結局、抵抗したところであたしが平次に力で勝てる訳も無く、あっさり喰われてしもた。
やけど、ずっと好きやった平次との始めてやのに、なんか、まったくちゃう男の人に抱かれてるみたいやった。

どうせ・・・記憶が戻ると忘れてまうんやから・・・

どうせ・・・この時間もすべてが無かったことになるんやから・・・

ええやんな。

そう思ってあたしは、平次の腕の中で眠りについたのに。


「いたっ!!?」

すっかり熟睡しとったあたしは、突然の浮遊感と全身を打つ衝撃で目が覚めた。
「うう〜〜〜。いったぁ〜〜〜。」
頭と腰を摩りながら転がり落ちたベットの上を見上げると、平次が上半身を起こして固まっとった。
「ちょっと〜何するんよ〜〜!痛いやんか?」
床にペタンと座り込んで恨みがましく睨み返しても、平次は固まったまま更に目を見開いとるだけや。
「どうかしたん?」
ほんまに何やの?
まったく反応が無い平次の視線を辿っていくと、見とるんはあたしの顔やなくて・・・・・・胸やん。
アノ後そのまま寝たんやから、当然なんも着てへん。
そやけど、それがどしたん?
「平次?」
訳分からへんで平次の方に近寄ろうとしたら、ビクッとして後退るし。
「へ〜じ〜〜?」
もっと近寄ろうとしたら、
「おっ・・おまっ・・なっ何やっとんねん!」
って怒鳴るし。
「何って・・・」

・・・・・・・・・・あっ・・・

「あんた・・・ほんもんの平次?」
「はぁ〜?」
目の前に居る平次は更に眉間に皺寄せて、不思議そうな顔をしとる。
「なぁ〜。あたしらの関係て・・・なに?」
「お前・・・何言うてんねん?」
「ええから、答えて。」
平次はもう一度あたしの胸に視線落としてから、
「お・・・おさな・・なじ・・・み?」
って言うた。
どこ見て、何で疑問符やの?
そやけど、
「正解や。」
に代わりはないな。

記憶・・・戻ったんや。

さいでっか。

「はぁ・・・」
自分でも信じられへんくらい、気の抜けた溜息が零れてしもた。
これで、恋人ごっこもおしまいやんなぁ。
今度こそほんまに平次とさよならするんやなぁ、て俯いてしもてた顔上げてみると、平次はま〜だあたしの胸を見とった。
しかも、『ごっくんっ!』て生唾飲む音がモロ聞こえて来るんやけど。

「・・・・・」

隠そ。

タオルケットを引っ張って今更やけど胸元を隠そうとしたら、必然的に平次の・・・がモロ見えてしもた。
やって1枚しかないねんから。
それに気付いた平次が慌てて、
「なっ何すんねんボケッ!」
てタオルケット引っ張ったから、あたしがまた素っ裸になってしもうたやん。

「・・・・・」

ボケ?

まぁええわ。
しゃ〜ないからそのまま立ち上がろうとしたら、
「アッ・・アホッ!立つなっ!」
やって。

「・・・・・」

アホ?

なんやムカツクわ。
なんであんたがタオルケットに包まっとって、あたしが裸やの?
普通は逆やろ?
ほんまムカツクわ。

帰ろ。

あたしは座ったまま平次に背中を向けて、そんまますっくと立ち上がった。
「なっ・・・。お・・お前には恥じらいっちゅうもんは無いんか!」
やったら、あんたが抱えとるタオルケットを寄こし〜や。
「誰があたしの服脱がした思うてんの?」
「俺と・・・ちゃうで・・・」
まぁ、その様子やったら覚えてへんやろな。
もうアホらしなって手早く自分の服を拾い集めると、バスルームで身支度を調えた。

今更この平次と押し問答をしても、何も始まらへんし。

平次は何か叫んどったけど、
「もう会うことも無いやろけど、元気でな。ほな、バイバイ平次。」
言うてさっさと平次の部屋を後にした。

それにしてもや。
なんちゅうタイミングの悪い男なんやろか。
記憶が戻るんがもうちょい遅かったら、何もなかったことに出来たんに。

あたしの記憶の中だけにしもうておけたんに・・・

自分でも気付かんうちに、涙が溢れ出しとった。

これで本当に平次とはさよならやと思うてたから。


悲劇のヒロイン気分やったのに・・・


何があかんかったん?





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