あたしはよろよろと、近くにあったビルん壁に寄り掛かってしもた。
「な・・何がどうなってんの・・・」
ああ〜、神さんはあたしにどんだけ試練を与える気やの。

はっきりきっぱり迷惑なんやけど。

「なんで・・何で・・そこまで激しい勘違いが出来んの・・・」
って壁に居った蟻んこに問い掛けたら、そっぽを向いて遠ざかって行ってしもた。
・・・・・・・・・・。
お前まであたしを見捨てるか?
・・・・・・・・・・。

「お・・おい!だっ大丈夫か?」
現実逃避したい。
「すまん。そ・・そやけど、和葉とのこと何も覚えてへんから。ま・・まさか、お前がそんなショック受けるとは思うてなかったんや。ほんますまん!」
あたしがショック受けてるんは、そこやない。
これはやっぱ、きちんと訂正しておくべきやな。
「あんなぁ・・」
「そっそやけどな。和葉んこと好きなんはほんまやで?ご・・ごっつう俺の好みやし。こんな可愛ええ子がずっと側に居って、手ぇ出さん野郎なん男やないで。俺はそんなヘタレやない。」
あ〜あ、この男自分で自分のこと貶してんで・・・・・・って・・・

あ・・あれ?

今の・・・初めの方に・・・何や聞き慣れへん言葉がぎょうさんあったような・・・?
なんか、さらっととんでも無いセリフのもうたような?
何やったっけ?

あかん・・・脳が許容量オーバーしとって、覚えてへ〜ん。

「い・・・今何て?」
取り合えずもっかい言うて。
「は?そやから、俺はヘタレや無いって言うたんや。」
「そこちゃう。その前。」
すると平次は急にぼぼぼっ!て真っ赤になってしもた。

福神漬みたいや。
色黒やと、赤こうなったらこんな色になるんやなぁ。
あの赤って確か、着色料やったよなぁ。

ってあかんやんあたし!
考えるんは、そことちゃうやん!

「そ・・・そやから・・・和葉はご・・ごっつう可愛ええし・・・お・・俺のいっちゃん好きなタイプやし・・・・そやから・・・」
「・・・・・・・・・・」
「す・・す・・す・・・・・」
す?
「す・・すき・・・すきや・・・・・」
すきやき?
「好きやねん。お前んこと好きやて言うたんや!」

この男はどちらさん?

平次があたしのこと好きやとか、タイプやとか言う訳ないやん。
今まで散々人んことコケにして来た男やで。

今あたしの目の前に居るこの男は、平次やない。

あたしの中で、きっぱりそう結論が出た。
そう思うとなんや今までの動揺や驚きが、全部綺麗に消えてしもた。

そうなるとや、これはチャンスかもしれへん。

平次と擬似恋人が体験出来る絶好のチャンス!

どうせ記憶が戻ったら全部忘れてしまうんやから、この機会を今度こそきっちり利用するべきや。

・・・・・・・・・・。

あたしも、相当性格歪んで来てるかも。
やって、この短い間にどんだけ考え巡らせてるんやろか。

「っか・・和葉?」
いつまで持つか知らへんけど、今はこの平次に合わせとこ。
「ごめん。ちょと眩暈がしただけやから。」
「どっかで休むか?」
・・・・・・・・・・。
平次が斜め前にあるホテルをちらっと見たんが、視界の隅に入った。
行き成りかいな。
流石にそれはご遠慮しとこ。
「大丈夫やから。それより、おばちゃんとの約束に送れてまうから。」
とあたしは凭れ掛かっとったビルの壁から、やっと体を離した。
そして、
「平次、ほんまにあたしに付き合うてくれるん?」
上目使いで縋る様に訪ねてみる。
「さっきからそう言うてるやろが。ほらっ。」
ほんまもんの平次なら絶対にやらへんやろう、左腕をあたしに向けて差し出してくれた。
これは、あたしがこの腕に?まってもええってことやんな。

ほな、遠慮なく。

あたしは力いっぱい両手その腕を抱き締めた。
すると必然的に胸の谷間に、平次の腕を挟み込む形になるわな。
どんな反応示すんかな?
って思うて下から平次の顔を覗き込むと、
「なっ何やねん?」
と平次はまた福神漬になっとった。
「ありがと。」
可笑しかったんやけど、それを誤魔化す為に満面笑顔で答えた。
「おう。」
そっけなくそっぽを向く仕草はほんもんの平次ぽいから、余計に可笑しい。

これは、これで楽しめそうや。



って思うてたあたしは、まだまだ甘ちゃんやった・・・。

どないしてくれんの?





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