ROUND 3 「 Versus 」 |
気持ちを自覚すると、行動に移すのは早かった。 重そうな荷物を持つ、とか。 コケかけた和葉を支える、とか。 家まで送って、一緒にいる時間を長くする、とか。 今まで以上に和葉の行動に合わせて自分は動けるようなったし、それが、周りへの牽制になると考えられるようになった。 何より…ま、そのちょっと触れる一瞬を嬉しく感じている自分がおった。 (一度ヨコシマな気持ちを持つと、それは中々消えへんらしい。) それに対する和葉の反応は、戸惑ってるような感じやった。 照れたり、少し困ったような顔をする。 それがこっちにどれだけ影響を与えるかなんて、この馬のシッポは知らんやろう。 表情1つで、俺の気持ちも変わる。 「恋は天気のようだ」とは、よく言うたもんや。 「最近の遠山、なんや可愛いなったなぁ。」 「…はぁ?」 剣道部仲間の八尾の言葉にすっとんきょうな声をあげる。 「あ、俺も思ってた!」 「俺も!」 横から同じように布施と小阪が手を挙げる。 「…ドコがやねん。」 いつも、アイツは可愛いやろ、とか考えたことは言わない。 「もうすぐバレンタインやろ?」 「あの人に振り向いて欲しい!とかあるんちゃうか、やっぱり。」 ニヤニヤと笑って話す小阪達に詰め寄った。 「アイツの好きな相手、知ってるんか?!」 「「「え?」」」 「あ、いや、その。」 「知らんけど、まあ、一般論やろ?」 「せやせや。」 一転、苦笑いになり、歯切れが悪くなる3人を見て、肩を落とした。 和葉に好きな相手がいるのか、いるとしたらどんなヤツか。 この名探偵の眼力を持ってしても、それは未だに分からんかった。 ちょうどそのタイミングやった。 「 まっ・・・まだ彼氏とちゃうやん!! 」 ひときわ大きい和葉の声。 俺の、クラスの全員の、動きが止まった。 あわてたような和葉の弁解に対して、布施が野次を飛ばす。 「”まだ”ってなんや〜遠山〜?!!」 クラスのあちこちから声がする。 「和葉〜〜彼氏出来たん?!!」 「え、うち知らんっ!!」 ・・・俺かて知らんわい。 どこのどいつや。 イライラとする中、廊下の方から声がした。 「それは服部んことか〜〜〜?!!」 ・・・え? 和葉が? 俺を? 「やっぱそうなんや〜〜〜!!」 瞬時に浮かぶのは、和葉の笑顔。 ご丁寧にチョコを手渡ししてる映像。 この状態で『・・・好き。』とか言われる日がくるんか。 もう目の前なんか?! 幸せすぎてにやけそうな妄想が駆け巡った後、答えが返される。 「ちゃうちゃう!平次はただの幼馴染や!」 ぴしっ。 「ええ―――――――!!和葉、他に好きなヒトおったんや!!」 心臓を液体窒素で冷やされて粉々に砕かれたような気持ち、と言って分かってもらえるんやろうか。 この瞬間の俺は、正にそんな感じやった。 一瞬でも、幸せの絶頂にあったがゆえに、その高低差は激しかった。 俺にすがるように、困ったような顔をしてきた和葉を可愛い(正確に言うと抱きしめたい)と思いつつも、切ない気持ちが俺を支配して、思わず顔を背けてもうた。 裏切られたと思うんは間違ってるんに、そんな気持ちになる。 『今までも、これからも、俺だけの和葉のはずやったんに。』 見えない相手に向かって、静かに闘志が燃えてく。 「はず」や無い。今からでも遅くは無いんや。 あの時、振り向かせると誓ってんから、多少無理やりでも、「俺だけの和葉」にしてしまえばええ事や。 『横取り、割り込みはお断りセンと、なぁ・・・?』 くくっ、と喉から笑う声が出た。 「ヲイ・・・。」 「俺、本気で怖いねんけど。」 「今、目ぇ合わせたらあかんぞ。後で練習にかこつけて、ボコボコにされる。」 横で、小阪、布施、八尾の三人がそんな事を話している事にも気づかないほど、俺には和葉しか見えてへんかった。 俺はノートをちぎると一言書いた。 「今日、うちへ来い。 平次」 和葉達が席を立ったのを見計らって、するりと鞄の中へ入れる。 この時、俺の読みは甘かった。 その手紙が今日読まれるかどうか、分かりやしなかったのに。 実際、この手紙が見つかるのは、もう少し後になってからだった。 |