― 非常識な幼馴染 シリーズB ―

■ 女の髪は男の為に ■
「へ〜〜じぃ〜〜〜〜!!」

野郎ばっかりやったむさくるしい教室に、一輪の花の如く遠山がご帰還や。
だらけきって机に突っ伏しとった服部は、それでもムックリと起き上がって大欠伸かましながら伸びをしとる。

さっきの授業は体育で水泳やったんや。
泳いどる時はええけど、そん後はだるだるやで。

オレらは数人で窓際に固まって、下敷きでせっせと風を起こしながら遠山と服部をぼ〜と見とった。

今更、驚くことなん何も無い。
見慣れた光景や。

「相変わらず見事な手付きやなぁ〜。」

タツが溜息交じりにぼやくと、皆、かったるそうに頷いとる。

自分の席に座った遠山の後ろに服部が立つと、遠山は無言でブラシとゴムを差し出す。
服部もそれを無言で受け取ると、何の躊躇いも見せずに遠山のごっつう綺麗な髪を梳かし始めた。
一通りブラッシングするとや、今度は一纏めにして遠山の頭のてっぺん近くに持っていってゴムで止めるんや。

週に2回は見とるからなぁ、覚えてまうで。

その間、遠山は気持ち良さそうに、目ぇ閉じて服部の作業が終わるのを待っとる。
ゴムを止め終わると、今度は後れ毛をピンで留め、仕上げにリボンをバラスよう結んで出来上がり。

「お見事。」

掛かった時間は、わずか2・3分程度や。
遠山の頭には見事に、いつものポニテールが完成しとる。

「おおきに平次。」
「へいへい。」

会話はそれだけや。
遠山はもう次の授業の準備をしとるし、服部はまた自分の席に戻って寝るつもりやろ。

「そろそろ、オレらの番やなぁ〜。」

今度はテツが、気だるいそうにぼやく。
「はぁ・・・」
思わずこの場に居る全員が、溜息付いてしもた。
落とした肩が上がらんうちに、クラスの女どもがガヤガヤと一斉に帰還や。

「谷川く〜〜ん!今日は、三つ網でたのむなぁ〜〜!」
タツが和田に呼ばれて、立ち上がる。
「本山く〜〜ん!私は今日は、お嬢様結びがええわ〜〜!」
テツが注文されたんは、トップとサイドの髪を後ろで結んで、バックはそんままの髪型や。
「青木く〜〜ん!うちは、ツインテールで頼むわ!」
オレの前にもブラシとゴムが差し出される。

ほぼクラスの男どもは全員が、女どもの後ろで無言で作業に取り掛かった。
教室内はいっぺんに賑やかになったが、騒いどるのは女どもだけや。
野郎どもはオレも含めて、皆、黙々と与えられた作業をこなしとる。

女の髪に触れるんが嬉しいのはほんまやけど、これは何か違うやろ?

そう思いながらも、手はせっせと前にある髪を結い上げる。

ここは美容室か?
それともサロンか?

そんで、オレらは美容師かい?
どないしてくれるんや、この、慣れてしもた手付きは?

「はぁ・・・」
野郎はどこぞのボケを覗いて、皆、そう思うてるはずや。
そやけど、口が裂けても声には出されへん。
言うたところで、返り討ちに合うんが分かりきっとるからな。

『服部くんかて和葉の髪を結うてるんやで、あんたらかてそれぐらいやってくれてもええやん!!』

それは何か?
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能で有名人、そんでもってオマケにお坊ちゃまな服部くんがやることは、
見た目並、成績並、スポーツそこそこの一般庶民な高校生であるオレらにはやって当然言うことか?

「はぁ・・・」
アイツと一緒にせんといてくれ。
アイツは何かにつけて格好ええかもしれへんが、幼馴染に関してだけはどこの誰より非常識やで。
どこの世界に、毎朝、毎度何かにつけて幼馴染の髪毛結うてる男が居んねん。
聞いたことないで。
遠山もそれが当たり前やと思うてる辺りが、どっか完璧にズレとる。

「はぁ・・・」
オマエらのお蔭で、オレらがどんだけ迷惑蒙ってるか・・・。



ええ加減、気付けっちゅ〜ねん!






ちゃんちゃん
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