ■ | ||
突然の俺ん声に、二人が息を呑んだんが分かった。 「へ・・・・平次?」 カーテン払いのけて、和葉の顔を見る。 右目の下に、さっき木更津が張ったバンドエイドがあった。 「あんたいつから・・・。」 「そんなんどうでもええ。それより例のあれって何や。」 「そっ・・・それは・・・。」 「これや。」 木更津が俺にあるフリーペーパーを差し出した。 「5ページ目、”ちまたで噂の女神たち”」 そこには、隠し撮りされた和葉の写真が載っていた。 「何やこれっ!!」 「あたし、そんなん知らへんよ。」 「当たり前や!」 「読者から募集した噂の美少女上位5名や。和葉の知らんうちに写真付きで学校名と名前まで掲載されとるよ。」 「どういうこや?」 何か知ってそうな木更津に問う。 「その情報誌、中高生に人気なんやけど、ちょっと行き過ぎのとこがあんのや。今回みたいにまったく本人の許可なく掲載したり、結構際どいことが書いてあったりすんねん。そんで、その号が配布されてから、一緒に変な噂が広まったんや。”女神の髪は幸運のお守り”どっからこんなんが出てきたんかは知らへんけどな。しかも、そこに写ってる写真の中で和葉が一番髪短いやろ、やから和葉の髪が一番のレアアイテムになってしもてん。」 こいつはどこで仕入れてくるんか、こういうことについてはやたらと詳しい。 「お前なんで、俺に言わへんかったんや?」 座っている和葉を上から見下ろす。 「やって、平次・・・・・心配するやろ・・・・・・・。」 和葉が視線を逸らすと、右頬のバンドエイドが改めて、目に入ってきた。 ・・・・・・・・・・まったく、こんな傷つくりおって・・・・・・・・・。 「お前が早よ、髪伸ばさんからこんなことになるんやで。」 自分でも理不尽な言いがかりだとは思うたけど、口から出てしもた。 「そんなん言うたかて・・・・・・・気に入ってるんやもん・・・・・。侑ちゃんも似合てるっ・・・・うっ・・・・・・。」 木更津が俺の表情に気付いたんか、慌てて和葉ん口塞いどる。 もう遅いっちゅうねん! 「ええか和葉!絶対に二度と髪切るんやないで!」 「う〜〜ううう〜〜。」 木更津が無理矢理、和葉を頷かせとる。 「情報誌の方は、俺が何とかしたる。それと、そのアホな噂もや。」 「それやったら、うちにええ考えがあるんやけど。」 何や言いたそうな和葉を押さえたまま、笑顔でいいよる。 こいつが、こんな顔する時はろくなことやない。 「ぷっ・・・はぁ〜〜〜。もう、なんなんよ華月〜〜。」 「ええから。和葉も聞いてや。あんな・・・・ 。」 ほんまに・・・・・・突拍子もないことを思いつくヤツやで・・・・・。 木更津の提案には、さすがに俺も和葉も即答は出来へんかったんや。 ・・・・そんで・・・・夕飯食うて、風呂入った和葉がパジャマにカーデガン羽織った格好でココア持って俺ん部屋におんのはいつもんこというたらいつもんことなんやけど・・・・・・ほんま・・・・・・警戒心ゼロやで・・・・・・こいつ・・・・・。 「どうすんの?平次。」 俺はなるべく和葉ん方を向かんように、PCのメールや事件の情報なんかをチェックしとるんや。 「どうすんの?言われてもなぁ・・・・・お前こそ、どうやねん?」 「う〜〜ん・・・・・どないしょ・・・・・・・・。」 和葉はカップを机に置くと、代わりにクッションを抱え込んだ。 「俺は・・・・別にええで・・・・。木更津が言うように、確かに一石二鳥かもしれへんからな。」 「そうなんやけど・・・・・・平次・・・・ほんまにええん?」 無意識に和葉ん方を向きそうになったんを慌てて無理矢理止めた。 和葉ん声の感じから、見てしもたらきっと心臓に悪いはずや。 「俺はかまわへん言うとるやろうが。それより、お前こそはっきりせぇや。」 目はPCに向けたままやけど・・・・・意識はまったく向いとらん。 「・・・・平次がええんなら・・・・・あたしも・・・・・・・・ええよ・・・・・・・。」 ・・・・・・うん?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょう・・・・・・まてや・・・・・・・。 よ〜〜〜〜〜〜〜考えたら・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今の・・・・・・・・・告白にならんか? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるやろ・・・・・・。 ・・・・・・・・俺がええ言うて、和葉もええ言うた・・・・・・・・・・・・・・・・!! えっ・・・・あっ・・・・やってやで、木更津が俺らに提案したんは、 『また違う情報誌なんやけど、これも超人気があんねん。これにな、毎回「憧れの恋人同士」いうのがあんねん。これに、あんたら二人載っけてもらったらええやん。そうしたら、もう二人は公認の仲やし、和葉狙うとる男も、和葉の彼氏が西の名探偵服部平次やって知ったら、そうそうアホな事もせんやろ。なんせ、服部くんが剣道強いんも有名なんやし。それに、服部くんにまとわりついとる女どもも、和葉がただの幼馴染みやなくて、ちゃんと服部くんの彼女になったんなら諦めるしかないやろ。今や美少女で有名な和葉なんやから、どうみても勝ち目ないんやし。なっ!ええ考えやと思わへん?』 やったんやからな。 そっ・・・・・それやったら、和葉がええ言うたんは、俺と恋人同士になってもええいう意味やんな・・・・・・。 情報誌なんぞに載ってしもたら、当然、みんなん知れ渡るやろし。 おかんや、和葉んとこのおっちゃんの耳に入るんも時間の問題や。 恋人同士なん芝居で出来るもんでもないやろし。 ・・・・・・・あっ・・・・・・・いやっ・・・・・・・・・・・・和葉もしかして・・・・・・フリだけのつもりか・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・ありえる・・・・・・。 あの眼鏡んこともあるし・・・・・。 あんだけ携帯のカメラに収まるくらい、くっつきおってからに・・・・・・。 そやけど、和葉んヤツ、めっちゃ嘘つくん下手やで。 絶対にフリなん無理に決まってんやんか。 やったら・・・・・・・やっぱ・・・・・・・・・ほんまに・・・・・・・・・・・俺と・・・・・・・。 ・・・・・・いやっ・・・・・・・・でもやな・・・・・・・・・・。 俺は一人自問自答しとったんや。 とにかく和葉ん方は見ずに。 密かに漂ってくる石けんの香りだけでも、キツイっちゅうねん! やから、和葉が何しとるかなん気付かんかった。 コテッ。 こてっ? |
||
|
||
|