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「おはようございま〜す!」 ここに来るんも久しぶりやわ〜。 「やぁ和葉ちゃんいらっしゃい!」 おばちゃんがほんまに内から走り出て来てくれた。 やってな、いつもは殆ど足音なん立てへんおばちゃんが、ぱたぱたぱたぱたって近付いて来るんがはっきり分かる程の音さして来たんやもん。 「おはようございます、おばちゃん。ご無沙汰してました。」 今迄散々おばちゃんの誘いを断ってたんやから、ここは丁寧に挨拶しとかな。 「もう、何改まった挨拶なんしてんの。さぁさぁ早う上がって、和葉ちゃん。」 おばちゃんはあたしのどこか遠慮がちな態度なん気にせずに、あたし専用のスリッパをすっと出してくれた。 このスリッパ、ずっと置いとってくれたんや。 ほんまありがとな、おばちゃん。 あたしがなんてお礼言うかと思っとったら、 「平次やったら部屋に居るさかい、早う行ったって。」 て笑顔で言うてくれた。 「うん!ほな、おじゃまします。」 そんなおばちゃんの気遣いが嬉しくて、素直にお言葉に甘えることにした。 神戸で彼氏ん方の平次と約束したのが、今日のデート。 もう色んな事すっとばしてあっちの関係まであるんに、まともなデートしてないんは変やからって言うてくれてん。 ほんまはあたしん家まで迎えに来てくれる予定なんやったんやけど、待ちきれんで来てしもた。 やって朝6時から起きて朝シャンして服選んで、ちょこっとメイクもして、準備万端になったんが8時なんやもん。 約束の10時までなん待ってられへんわ。 平次は昨日の晩にこっちに着いたいうメールくれたから、こうして押し掛けて来ても大丈夫。 スペシャルな笑顔を作って、『平次〜!おはよう!今日はめっちゃええデート日和やで〜!』て言うつもりやったのに、 「平次〜!おは・・」 になってしもた。 ごっつう目付き悪っ! 「お邪魔しました。」 扉を開いた手で、そのまま速攻閉めた。 なんで・・・本物なんよ・・・ 「はぁ・・・」 テンション100%反転して踵を返したら、階段の下にニコニコとワクワクが合さった笑顔のおばちゃんと目が合うてしもた。 「あは・・」 何とか笑うとおばちゃんもニコニコ。 こ・・これはあたしに行けと・・・ もっかい平次の部屋の方向いておばちゃんを見ると、コクコクと頷いてはるし。 い・・行かなあかんのやね・・・ 大きく深呼吸してから思い切って扉を、少〜〜しだけ開けて中を覗いた。 あれ?真っ暗?なんで? って思うてると、 「何やっとんねん。」 と真上から低い声が・・・ 「ひぃ〜・・・うぐぅ・・」 悲鳴を上げるより先に口を手で押さえられて、そのまますんごい勢いで部屋に引っ張り込まれた。 「アホウ。朝っぱらから変な声上げんな。おかんが飛んで来るやろが!」 「う〜う〜」 おばちゃんやったら、そこに居るよ。 「ええか?大人しうしとれよ。」 「ん〜ん〜」 分かったから早手ぇ離して。 で、平次が手の力緩めた途端に、 「おば・・んんん〜〜〜!」 叫ぼうとして失敗。 「ダ〜ホ!何さらしとんじゃ!」 「和葉ちゃん?」 おっおばちゃん! 助けて!おばちゃん! 「何でも無いから、ちょうあっち行っといてくれ。」 「そやけど?」 「コイツが短い足で、けつまづいただけや。そやから何も心配いらん。」 「そんなら、ええけど。」 「2人だけで話しがしたいんや。みなまで言わすなや。」 「ほな、ごゆっくり。」 おばちゃん・・・扉・・・開けようや。 結局、目の前の扉は一度も開くことなく、おばちゃんの足音は遠のいて行ってしもた。 あたしはと言うと後ろから平次にホールドされとって、口もしっかり塞がれたまま。 見たら一目瞭然やん。 めっちゃ不自然やん! ああ〜犯罪ってこうやって起きるんやなぁ。 「今度変な声出してみ、マジで犯すぞこら!」 あ〜ん、ほんまに犯罪者やん。 コクコクて頷いて、やっと開放してもらえた。 「おい。」 ジト目を平次に向ける。 「露骨に嫌そうな顔すんな。」 やって〜、あたしの彼氏やないんやもん仕方無いやん。 「アイツやなかったんが、そんなに嫌なんか?」 うんうん。 「ったく。少しは遠慮せんかい。」 やって〜。 「眉間に皺寄せんな。」 ふ〜んだ。 「口をへの字にすな。ちゅうか〜顔で答えんな!」 「あんたが声出すな言うたやん。」 「あのなぁ・・・」 ワザとらしく大きな溜息付いて、平次はドカッと椅子に座った。 「ほんで、今日はどうすんねん?」 「どうって?どうもせんよ?」 「デートするんやなかったんかい?」 「そうやったけど・・・」 あんたやったら意味無いし。 「って何で知ってんの?」 「ほれっ」 言うて平次がジーンズのポケットから、嫌そうにくしゃくしゃの紙を取り出した。 『金曜日に和葉とデートするから、絶対に用事入れんな!ついでに、実家に帰っとれ!』 おお〜!なるほど! あっ、もう1枚ある。 『ドタキャンしてみ、秘密ばらすで!』 秘密って何やろ? 「秘密って何?」 そう言うたら平次が慌てて、あたしの手ぇからその紙を引っ手繰った。 「秘密言うたら秘密や!気にすんな!」 そうなん? 別にええけど。 「で、何であんたなん?」 「も少し気にせんかいっ!」 「え?気にすな言うたやん?」 「・・・・・・」 平次は恨めしそうにあたしを見とる。 「和葉。」 「何?」 「好きや。」 「ふ〜・・・・・・・・・・・・ん?」 今、何て言うた? こ・・これ・・・本物やんな? あたしの耳おかしゅ〜なったんやろか? |
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