■ 4コメのオレンジ ■ |
平次は携帯にストラップ代わりに付けた青いお守りを見ていた。 「こんどはな〜んでニヤケてるんや?」 ひょいっと平次の携帯を取り上げると、 「ふ〜〜ん。チョコと一緒に貰たんやコレ。」 隆史は平次の目の前で、お守りを揺らしてみせた。 「触るなやっ!」 乱暴に取り返すと、急いでポケットにしまい込む。 「まぁええわ。それより聞いたか?3組の転校生、えらい可愛い子らしいで。」 「ほうか・・・。」 平次は気の無い返事を返した。 「・・・・・・・。和ねぇ以外は興味無しってか。」 その一言に平次はギロッと睨んだが、隆史はあほらしと言わんばかりに椅子にもたれかかった。 「そうも言ってられへんで。」 そんな2人に忠告をしたのは尚登だった。 「何やなお、飯時に来るなん珍しいやんか。弁当足りへんかったんかぁ?」 「お前と一緒にすな。おばさんの弁当と和ねぇの弁当2コとも全部平らげるヤツに言われたないで。」 平次は母親のお弁当以外に和葉にまでお弁当を作ってもらっているのだ。 「で。どしたんや尚登?」 無意味な言い合いを始めそうな二人に隆史が待ったをかけた。 「そやそや。俺らのクラスに来た美少女転校生のことや。この子、桂木翔子(かつらぎしょうこ)言うんやけどな。うちに転向して来た理由が凄いで!」 尚登はニヤニヤと平次を見下ろした。 「何やねん?」 「オレらのクラスは今その話題で持ちきりやでぇ〜、へ〜〜ちゃん!」 「やから何や?」 平次は鬱陶しそうに椅子にふんぞり返った。 「何とその理由は!西の名探偵 服部平次くんの彼女になるためらしぃで!」 ずりっ・・・・。 平次は思わず椅子から落ちそうになった。 「はぁ・・・・?」 隆史も流石にちょっと驚いたが、 「とうとう乗り込んで来るヤツまで現れたとは、服部も悪いやっちゃなぁ〜。」 と幾分声が楽しそうなのはバレバレである。 「多分、今日中にでも平次んとこに来んで。服部くんの彼女にして!ってな。」 「どうすんや〜服部〜?」 2人にしかも同時にニヤニヤと見られて、平次はワザとらしく窓の外を見る振りなんかをした。 「アホなこと聞くなや。」 ポケットの中のお守りをそれとなく握り締めながら、ボソッと答える。 「そうやろなぁ〜。ちゅうかそうやないとあかんで!」 と言うやいなや、隆史と尚登は今度は平次を机の真ん中に引っ張り寄せた。 「ええかぁ平次。お前は一度やらかしてるんやで。二度目は許されへんことくらい分かってるんやろな!」 「まったくや。今度、和ねぇ泣かしてみぃ、マジにアソコへ放り込んだるで!」 「しかもや、お前昨日オレと和ねぇがおる時に怒鳴って来たやろ。そんせいで、お前のファンクラブに和ねぇ目ぇ付けられてるで。」 「少しくらい辛抱せぇや服部。和ねぇの為やで。」 3人が顔つき合わせて密談している姿は、いかにも怪しげだった。 教室にいたクラスメイトたちはその姿が気にはなっていたが、迂闊に近寄れる雰囲気でもなかったのだ。 「そんなん、一々言われんでも・・・。」 「ほんまに、分かってるんか?」 「やったら、学校では和ねぇに近寄るなや。」 「・・・・・・。」 「ええな!2週間くらい我慢せぇ!」 2人の和葉贔屓は今に始まったことではない。 平次と和葉を天秤にかけたら、さおが垂直になるくらいなのだ。 もちろん、和葉が下に決まっている。 「オレらもきっちりフォローしたるから。」 「お前は大人しくしとくんやで。」 ここまで言われると、平次に反論出来る余地は残されていない。 ・・・・・・・・・・・俺んとって・・・・・・嬉しいはずやったこん2週間が・・・・・・・・・・・・・・・・。 平次はがっくりと机に項垂れてしまった。 ・・・・・・・・・・・拷問や・・・・・・・・・・・・・。 和葉がいつも視界に入るくらい近くにいるだけに、平次にとって2人のダメだしはかなり酷なものだった。 平次と和葉は5歳離れている為に、2人が同じ学校に通えたのは小学校の1年間だけ。 だから平次は、学校で和葉と一緒にいられることが本当にとても楽しみだったのだ。 やってみたいこともいっぱいあった。 例え生徒と先生という立場でも、一緒にお昼を食べるとか、一緒に登下校するとか、誰もいない教室で・・・・・・・・などなど。 それらすべてが、泡と消えていったのだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・可哀想なんちゃうか・・・・・・・・俺・・・・・・・・・。 そんな平次を見て、隆史と尚登はお互いに顔見合わせて小さく溜息をついた。 「まっ。気持ちは分からんでも無いけど・・・・・・・・がんばりや。」 「貰うたお守りでも握り締めて耐えるやな。」 「こいつ、そんなん貰うてるんか?」 「青いお守りや。多分、和ねぇの手作りやで。」 「お前は・・・・昨日散々オレに酷いことしとって自分だけええ思いしたんやなぁ〜〜。」 尚登の目が座っている。 「尚登、お前も懲りんヤツやなぁ・・・・また和ねぇにちょっかい出したんかぁ。」 「こんボケがデレデレしとるんを和ねぇが気にしとったからや!」 「・・・・・・・・・・・・・・。」 「和ねぇ・・・やっぱ気になってたんやなぁ・・・・。」 2人とも平次が異常な程モテテいることを和葉が知ったら、落ち込むだろうと心配していたのだ。 「やっぱお前、ここでは和ねぇに近寄るなや!」 「半径10メートル以内は立入禁止やぞ!」 2人の冷たい言葉が平次に注がれた。 その時。 「 服部くんいますか? 」 とても可愛らしい少し甘えたような声が、3人の耳に届いて来たのだった。 |