そのまま本物平次と服部家に帰ると、おばちゃんがビックリする様な豪勢なお夕飯を用意してくれとった。
お赤飯に尾頭付きの鯛、お刺身の盛り合わせにお野菜の天ぷら天こ盛り、その他ぎょうさん。

何かあったんかな?

しかもおじちゃんまで帰って来とるし、更にはお父ちゃんまで居るし。

ほんま、どないしたんやろ?

「2人が帰って来るんを待ってたんやで。ほな、まずは乾杯からしましょか」
訳が分からんまま、あたしはおばちゃんから差し出されたビールが入ったコップを受け取ってしもた。
あたしも平次も二十歳になっとるから基本的にはええんやけど、こうやって改めてビール渡されるんは初めてや。
そやけど何に乾杯するんやろ?思うてたら、

「平次と和葉ちゃんの婚約を祝して、かんぱ〜〜い!」

て、おばちゃんの嬉しそうな声が響き渡った。

「え?・・・・・・ええええ・・・え〜〜〜!」

こ・・・婚約?
こ・・・こ・・・こんやくて・・・こんやく?
こんにゃく・・・や無いねんな。

「ええ〜〜〜!婚約〜〜〜??だっ誰が?」
「もう、何をそんなに照れてはりますの和葉ちゃん。ささ、和葉ちゃんもぐ〜っと飲みなはれ」
プチどころか完璧なパニックを起こしてるあたしに、おばちゃんは笑顔でビールを進めて来る。
隣に座っとる平次はと言うと、平然と1杯目を飲み干して手酌で2杯目を酌んどるし。
「ちょ・・ちょっと平次!」
「何や?」
「何であんたは驚かへんの?」
「別にええやんけ、婚約くらい」
はぁ〜〜〜?!
何やのコイツ?
「ええことあるか〜!婚約やで婚約!こんにゃくちゃうねんで!」
「アホやろお前?」
「アホはあんたや!アホ平次!婚約言うたら、結婚を前提にお付合いすることなんやで!」
「それのどこがあかんねん?」
「どこがって・・・」
そういう問題ちゃうやんか!
あたしは自分の目ぇが泳ぎまくっとるのが、自分でも分かる。
やってお父ちゃんは黙々とお酒飲んでるし、おじちゃんは分かり難いけど機嫌ええみたいでお刺身の盛り合わせによう手が伸びてるし、おばちゃんはニコニコしながらあたしら見とるし、蚊取線香焚いてんのに蚊居るし。
そんで平次に視線戻したら、尾頭付きの鯛に齧り付いとるとこやった。

しかも前屈みになっとるから、後頭部が丁度あたしの目の前。
「平次、行儀悪いで」
丁度ええから、バシッと右手で勢い良く叩き倒したった。
「うぐっ・・」
平次は鯛を咥えたままお皿に突っ込んでしもたけど、かまへん。
「もう汚いなぁ。ほら、顔洗いに行くで」
口ん周りとオデコに鯛の皮やら骨やらくっ付けたまんまの平次を引っ張って、おばちゃんに何んか言われる前にお座敷の外に出た。
そのまま洗面台まで、直行や。
ここまで来たら、誰にも聞かれんやろ。
「平次?」
「・・・・・・」
多分あたしの平次になってるはずやのに、平次は鏡で自分の顔を凝視しとるだけ。
「なぁって、あたしの平次やろ?」
「和葉・・・次からはもう少し手加減してくれ・・・」
よう見たら、平次の顔にはお皿の跡もくっきりやったわ。
「かんにん。そやけど大変やで平次!あたしら婚約したみたいやで!」
「婚約?」
「そうやで!平次とあたしが婚約や!こんにゃくちゃうで!」
あたしの平次はちらっとあたしを見下ろしただけで、アホとは言わん。
流石あたしの平次。
「・・・・・・ちょう俺が居らん間に、また何ぞあったんか?」
そやっ。
「なぁ、いつ入れ替わったん?どっかで頭打った?」
「いや。観覧車に乗ったとこまでは覚えてるんやけどなぁ・・・」
平次は天上を見て、そんでまた鏡を見て、やっと顔を洗い始めた。
「そっから先は?」
「・・・・・・・・・・・まったく・・・や・・・・・・グァ〜〜〜〜ぺっ」
うがいまでせんでええのに・・・。
「あいつのこと考えとったら、何や眠うなったんは覚えとるけどなぁ」
「そこで入れ変わったんや・・・」
「そうみたいやな。ほんで、和葉はそれからどうしてたんや?また俺にキスでもされたか?」

思いっきりされたわ・・・

あたしが渋い顔したら、平次はタオルで顔を拭きながら大きな溜息を付いた。
「あいつも俺やからな、和葉目の前にしたら我慢出来へんのも分かるけどなぁ・・・」
「そうなん?」
小首傾げて上目使いで見上げたら、
「それがあかんねん」
とチュッてされた。

「それに言うたやろ?あいつは和葉を逃がさへんつもりやて」

真面目な顔してあたしの唇に触れながらそんなん言われたら、
「やったら・・・あたしはどないしたら・・・ええん?」
って言うしかないやん。
「俺と婚約したらええ」
「・・・・・・」
「嫌なんか?俺と婚約するんわ?」
「イヤとちゃう・・・ちゃう・・・けど」
「けど、何や?」
「けど・・・」

チュッチュッてキスしながら、そんなん言うなんずるい。
あたしがイヤて言われへんの知ってるくせに。

「あいつは俺で、俺はあいつや。俺かて和葉んこと逃がすつもりは無いで」
「あたしは・・・」
「ん?」
「あたしは平次がええの」
「分かってる」
「あたしはあんたがええの」
「俺も和葉がええ」

あたしはずっと平次が好きやった。
ずっとずっとずっと大好きやった。

そやけど・・・
あたしの平次にはあたしとの思い出なん何も無い。
幼馴染でもなければ、同級生ですら無い。

あたしの平次は平次であっても・・・あたしの大好きやった平次や無い。

「そんな顔すんな」
抱き締めてくれるこの腕は同じやのに。
「和葉を困らせたい訳や無いんや」
うん。
「これでも和葉の気持ちは分かってるつもりやで」
うん。
「和葉はあいつのことも好きなんやろ」
平次に思いっきり抱き付いて、そのことを認めてしもた。
「それでええのや」
「平次・・・」
「そやないと困るしな。俺らは切り離せるもんとちゃうし」
「ほんまにええの?」
平次の腕の中からそっと平次を見上げると、これ以上は無いいうくらいの優しい顔で微笑んでくれた。
やっぱり、あたしの平次は最高や。
「俺と婚約してくれ和葉」
もう、あたしにこの申し出を躊躇う理由なん無い。
「喜んで」


「いやぁ〜良かったわ!そうと決れば、お式はいつがええやろか?」


おっ!
お・・お・・おば・・・・・・おばちゃん!!

いっ・・いつからそこに居ったん?!





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