観覧車の順番が回って来て、せっかく2人で乗り込んだんに平次は相変わらず黙りこくったまんま。
くっ付いて座ってんのに、平次は腕組みして目前の座席をぼ〜と眺めとるだけ。
なんぼ話掛けても、相手にしてくれへん。
15分しか無いねんで?
あっ、もう後13分しか無いやん!
「へ〜じぃ〜。へ〜じぃ〜。へ〜じぃ〜。ぺ〜たぁ〜・・」
・・・・・・。
間違えてしもたやん。
しかも、まったく気付いてへんし。
・・・・・・。
こうなったらユキちゃんになって、ペーター振り向かせたる!
・・・・・・。
ユキちゃんて人間やったっけ?
やっぱここはハイジん方がええんかな?
絵本斜め読みしかしてへんから、内容忘れても〜たわ。

よっこらしょっと。

「か・・・・・・んっ・・」
平次の膝の上跨いで、両手で顔挟んで無理矢理あたしの方向かせてキスした。
あたしからこんなキスするんは、多分これが始めて。
傍から見たらあたしがペーター・・・また違た・・・平次襲うてるように、見えるはず。
まぁ、実際そうなんやけど。
止められへんから、角度を変えて何度も何度もキスをする。

いっつも平次に好き勝手されとったけど、自分が主導権握るんもええなぁ。

もう気持ちようて無我夢中でキスしとったけど、流石に息苦しゅうなって離れよ思た。

「んんっ!」
それなんに、いつの間にやら平次にしっかり掴まっとって、身動き取れへん。
「ん〜〜!」
嬉しいんやけど苦しい・・・
”嬉しい”と”苦しい”を天秤に掛けたらあさっりと”苦しい”が勝利したので、
「んんん〜〜〜〜ぷはぁ!」
両手で挟んどった平次の頭を、思いっ切り引っぺがした。
「はぁはぁはぁはぁ・・・」
文句の一つでも言うてやりたいけど、今は酸素補給が先決や。

「随分可愛ええことしてくれるやんけ。」

「 ! 」

「覚悟は出来てるんやろなぁ?」

「はぁはぁ・・・ペ〜タ〜?」

「誰がペーターやねん!おのれはハイジか!」

やっぱここはハイジなんや。

「低燃費って何?って何やねん?ユキちゃんがしゃべるか〜〜!」

あ、ユキちゃんでもOKなんや。

「って何言わすねん!!」

いやいや、あんたが勝手に言うたやん。

この激しくど〜でもええ1人コントは本物やん。
って・・・
「いつからあんたなん?!」
「さぁ〜いつからやろなぁ〜」
え〜と、え〜と、どっかで平次頭ぶつけたっけ?
買い物してる時は確かにあたしの平次やったしぃ、本物やったらこんな可愛ええドレス選ぶセンスは無いしな。
お昼食べてる時もデザートのシャーベットくれたから、あたしの平次やった。
さっきのチュッてしてくれたのも、ごっつう優しかったからあたしの平次で間違い無い。
ほな、どこで?
あたしが混乱してるのをいいことに、
「時間無いし、さっさと続きすんで。」
とまた無理矢理キスの続きを始めてしもた。
「んんんんん〜〜〜!」
今度は嬉しゅうのうて、苦しいだけやんか。

なんでせっかくの初デートで、最高のシチュエーションになるはずやった観覧車であんたやの!
いつ入れ替わったんよ〜〜〜!
あたしの平次を出せ〜〜〜!

どんなにもがいても逃げられへんで、残りの時間を本物平次とキスしたまま使い切ってしもた。
「こらっ、しゃきっとせぇ。」

・・・・・・このボケが・・・

誰のせいで立てへんと思うてんの!
酸欠で頭ぼ〜として、足ふらついて、手にも力入らへんし。
他にどうすることも出来へんから、仕方なく平次に寄り掛かって支えさせてあげとる。
周りからは相変わらず「ええな〜」とか「ムカツクわ〜」とか聞こえてくる。
ああ・・・これも傍から見ればラブラブバカップルなんや。
あたしはパラダイスから奈落へ落っこちたけどな。
「お前・・・あいつにいっつもあんなんしとるんか?」
「・・・・・・」
「答えや。」
「してへん・・・」
さっきのが初めてやったんやから、それを、あたしの勇気と努力を無駄にしおって。
「ほんまか?」
「やったら何やの?あたしの平次はあたしの彼氏なんやら別にええやん。」
「・・・”あたしの平次”ってなんやねん?」
「あたしの平次はあたしの平次やん。」
「平次は俺やで?」
「あたしの平次も平次やもん。」
「・・・・・・・・・・・・」
今度はこの平次もだんまりかいな。

どこで入れ替わったか知らんけど、なんとかならへんのかなこれ?

ほんま紛らわしゅうてしゃ〜ない。


いっそのこと両方彼氏ってあかんかな?





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