それからも平次から何度か電話があった。
あたしは適当に話合わせて、いつも早々に通話を終わらせた。
何を気にしてるんか知らへんけど、言い難そうに詰りながら話す平次なん平次やないし。
あたしは特に話すことなん何も無いから、仕方無いやん。

そんなある日、あたしは京都に居る親戚のおばちゃんに呼ばれて、今はだま近寄りたくないその土地に行く嵌めになった。
今一つ気乗りせんまま地下鉄から地上に上がる階段を登ると、そこにはびっくりする位の人、人、人の大洪水やった。
「そや。京都は祇園祭の真っ最中やったわ。」
余りの人の多さに、大阪育ちで人ごみには慣れてるあたしやったけど、流石にこれは少し引くわ。
地面見えへんやん。
そやけど逆にある意味、ほっ、とした。
これやったら平次に出会う確立は、天文学的数字に近い位に低いはずやらか。
そう思うたら気持ちも軽うなって、道端に飾れとる鉾や色々な祭品を見学しながらキョロキロと人の流れに乗った。
その中でも鉾はやっぱり凄うて、近くで見たなって人ごみを掻き分けて前に出た。

これが、あかんかった。

「綺麗やなぁ・・・」
ってつい夢中になって見惚れてから、ふっと下ろした向かいの歩道に・・・・・・・・・・見付けてしもた。
「・・・・・・・・・・」
なんで?
こんなぎょうさん人が居る中で、何でやの?

そうやったわ。
あたし”ウォーリーを探せ”が得意やったんやった。
間違い探しや色んな探せ本を夢中でやったんやったわ。
まったく。
その特技をここで発揮してどないすんの・・・。
「見んかったことにしよ。」
あたしはそそくさと再び人ごみに、紛れ込んだ。

それやのに、

「 か―――――ず―――――――は――――――――!!!! 」

後方から傍迷惑な馬鹿デカイ叫び声。

「・・・・・・・・・・」
あの男も、間違い探しは得意やったな。
しかし、ここで立ち止まると叫ばれたのがあたしやと周りの人らに気付かれてしまう。
それはそれで、恥ずかしいから絶対に嫌や。

他人の振りしよ。

あたしも周りの人らを見習って、誰?誰?って感じで周りを見回したりしてみた。
よし。
誰もあたしやと気付いてへん。
この隙に、さっさとこの場から逃げるに越したことないわな。
あたしは小走り、は出来へんけど、早歩きで人の隙間を縫うように歩き出した。

どのくらいそうやって歩いたやろか、もうこの辺でええやろ、って喉も渇いたし近くにあった自販機でお茶を買うた。
半分くらいを一気に飲み干して、
「ぷはぁ〜。」
と一息。

あの男、記憶が無くなってもあたしに迷惑掛けるんやな。
まったく、どこまで自分勝手な男やねん。
あれは、いくらなんでも非常識やろ。

って残りのお茶を飲もうとしたら・・・・・・・なかった・・・・・なんで?

「ぷはぁ〜〜!ごっそさん!」

げっ!

「お前、逃げ足早過ぎや!ちゅうか何で逃げんねん!俺に失礼やろが?」
あかん。
この男が、追いかけっこが得意なんもすかっり忘れとったわ。
「はぁ?あんた何言うてんの?失礼なんはどっちなんよ?!!しかも、人のお茶を勝手に飲むな!!」
「すまん。すまん。もう1本買うか?」
そういう問題ちゃうやろ?
「お茶でええか?」
「・・・・・・・・・・」
付き合うてられへんわ。
あたしは踵を返して、先を急ぐことにした。
「おい!こらっ!ちょう待て!和葉!」
無視や、無視。
「和葉!!和葉ちゃん!!」
「・・・・・・・・・・」
「か〜ず〜は〜!!」
さっきから黙って聞いてれば。
あたしはキッ!と目ぇ吊り上げて、振り返った。
「さっきから慣れなれしいんとちゃう?あんたあたしのこと何も覚えてへんのやろ?やったら、苗字で呼ぶんが普通やろ?!遠山さんて呼べ!遠山さんて!」
「ああ〜そんなん気にせんでええで。それに、さっき大声で叫んだら、何やすっきりしてなぁ、テレもこっぱずかしいんもどっかいったで。」

お前が気にせんかい!
そんで、お前がどっか行け!

やっぱ無視しよ。
あたしは今度こど、意を決して歩き出した。
「そやけど、和葉はこんなとこで何してんのや?」
「・・・・・・・・・・」
「こっち来るんやったら、何で俺に一言連絡寄こさへんねん?」
「・・・・・・・・・・」
「そんで何所に行くんや?」
「・・・・・・・・・・」
「せっかくこうして会うたんやし、俺も付き合うたるわ。」
「・・・・・・・・・・」

付いて来るんかい!

「さっきから、何やのあんた?」
「そんなツレのうすんなや?彼氏が一緒に居ったる言うてるんやで?もっと喜ばんかい。」

はぁ??

「だ・・誰が?!誰の?!」
「俺がお前の。」
「はぁ〜〜ぁぁ〜〜〜〜〜〜〜?????」

ちょ・・ちょっと待って・・・

「なっ何でそうなんの?」
もう、あたしはプチパニックや。
「そんなテレんでもええやんけ。」
いや、まったくテレてへん。
「あんた・・・やっぱ頭ごっつう打ったんやろ?」
「そやけど完治したで。」
してへん、してへん。
「何で、あんたがあたしの彼氏やの?」
「やってなぁ・・・」
平次は顎に手を当てて、探偵の時みたいな真剣な表情になった。
「おかんや工藤の話を合わせるとやな、どう考えてもただの幼馴染やったとは思われへんのや。」
「・・・・・・・・・・」
「そこで考えたんやけどな。俺らが密かに付き合うてるんやったら、それらも納得出来るんちゃうかな思うてな。」
「・・・・・・・・・・」
「そんで大学のツレらにも相談したんやけどな。そしたら、そいつら全員揃うて”絶対に恋人や!”って言うんや。」
それは、相談する相手を間違えてるやん。
「俺ら付き合うてたんやろ?」

あたしは思わず数歩、後退ってしもた。
待った!
待って!
そのおかしな結論は、すぐに考え直せ!

「それは、それは絶対に無いから!ありえへんから!あたしと平次はただの幼馴染やから!!」
全身全霊を込めて、全否定した。
「それはもうええて。ただの幼馴染がしょちゅう一緒に居ったり、外泊したりせぇへんやろが。」
「そ・・それは・・・」
「なぁ?こんなん聞いたらあかんのかもしれへんけど、どうしてもこれだけは確認しておきたいんや。俺ら・・」
ああ〜何かごっつう嫌な予感がする。
「俺ら、その・・・・あれや・・・・・」
もう何も言わんでええ。
「もちろん・・・あっちの関係もあったんやんな?」


眩暈がする・・・
神さんは、あたしに何か恨みでもあるん?


平次の口からこんな言葉を聞かされるやなんて。
しかも質問されてるし。
しかもしかも断定の確認やし。

その、当然みたいな聞き方有りえへんやろ?

あたしは・・・
この時初めて平次の記憶が速攻戻ってくれることを、心から願った。

今回のどさくさに紛れて、平次を忘却の彼方に追いやろうとしたんが甘かったんや。
この男の思考回路が普通やなかったことに、もっと早う気付くべきやった。



今のこの状況は・・・
何をどう考えてもありえへん。

なんで?
なんでこないなことになるんよ?





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