■ 7コメのオレンジ ■ |
「あっ。それオレも聞きたい!一言で言うたらどんな人なんですか〜?例えば、ハンサムとか優しいとか?」 尚登の目が興味津々でキラキラと輝いているのは気のせいではないようだ。 「そやねぇ・・・・。」 女の子たちの目もワクワクと同じ輝きを放っている。 教室全体が和葉の一言を待って、静まりかえった。 「 やんちゃ。 」 ごんっ。 平次が窓ガラスに頭をブツケタ音。 『えっ?』 『ごめ〜ん、和葉先生よう聞き取れへんかったから、もう一回言うてくれへん?』 女の子たちは聞き間違いだと思ったようだ。 「やんちゃ坊主やねん。」 教室全体にさらに沈黙が深まったが、 「ぶっ!!くくくっ・・・・・がはっはははは・・・・・・・・。和葉先生・・・・・・最高・・・くくくっ・・・・・。」 と言う尚登の笑い声だけが響き渡った。 「もう、そんなに笑わんといて〜や。やってな!いっぺん飛び出して行ってもうたら、鉄砲玉みたいに帰って来ぃへんし。ちょっと目〜離した隙に、危ないことしとるし。怪我やって、いっつもぎょうさん作ってるんやもん。」 和葉は大真面目に言っているのである。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」 平次のドキドキは何所へやら、ガラスの冷たさも手伝って気分は一気に急降下していった。 和葉が必死で説明すればするほど、益々”和葉先生の彼氏どんな人?”状態になっていく。 「先生・・・・・・おもろ過ぎや〜・・・・・・腹痛なってきた・・・・・くくく・・・・・・・・それ彼氏のことやんなぁ? ペットとかと勘違いしてへん?」 尚登は目に涙まで浮かべて笑い転げている。 隆史も俯いたままで表情は分からないが、肩が震えているから笑いを堪えているのだろう。 平次の背中には哀愁が漂っている。 ・・・・・・・・・・・害虫予防より・・・・・・・和葉ん意識改革ん方が先なんちゃうか・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・”やんちゃ坊主”って何やねん・・・・・・・・・俺をいくつや思うてんねん・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・あかん・・・・落ち込みそうや・・・・・・・。 「ペット?ちゃうちゃう。ちゃんと彼のことやで。あたし何か可笑しなこと言うた?」 『あの〜〜和葉先生?その彼・・・・男の人ですよね?』 ”人”の部分が強調されているようだ。 「ほんまにペットとちゃうて〜〜。ちゃんと人間の男のヒトです!一応・・・。」 拗ねた様に答えるその姿はとても可愛らしいのだが、言っていることがどうも彼氏のこととは思えない。 『一応?』 挙げ句にツッコミを入れられる始末だ。 「いっ一応ちゃうね。おっ男のヒト。男性・・・・・やね・・・・・。」 和葉は平次のことを”一人の男性”と認識はしているが、それを本人が聞いている前で口にするのが恥ずかしかったのだ。 真っ赤になっている。 『あ〜〜先生照れてんの〜〜〜?』 『和葉先生かわええ〜〜〜〜〜!』 『その人のことメッチャ好きなんですね!!』 和葉はボッボッボッ!とさらに赤くなってしまった。 「遠山先生、その人年上ですか?」 今まで黙って聞いていた翔子からの突然の質問だった。 「えっ?違う・・・・けど・・・・。」 その場にいる全員の視線が翔子に集まった。 「だったら、同い年ですか?」 和葉は翔子の質問の意図が掴めず、 「それ・・・も・・・ちょっと違うかな・・・・。」 曖昧な答えを返した。 「年下の彼なんですね。」 翔子はそう言うと、また黙って自分のお弁当を食べ始めた。 和葉は平次に一瞬戸惑った表情を浮かべたが、すぐに視線を反らした。 今この場で、平次に縋ることは出来ないからだ。 尚登と隆史も同時にチラッと合図を交わす。 ・・・・・・・・・・桂木翔子は要注意人物!・・・・・・・・・・。 『うっそ〜〜〜!!和葉先生の彼、年下なんや〜〜!』 『いが〜〜い!』 『絶対年上の人やて思うたてたのに〜〜。』 『ほんまほんま。その”やんちゃな彼”とは何所で知り合うたんですか?』 『私もそれめっちゃ聞きたい!!』 「それ、実はオレやねん。」 尚登の爆弾発言である。 しかも顔はマジ。 女の子たちも『えっ?』って顔をしたが、すぐに、 『高岡くんには騙されへんよ。』 『そうやって、いっつもうちらのこと騙すんやから。』 と笑い出した。 「うわっ!ヒドッ!お前らオレのこと勘違いしてへんか?こんな誠実なヤツ他におらへんで〜〜。」 『よう言うわ〜〜。』 話題が摩り替った。 隆史も、 「服部、食い終わったら部室まで付き合えや。次ん試合の対戦表が届いてるはずなんや。」 と平次を誘った。 剣道部は試合の申し込みが多い為に、部室に電話やFAXが設置されているのだ。 「ええで。」 平次と隆史はさっさとお弁当を片付け始めた。 「えっ。服部くん行っちゃうの〜〜?私も一緒に行く〜〜〜!」 翔子も慌てて立ち上がった。 「桂木はもう自分の教室戻れや。オレら部活の話やから部外者は遠慮してくれ。」 隆史はキッパリと翔子を否定した。 「ええ〜〜〜。でも〜〜〜〜。」 「ほなな。早、帰れや。」 平次もそう言い残すと隆史と共に教室を出て行った。 和葉のことが気掛かりだったが、今は自分がどうしてやることも出来ないからだ。 「ほんまにオレが和葉先生の彼氏やっちゅうに!!」 『もう、いつまで言うてんの〜〜。』 尚登は結局最後まで、誰にも真に受けて貰えなかった。 そんな中、和葉が安堵の溜息を漏らしたのは誰にも気付かれていない。 しかし、和葉の中に翔子への懸念が芽生えたことは、平次はもちろん尚登も隆史も気付いていた。 |