■ 2コメのオレンジ ■ |
和葉は屋上から校内を見下ろしていた。 「・・・・・・・はぁ・・・・・・。」 ・・・・・・・・・・へーちゃんがモテルんは分かってたんやけどなぁ・・・・・。 和葉も平次が女の子に人気があることは、もちろん知っていた。 しかし、そのモテっぷりは和葉の想像を遥かに超えたものだったのだ。 剣道では泉心高校の沖田と並び証される程の腕だし、最近では、西の名探偵として情報誌にも特集されている。 その上、背も高く容姿も良くて頭も良いとくれば、女の子が放っておくワケがなかった。 しかも和葉の驚きにさらに発車をかけたのは、今日がバレンタインで平次への凄まじいまでのチョコの集まり方だった。 平次の登校時間には校門に大勢の他校生や女性たち、校内でも休み時間の度に列が出来ているほどなのだ。 そして放課後になった今も、きっと剣道部が使っている道場にはたくさんの女生徒が集まっているだろう。 「・・・・・・・あかん・・・・・・・落ち込みそうやわ・・・・・・・。」 教育自習生の身である和葉には、やらなければいけない事がたくさんある。 だけど、大勢の女の子に囲まれている平次を見るのが辛くて、つい、ここに逃げて来てしまったのだ。 「・・・・・・・はぁ・・・・・・。」 ・・・・・・・・・・・こんなんで・・・・・・あたし後10日以上もモツんやろか・・・・・・・・・。 バタンッ! 「 あっ!やっとおった!探したで〜和ねぇー!! 」 「なおくん!!」 屋上のドアを勢いよく開けて和葉に駆け寄って来たのは、平次のもう一人の悪友 高岡尚登 だった。 「どしたんそんなに息切らしてもうて?」 「どしたんやないでぇ〜和ねぇ〜。今日は合気道部の練習見てくれるんとちゃうかったっけ?」 平次と隆史と尚登は幼馴染、ということは当然、和葉とも幼馴染になる。 3人は小さいころから和葉のことを”和ねぇー”と呼んでいた。 和葉は平次のことを”へーちゃん”、隆史のことを”たかくん”、尚登のことを”なおくん”と呼んで弟みたいに可愛がっていたのだ。 「あっ!すっかり忘れてもうてた・・・・・。かんにん・・・・して・・。」 和葉は申訳なさそうに両手を合わせて謝った。 それなのに尚登は、 「それより、和ねぇーこそこんなさっむいトコで何やってたんや?」 と然程不思議そうでもなく問い掛けてきた。 「そっそれは・・・・・・。」 「平次んことやろ?」 「・・・・・・・・・・。」 「あんなん気にせんでええて。いつもんことやしな。それに、あいつあれでも直に持ってくるヤツにはちゃんと断ってるで。」 「・・・・・・・・・・なおくん・・・。」 「それでも、デレデレしとる平次ん顔が気に入らんのやったら、オレが天誅くらわしてやってもええでぇ〜〜〜!」 尚登は拳を作ると右腕をブンブンっと大きく振り回した。 「ぷっ・・・・・ほんま・・・・なおくんにはかなわんわ。」 和葉はそんな尚登の気遣いが嬉しかった。 2人はそのまま、合気道部が使っている道場へと向った。 途中、剣道部が使っている道場に近づくにつれて、女の子たちの黄色い声が聞こえてきた。 「和ねぇー。腕組まへん?」 急に尚登が和葉の前に自分の左肘を突き出したのだ。 その顔は、いたずらを思い付いた様に笑っている。 「そやね!」 和葉も笑顔でその腕に自分の右腕を絡めた。 しかも尚登は道場の前を過ぎる時に、 「 和葉先生と腕組んで歩けるなんて最高やなぁ〜〜〜!! 」 とワザと大声で言ったのだ。 すると。 ダッダッダッダッ!!! 大きな足音と同時に入り口に現れたのはもちろん平次。 「 なっ?!!!!!★×▼△@◇■!!!!! 」 声に成らない雄叫びを上げている。 「何や平次?羨ましいんか〜〜〜〜〜?」 尚登は余裕の笑み。 「 なっ・・・・なにさらしとんじゃ―――――――――――――――――!!!!! 」 「何って、和葉先生に腕組んでもろうてるだけやで?和葉先生、オレら合気道部のOGやしな。 道場までエスコートするんは、現部長としては当然やろ。」 「 えっ・・・・エスコートやと――――――――――――――――!!!!!! 」 「そやで。それとも何かぁ?お前に何や文句言う権利でもあんのかぁ?」 「 うっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 」 「まっ!そう言うコトやから。 あっそうやそうや!しかも、和葉先生手作りのチョコもあんねんで〜〜〜ええやろう〜〜〜!! まぁ〜〜お前はもうぎょうさん貰うてるからいらへんかぁ〜〜〜! ほなな〜〜へ〜〜〜ちゃん!」 尚登、完全勝利である。 先生と生徒となるこの2週間は、 『 俺の女に手ぇ出すなや!!!! 』 と公言出来ない平次は大人しく引き下がるしかないからだ。 「ちょう、なおくん?ええの?」 和葉は少し心配になったのか不安そうに聞いた。 「あれ位したった方があいつにはええ〜薬や。それに、チョコがあるんはほんまやしな。」 確かに和葉は、合気道部の部員たちにチョコを用意していたのだ。 「そうやけど・・・・・・後が大変なんちゃうの?」 どうも和葉が心配していたのは、平次の仕返しだったようだ。 「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オレ・・・・・・・明日の朝日が拝めるんやろか・・・・・・・・・・・。」 流石に尚登も今になって、和葉が絡んだ平次は何を仕出かすか分からなかったコトを思い出した。 「骨はあたしが拾ったるからね、なおくん。」 「和ねぇ〜〜〜〜〜、それ・・・・・フォローになってへん・・・・・・・・。」 「えっ?あっ・・・・・そやった・・・・・・。」 「ははははは・・・・・・・・。」 尚登は引き攣った笑いを浮かべながらも合気道部の道場まで、和葉と組んだ腕は離さなかった。 しかしこの時点で平次はまだ和葉からチョコを貰っていなかったので、 尚登への多大な仕返しがあったことは言うまでもない。 |