ROUND 6 「 Access 」 |
「・・・・・・ゃん・・・・・・和葉ちゃん。」 う〜〜ん。もうちょっと・・・・・。 「和葉ちゃん。もうすぐ東京やで。」 ・・・・・・・・・東京? あっ。 あたしは慌てて寄りかかっていた体を離した。 「かんにん・・・・沖田くん。」 「そんなん気にせんでええて。なんやったら、一生寄りかかってくれてもええんやで。」 「もう何言うてんの〜〜。」 優しい笑顔を返してくれる沖田くんとあたしがいるんは、東京行きの新幹線ん中やねん。 あの日、平次がなぜキスをくれたのかあたしはその理由を聞けずじまいやった。 何遍携帯を鳴らしても、何遍平次ん家に行っても、平次は東京へ行ってしまうまであたしを相手にはしてくれへんかったから。 ・・・・・・・・・・・あたしはどないしたらええんやろ・・・・・・・・・・・。 あれは決別の挨拶やったんかもしれへん。 やけど、あん時平次は『お前こそ、俺の気持ちなん・・・知らんくせに。』って言うた。 あれは・・・・・どう取ったらええんやろ・・・・・。 華月に言うたら、 「後、一押しやな。」 って一人で楽しそうに頷いとるし。 何が一押しやねん! 思いっきり引かれてるやんか!! もう・・・・・どないしてくれんの・・・・・・・。 結局、あたしと華月は2人揃って京大へ進学した。 華月の実家は京大の近くやから、「うちにおいで。」言うてくれたんやけど、そこまで甘えるワケにはいかへんからあたしは一人暮らしを始めた。 せめて部屋代くらい自分で何とかしよう思うてサークルには入らずにバイトをするつもりやったんやけど。 沖田くんのたっての頼みで剣道部のマネージャーを華月と一緒に引き受けることになってしもた。 沖田くんは京大医学部やねん。 将来はDr.コトーみたいなお医者さんになりたいんやて・・・・・・・ちょっと以外やった・・・・・でも似合いそう・・・・。 で、問題はこの剣道部のマネージャーや。 沖田くんの人気は平次並に凄うて成り手がぎょうさんいてん。 やから、剣道のコトをどんだけ知ってるかなんいうテストがあったりしたんやで。 ほぼパーフェクトやったんは平次のお陰でず〜と剣道に関わっていたあたしと、実家の隣が沖田くん家の道場やった華月の二人だけやった。 ちなみに華月は、剣道の段を持ってるんやで。 本人は無理矢理やらされとっただけ言うてるけど、沖田くんが認めるくらいの腕前らしい。 あたしは華月が剣道してる姿を見たことは無いんやけど、あの黒髪をきゅっと纏めて竹刀を構える姿はかっこええと思う。 そんでな一番の問題はここからやねん。 この京大剣道部の顧問は、東都大剣道部の顧問と旧知らしゅうて毎年夏前に合同練習兼試合をしてるらしい。 ほんで今年は、京大が出向く番なんやて。 あたしは平次が剣道部に入ってるんは、蘭ちゃんから聞いて知ってたから行きたくなくて同行を断ってたんやけど・・・・・。 昨日になって行くはずやった華月が捻挫してしもて、代わりにあたしが行かなあかんようになってしもた。 さっき華月に笑顔で京都駅から見送られたとこやねん。 ・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・気ぃが重いわ・・・・・・・・・・・・。 「和葉ちゃん。一つ約束して欲しいことがあるんやけど。」 突然、沖田くんが言うたことはあたしを驚かせることやった。 あたしら京大の剣道部は東京駅から直接東都大に行った。 東都大にも京大と同じくらい立派な道場があったんや。 しかも、ここにもぎょうさんのギャラリーがいてた。 初めに双方の顔合わせが会って、もちろん平次もおった。 やけど平次は一度もあたしの方を見ることは無かったし、あたしも平次に声を掛けたりはせぇへんかった。 やって平次の側には綺麗な女の人がおったし、思うた通り外のギャラリーはほとんどが平次目当てやったから。 京大も道場の半分を貸してもらい、早速練習を始めたんや。 あたしも他のマネージャーと一緒に色々忙しうせなあかんし、沖田くんと仲がええせいか必然的に彼の世話をすることが多い。 なんて言うても沖田くんは京大の大将なんやからな。 一年で大将言うんは初めてらしいから、結構すべてが特別扱いやねん。 校内戦で圧勝やったんは言うまでも無いやろ。 さっき配られた対戦表を見ると、東都大の大将は平次やった。 これも納得やな。 そんなこんなで午前中の合同練習はあちゅう間に終わってしもた。 手配したお弁当を天気がええから外で食べることになって、道場から出ようとしたときに沖田くんが初めて平次に声をかけたんや。 「今日は絶対に勝たせてもらうで服部。」 「アホぬかせ。泣きをみるんはおのれじゃ沖田。」 2人とも顔は笑っとるけど、殺気が凄。 「今日は何がなんでも勝ったるで。そやないと和葉ちゃんがいつまでたってもオレの彼女になってくれへんからなぁ。」 「ちょ・・・・沖田くん何・・・・・。」 「まぁまぁ和葉ちゃんは黙っとき。これはオレとコイツの勝負やからな。」 楽しそうな沖田くんに対して平次は怪訝な顔をしてるやん。 「さっきやっと、今日オマエに勝てたらオレのもんになってくれるて約束取り付けたんやからな。 せいぜぇ覚悟しとくんやで。 今日こそ、二度と立ち上がれへんくらいにしたるから。」 「なっ・・・。」 「ほなっ。そういうことで。」 何か言いかけた平次を無視して沖田くんはあたしの手を引っ張って歩き出してしもた。 慌てて振り向いたとき、今日始めて平次と目が合うた。 何か問いかけるようなそんな感じがしたんやけど・・・・・・あたしの気のせいやったかもしれへん。 やって・・・・・・・・・平次は何も言うてはくれへんかったから。 あたしはそんまま沖田くんに引き摺られて行った。 沖田くんが平次に言うたことは、新幹線の中であたしに言うたことやった。 「今日、服部に勝ったらオレと本気で付き合うて欲しいんや。」 いつもフザケとる沖田くんのあまりに真剣な眼差しに思わず頷いてしもた。 今日の新しい友達らと楽しそうにしてる平次を見とったら、それもええかもしれへん。 て改めて思ってまう。 平次にはあたしはいらへんのや。 いつまでも、きっぱり平次んことが諦められへんあたしがあかんのやなぁ・・・・なんて。 どうせ今日が終わったら次はいつ会えるか分からへんのやし。 沖田くんみたいな人から告白されるなん、あたしにはもう無いことやろうし。 でも・・・・・・・。 それでも・・・・・・・・・・。 平次に勝って欲しい思う気持ちが、心ん中にあるんはどうしようもない・・・。 |