「おい。」

ひっ!
恐過ぎやであんた・・・

「何か言うことがあるんやったら、聞いたるで。」

と・・特にございません・・・

「遠慮せんでもええんやで?」

いえ、させて頂きます・・・

「・・・・・・」
「・・・・・・」
平次と居って、こんなに無言の時間が恐い思うたんは初めてや。
それ程に恐い。
マジで恐い。
例えあたしの可愛らしい真っ白なベットの上で、ピンク色の可愛いハート模様のお布団に入ってても、恐いもんは恐い。
あたしは寝たまま平次に背中を向けとるから、平次がどんな格好してるか分からへんけど、声はすぐ後ろから聞こえて来る。
目の前には壁、後ろに平次。

あたしの人生短かかったなぁ・・・

「おい、こら和葉。返事くらいせぇ。」
「・・・・・・」

寝たふりってあかんかな?
それともやっぱ、死んだふり?

「・・・・・・まぁ、ええわ。お前がその気なんやったら・・」
「ひゃっ・・」
突然肩を後ろに引っ張られて、気付けば平次に組み敷かれた状態やった。
間近で見下ろして来るその顔は、本気で怒ってる顔や。
「な〜んで目ぇ逸らすねん。」
恐いからに決ってるやんか。
「ほな、そうしとれや。」
平次は行き成りあたしの首元に吸い付いた。
「ちょ・・やっ!」
ありったけの力で平次の体を押し退ける。
「別にええやんけ。どうせお前、また俺と寝たんやろが。」
「あんたとちゃう!」
「何がちゃうねん?」
しゃべり方は普通なんやけど、この平次の目ぇはマジ恐いし、出とる殺気も変わってへん。
やけど、これは絶対に認められへん。
「あっちの・・・もう1人の平次はあたしのこと『好きや』て言うてくれた。やから、あんたとちゃう!」
「・・・・・・」
あたしを抑え付けとる平次の力が、僅かに弱くなった。
「あ・・あたしのこと可愛い言うてくれたし、いっちゃん好きなタイプやって言うてくれた。あんたそんなん言うてくれたこと無いやん!」
「・・・・・・」
もうやけっぱちで捲くし立てた。
平次は暫らく目ぇ見開いて聞いとったけど、やがてゆっくりとあたしから離れていった。
「何口走ってんねん俺・・・」
消えそうな声やったけど、そんな風に聞こえた。
「平次?」
ついでに、さっきまでのすんごい殺気も消えうせとって、急に大人しうなったから逆に心配になるやん。
なんせ、これは本物の平次やし。
俯いて顔に手ぇ当てとるのを下から覗き込んでみた。
「平次?」
へっ?
なんで、あんたが福神漬になってんの?
「どしたん?顔、赤いで?」
「アホッ!見んなっ!」
言うて後退るから余計気になって覗き込んどったら、
「うわっ・・」
「きゃっ・・」
2人してあたしの小さなシングルベットから落っこちてしもた。
「ごっごめん!わざとやないんよ。ほんまやから!」
とにかく謝っとかな、またさっきの鬼平に戻られても困るやん。

「痛たたた・・・朝からえらい積極的やなぁ和葉。」

「あっ・・」
仰向けで寝ている平次の上にあたしは馬乗り。
そやけど・・・
「俺と何かあったんか?」
「平次?」
「言うてもお前の彼氏の方やで。」
「へ〜じぃ〜〜!」
あたしは思わず抱き付いてしもた。
「どないしてん?」
「めっちゃ恐かってん・・・」
この平次はあたしを優しく抱き締めてくれて、ゆっくり頭を撫でてくれる。
「話してみ?」
平次の胸に顔を寄せて抱き付いたまま、さっきの出来事を話した。
一通り話し終えて平次が最初に漏らした言葉は、
「我ながら・・・不憫なヤツやなぁ・・・」
やった。
何が不憫んなんかあたしには分からへんけど、そこは聞かんとこ。
今はこの平次が側に居ってくれるから。
あたしにはそれだけでええねん。

ほんまにこれでええねんけど・・・そういう訳にもいかへんねんなぁ・・・


なんとかならへんのかな?





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