始発で神戸のアパートに帰ったあたしは、気持ちを紛らわしたくて、だるい体を引っ張り大学の講義を1限目から受けた。
そやからやろうか、まだ数時間前のことやのに昨日の出来事が夢の様やわ。
たった1日。
時間にしたら半日程度やったけど、平次と恋人同士になれた。
今思うと、嬉しいような悲しいようなそんな時間やったなぁ。
怒涛のような、巡るましい1日。
言うんもおうてるなぁ。

「はぁ・・・」

やっぱ、あたしに京都は鬼門やわ。
当分近寄らんとこ。

そう思うて終わったばかりの2現目の教科書なんかを鞄に入れながら、さっきから何や騒がしい窓の外を眺めた。
遠くに見える校門近くに人だかりが出来とる。
「なんやろね?」
同じように見とった友達が、外に居る子に声を掛けた。
「なぁ!なぁ!なんかあったん?」
すると、

「服部平次が来てるんや〜〜〜!!」

と興奮した大声が返って来たやん。
さらに、
「えっ!ほんまにっ!」
「ほんま!ほんま!うちさっき近くで見たんやから!」
「え〜〜!!」
「ほんもん初めて見たけど、めっちゃカッコええよ〜〜!!」
「マジ〜〜!!」
なん続いとるし。
「和葉!わたしらも見に行こっ!」

別に見に行くほどのモンやないから。

「あたしはええわ。興味無いし。」
ハイテンションであたしの腕を引っ張って行こうとする友達に、気の無い返事を返した。
「何言うてんの〜!服部くんが間近で見れる機会なん、めったに無いんやで!」

いや、もう飽きるほど見てるから。

あたしの学部には改方からの生徒はおらへん。
やから、誰もあたしが平次の幼馴染やということも知らへん。

なんや焦ってあたしのことを急かす友達らに、
「ほんまにあたしはええから。それに、これからちょっと用があって行かなあかんとこあるし。」
と教室を出てから皆と反対方向を指差す。
「ほな、わたしら行くな。またね〜和葉〜バイバイ。」
言う友達らにいつもの笑顔で手を振って、見えなくなるのを確認する。
行ったな。
よし。


逃げよ!


あたしは正門とは反対側にある裏門に向かって猛ダッシュ。
友達らの前では平静を装っとったけど、内心はバクバクや。

なんで来るんよ平次!

あんたが来たらあたしの平穏な日々が終わるやんか!

あ〜!昨日ちゃんと説明してから帰るんやったわ〜!

裏門から飛び出すと丁度ええ具合にタクシーが居ったから、それに飛び乗ってしもた。
いらん出費は痛いけど、今はそうも言うてられへんし。
とくにかく早くアパートに帰って、部屋に篭ろ。
そう思うてたのに・・・

「遅いで、和葉。」

げっ!

「お前の考えとることなんお見通しじゃ!ボケッ!」

なっ・・なんで、あんたがここに居るんよ!

「お前ん大学のツレが、丁寧に教えてくれたで。」

なんですと!

「な〜んや勝手に、事件の捜査やと思うたみたいやったな。”和葉何したん?”てしきりに聞いとったしなぁ。」

・・・・・・・・・・。

「ええ友達やな〜和葉。だぁ〜れも俺らのこと知らんし。」

・・・・・・・・・・誰が言うかいな。

「そやから、俺の和葉をよろしゅうに!って挨拶しといたったわ。」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ〜〜??

「ぷっ・・・お前・・・顔に出過ぎや・・・・くく・・・」

平次は腹を抱えて笑うとる。
「かっ勝手に人の心を読むなっ!!ちゅうか〜!何訳分からんこと言うてんの!!」
あたしが怒鳴ってんのに、平次の笑いは止まらへんみたいや。
「そないに怒らんでもええやんけ。俺ら恋人同士なんやろ?」
「ちゃう!!」
「なんでや?京都のおばちゃんも言うてたで。」
「あっ・・・」
・・・もう確認とったん?
ほんま探偵いうんは嫌な人種やな・・・
「そ・・そやけど、あたしとあんたは恋人とちゃう!ありえへんから!あたしと平次はただの幼馴染やから!!」
ああ〜なんであたしは同じセリフを、同じ相手に言うわなあかんの?
しかも本人に〜〜〜!!
て思うたけど、その後の平次の反応はまったく違うもんやった。

「やったら何でや?」

ほんもんの平次は急に真面目な顔になった。

「何で俺と寝たんや?」

恐いくらい低い声になった。
「あんたと・・・ちゃう・・・」
「俺は俺やろが?」
「・・・・・」
思わず目を逸らしてしまったあたしを、
「ちゃんと俺の目ぇ見て答えんかいっ!和葉っ!」
と両肩を?んで無理矢理自分の顔の前に持っていった。
「 ! 」

平次の顔が・・・

あまりにどアップだった為に、条件反射で俯こうとしてしもた。
「どぁっ・・」
結果・・・平次に頭突きを食らわしてもうた。
「ご・・ごめん・・・」
よっぽど急所に当たってもうたんか、平次は蹲って唸っとるし。


どないしょ・・・


ほんまに、色んな意味でどないしたらええん?





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